2017/09/02 11:00

又吉直樹が語る「どうして僕はダウンタウンと太宰治で笑ってしまうのか」

(c)榎本麻美/文藝春秋
(c)榎本麻美/文藝春秋

「テレビはつまらない」「テレビ離れ」など、テレビにまつわる話にはネガティブなものが多い。

 しかし、いまなお、テレビは面白い!

 そんな話をテレビを愛する「テレビっ子」たちから聞いてみたいというシリーズ連載の6人目のゲストは、9月9日、10日にユニットコントライブ「さよなら、絶景雑技団」の公演を控えているピースの又吉直樹さん!

 コント番組を通してお笑い芸人になることを決意した又吉さん。そんな中、出会った太宰治を始めとする文学。又吉さんが愛するお笑いと文学の関係を語ってもらった。(インタビューは#1よりつづく)

思い出し笑いのタイプなんです

――中学の頃には、すでにネタ帳とかも書かれていたとか。

又吉 そうですね。中2の時にはもう2冊目に突入していました。1冊目は手帳みたいなやつだったんですけど、2冊目はそれより一回り大きくて、普通のノートよりは小さ目なノートにずっと書いてましたね。

――いつも持ち歩いてたんですか。

又吉 持ち歩いてました。何か思いついたら書いて。それを中学2年になった時に、原(偉大=後に最初の相方となる同級生)に「ちょっと見て」って言って読ませたら「おもろいやん」「やろうや、これ」ってめっちゃ笑ってくれたんです。それでその日のうちに、「先生、又吉がこんなん書いてるから、ちょっとやっていい?」って言いだして。先生も「ほな今日、掃除の時間終わりか、帰りのホームルームの時間か、ちょっと時間やるから今日やれ」って話が進んで、2人で初めて壁に向かってネタ合わせして。原に「お前に飽きた」って言われた場所の近くやったんですけど。

――ははは、緊張ですね。

又吉 これがすっごいウケて。それでまた、お笑いしかないっていう思いが、また一段階上がった感じがしました。

――人を笑わすことに賭ける一方で、又吉さんは、笑うところが友達とずれてるって思ったことはありますか?

又吉 あぁそうですね、ずっと結構笑ってましたね。中1の時も、クラスの誰とも喋らないんですけど、「ずっとあいつ、ひとりで笑ってる」って言われるような感じ(笑)。なんていうんですかね、尾を引くというか、ずっと笑っちゃうんですね、思い出して。

――思い出し笑いのタイプなんですね。

又吉 そうなんですよね。高校ぐらいまではその癖が直らなくて、授業中もずっとひとりで笑ってました。先生が真面目に授業している黒板の両角に、シーサーが置いてあって「なんであの先生守られてんやろう」って思い始めたら我慢できなくなったり。2年生の時に、3年生の教室側の廊下をぼーっと見てたら、めちゃめちゃダッシュしている女子を、男子がめちゃめちゃダッシュして追いかけてるのを目撃してずっと笑ってたり。動物的なものがツボなのかもしれないですね。猛烈に走ってるとか、シーサーとか、ドリフのゴリラとか、寛平師匠とか。

――又吉さんのツボが動物系っていうのはちょっと意外な感じがしますね。

又吉 でも、実際の動物は苦手で触れないんです。

――そうなんですか!

又吉 象とか馬とかでかいのは触れるんですけど、ちっこいやつは触れないです。怖い。

――へぇー。猫とかもですか?

又吉 はい。触れないんですけど、動物の動画はいつも観てます(笑)。

太宰を読んだ時に、ダウンタウンさんっぽいなと思った

――芸人を目指し始める中学時代には文学にも出会われたと思うんですが、小説を書こうという思いはすでにあったんですか?

又吉 それはなかったんですけど、太宰を読んだ時に、ダウンタウンさんっぽいなと思ったんですよね。

――どんなところですか?

又吉 感じたことはあったけど、言葉にできひんみたいなものを、バッと取り出して表現できてしまうところかな。文学って面白いなと思ったきっかけも、そこなんです。ダウンタウンさんのコントでも、河童が人間に逆ギレされるやつ(「カッパの親子」)とか、一流の人じゃないと切り取られへん感覚だと思うんです。

――ダウンタウンのコントから連想する太宰作品には、例えばどんなものがありますか?

又吉 やっぱり「人間失格」ですかね。哀愁みたいなものと、お笑いが表裏一体である部分とか。あと「服装に就いて」というエッセイ風の小説があるんです。これは女物の着物を仕立て直した服で仕事をしてたら、友達が来て「ちょっと散歩せぇへん」って外に連れてかれる話なんですが、最初は三鷹から井の頭公園までちょっと歩くはずが、友達が急に酒飲みたいと言い出して阿佐ヶ谷まで出歩く羽目になる。その間、主人公は女物の格好で出てきたことをずっと後悔していて、卑屈な気持ちのまんま店に入る。で、いつもは友達と盛り上がるところなんだけど、こんな服を着ている自分へのイライラが募って、ついに友達を殴るっていう話なんですけど。

――ムチャクチャですね。

又吉 笑いながら読みました。こういう自意識の暴発みたいなものは、ダウンタウンさんに限らないんでしょうけど、僕の好きなお笑いに繋がる感じがありました。「畜犬談」とかも繋がりますね。主人公がとにかく犬嫌いで、ずっと犬のことを悪く言うんですけど、1匹の犬になつかれて飼うようになって、「もう捨てましょう、この犬を」って奥さんに言われても、「いや、まぁでも、もうちょっと飼ってみてもいいんちゃうか」みたいに、いつの間にか愛情が芽生えてるという話。これもなんか笑いながら読めるんです。犬のことをむちゃくちゃ悪く言う言葉の選び方がお笑いっぽいんですよ。そして、感情が次第に変わっていくさまを言葉で追っていくと何だか笑える。この作品なんかは、どこか落語っぽいのかもしれない。

――人間のいろんな感情がないまぜになって、笑えてしまうような話。

又吉 そうですね、人間の愚かさを含めた笑い。そもそも近代文学って三遊亭圓朝の落語の速記本から言文一致が始まって発展した歴史がある。だから漱石とか芥川とか太宰って、どこか落語っぽいところがありますよね。文学ってお笑いにどこかしら繋がっているんだと思います。

芥川賞のことは、とてもじゃないけどネタにできないんですよ

――最近読んだ小説でコントっぽいなって思ったものはありますか?

又吉 コントっぽい小説……。あ、教科書によく載っている短編ですけど、ヘルマン・ヘッセの「少年の日の思い出」。あれを読み返したんですけど、ちょっとコントになりそうだなと思いました。自分のコレクションより美しい蛾の標本を持っている奴がいて、それを盗んでポケットに入れたらグシャグシャになったという昔の思い出を、今後悔してるっていう話。あれ、文学の作品として面白いし、考えさせられることもいっぱいあるんですけど、この「思い出」を回想して語り聞かせている人のところに、蛾を盗まれた友達が来て「なんか昔のいい思い出みたいに語ってるけど、まだ許してないし」とか言いに来る感じの展開とか考えてしまいますよね。

――あはは(笑)。芥川賞受賞以降、いわゆる“作家先生”みたいな扱いをされてしまうことも多いかと思うんですが、それは今、お笑いをする上で邪魔になったりしませんか? 

又吉 正直言うと、僕じゃない人がこの状況にあったら、もっと笑いにできていると思います。でも僕は、小説が好きすぎるし、受賞で受けた恩恵というものも大きい。だから、芥川賞のことをとてもじゃないけどネタにできないんですよ。いやいや、芸人だったらそこは全部笑いにしようよ、と言う人もいるでしょうけど、その一線は越えられないですね。面白おかしくやっちゃったら、これから受賞する方や、文学というものに申し訳ない。お借りした部屋は、ちょっとでも借りた時よりきれいにして返したいんですよ。ただ、このスタンスがいずれ大きな笑いを生み出すんじゃないかとも思ってるんです。今、ふざけへんことで、味を残すというか、10年、20年とか経った時に、よりふざけやすくなるのかなという気はしているんです。

写真=榎本麻美/文藝春秋

(#3に続く)

またよし・なおき/1980年大阪府寝屋川市生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。2015年「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞。著書に、『第2図書係補佐』『東京百景』『夜を乗り越える』『劇場』などがある。

INFORMATION

「さよなら、絶景雑技団」
【会場】よみうりホール(東京都千代田区有楽町1−11−1 読売会館)
【日時】2017年9月9日(土)開演 18:30、9月10日(日)開演 18:00
【出演】ピース・又吉直樹、グランジ・五明拓弥、しずる、ライス、サルゴリラ、囲碁将棋・根建太一、ゆったり感・中村英将、井下好井・好井まさお、パンサー・向井慧、スパイク・小川暖奈
【料金】前売6,000円/当日6,500円(税込・全席指定)

「『やぁ』、朗読会」
【会場】よみうりホール(東京都千代田区有楽町1−11−1 読売会館)  
【日時】2017年9月10日(日)開演 13:30
【出演】ピース・又吉直樹、グランジ・五明拓弥、しずる・村上純
【料金】前売3,000円/当日3,500円(税込・全席指定)

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