2019/03/05 17:00

複数の「人物像」演じ分け 丹波が戦場地獄を体現!――春日太一の木曜邦画劇場

 ニューギニア戦線で敵前逃亡の罪により銃殺された夫・勝男(丹波)の死因に納得のいかない妻・サキエ(左幸子)は戦後二十年以上、役所に再調査を求め続ける。そして、何度も門前払いになりながら、ようやく四人の目撃者に辿り着く。だが、その四人はいずれも異なる死に方を語った。

 頼りになる分隊長として総攻撃に参加しての勇敢な戦死。食糧難の中、部隊から芋を盗み出して射殺。戦友の屍肉を食った上に部隊に提供した罪での処刑。隊員たちと謀って横暴な上官を殺害した罪での銃殺――。そして、それぞれの回想の中で、丹波は全く異なる四通りの勝男像を見事に演じ分けている。

 ソルジャーとしての堂々たる表情、芋を口にくわえての情けない死に顔、人肉を「野ブタ」として勧める生気のない怪しげな風貌、狂気の上官を前にしての追いつめられた切迫感。丹波が提示してきた、この「四人の勝男」のいずれもが戦場の地獄を映し出す。

 そして圧巻は、最後に明かされる「五番目の証言」だ。銃殺を前に勝男は白飯を食わせてもらうのだが、この時の丹波の無表情の奥底に浮かぶ涙。ようやく白飯にありつけた悦びと、これが最期の食事になるという哀しみとがないまぜになり、その理不尽な運命が痛切に突き刺さってきた。

 本作を撮った深作欣二は後に多くの大作を監督するようになるが、その時の丹波はほとんどが「カネ篇」「義理篇」としての出演。それだけに、このコンビの貴重な「芸術篇」の一つだといえる。

(春日 太一/週刊文春 2019年3月7日号)



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