2017/10/28 11:00

サニーデイ・サービスという居場所と「地方の時代」

(c)佐藤亘/文藝春秋
(c)佐藤亘/文藝春秋

サニーデイ・サービスのベーシスト田中貴さんは、全国さまざまな地方にあるカフェから呼ばれては、トークとライブのイベントを開催し好評を博しています。インタビュー後編は、ラーメン評論家としての「ラーメン愛」からアーティストにとっての音楽の場所、そして「地方カフェと音楽」の新しい可能性ついてまでお話を聞きました。

音楽の場所がライブハウスからカフェに変わってきている気がする

――田中さんはラーメンの本を出したり、食の番組に出たりと、ラーメン関連のお仕事も増えています。TwitterやFacebookでも全国各地の食べ歩きを投稿しているほどですよね。

田中 まあ、食べたいものを食べてるだけなんですけどね。やっぱりツアーで地方に行くと、味も麺もいろいろあって面白いんですけど、店にはいろんなオッサンもいるし、そういうのを含めて面白い。

――サニーデイ・サービスのツアー以外の時期も全国を回っていますよね。

田中 NORTHERN BRIGHTの新井(仁)さんと一緒に全国を回ってるんですよ。そっちはアコースティック形態のカフェライブなんで、移動もそれほど大変じゃないし、もっと細かく地方を回ることができる。そこで友達も増えるのが楽しいですよ。やっぱり主催の人とか、呼んでくれたカフェの店主とか、そういう人たちと終わって飲みながら話したりすると一気に距離が近づきますよね。そこでラーメンの情報も得られるし(笑)。

――ライブハウスのツアーではないんですね。

田中 もちろんライブハウスでやることもあるんだけど、聴く方にとっても、やるほうにとっても、音楽の場所がライブハウスからカフェに変わってきているような実感があります。特に今は、ライブができるお洒落なカフェが地方にどんどん増えてるんです。PAを置いてるところも多い。そういうカフェの店主で、もともとサニーデイ・サービスの大ファンだったような人が呼んでくれる。だから、常連のお客さんにも熱心にライブを告知して勧めてくれるし、僕らのことを知らない人達さえもが、お客さんにいたりする。そんな初めて聴いてくれたお客さんが「生の演奏って気持ちいいですね」って言ってくれるんです。着いてみたら、道を歩く人が誰もいなくて不安になるような田舎町でも、だいたい20~30人は集まってくれる。で、そのまま残る人は残って、終わったあとに乾杯してワイワイ。たいしたお金にはならないですけれど、こっちとしても毎晩演奏してる方が楽しいですからね。

前半にラーメントーク、後半にライブ

――カフェではどんな風にライブをやってるんですか?

田中 カフェにちょっとしたスペースを作って、みんなの椅子をそっち向きにして簡単に会場を作ります。最初のうちは、だらだらと話しながら曲を合間に挟んでいたんですけど、そのうち喋りも面白いからもっと聞かせてとリクエストが来るようになって。それで、今のスタイルとしては、前半にラーメンの話を中心にしたトーク、後半にライブ。

――「ラーメントーク&スライドショー&ライブ」と銘打ったスタイルですね。

田中 はい。散々くだらない話をした後に、新井さんがいい声で歌うという(笑)。この流れ、締まるんですよ、その場が。それで1時間なり2時間なりを、お客さんに楽しく飽きさせないで見せる。もちろん大きなステージでセットを組んで、派手な遊園地みたいにして見せる音楽の楽しさもあるんだろうけど、それとは全然違う、ほんとに近い距離でのライブですね。

――地方にカフェが増えたことで、弾き語りのような身軽な形でライブするミュージシャンも増えてきている実感はありますか?

田中 感じますよ。地方のカフェに行くと、そこに別のカフェの店主が来ていて、そこでまた誘われたりもする。そのつながりが広がって、実際、地方のフェスやイベントも増えていますよね。田舎町でも地元の音楽好きな人が、小さな野外フェスを運営していたりする。そういうところに呼ばれて演奏したりもします。

音楽も「地方の時代」と肌で実感しています

――ノーナ・リーヴスの西寺郷太さんやオリジナル・ラブの田島貴男さんもそういうスタイルで全国のカフェでトークや弾き語りのライブをやっていると聞きました。

田中 新井さんがそういうルートを開拓したんですよね。地方のカフェって、内装も東京のそこらのカフェなんかよりもお洒落なんですよ。家賃が安いので内装に凝れるから。そういうカフェをやってる音楽好きな人が、普段は好きな音楽を店で流して、たまに好きな誰かを呼んでライブをやって、それで年に1回は広場を借りてフェスをやったりする。そこには地元のバンドも仲間だから集まっている。音楽がちゃんと日常に根付いていて、しかもちゃんと格好よくて共感できる感じになっている。だからどこに行っても楽しいですね。地方の時代って言われていますけど、音楽をやっていると、それを肌で実感します。

自分の居場所がサニーデイ・サービスにある

――音楽する場所が変わっているのと同様、音楽産業のかたちも大きく変わってきています。サニーデイ・サービスが今年リリースした「Popcorn Ballads」も、Apple MusicとSpotifyのストリーミング配信限定で20曲以上を収録、しかもリリースされた後に収録曲が変更になるという、日本では前例のないリリース形態でした。こうした活動も反響を呼んでいるわけですが、田中さんはどう感じていますか?

田中 何がなんだかわからない感じですよ(笑)。途中経過もどんどん変わっていくし、あれはあれで実験的な感じですね。僕にはない、曽我部の発想だなって思いますよ。やっぱり突き詰めるだけ突き詰めて、厳選した曲を収録するというのが今までの形だったので。

――今のサニーデイ・サービスというバンドは、すごく不思議な状況になっていますよね。数年前までは曽我部恵一というソロ名義があって、その一方で曽我部恵一・田中貴・丸山晴茂という3人でやっているバンド形態の活動がサニーデイ・サービスだった。しかし今は晴茂さんが体調不良で離脱していて、最新作では曽我部さんが一人で作ったヒップホップのスタイルのような、明らかにバンドサウンドでない曲も新作アルバムに収録されている。だから、今「サニーデイ・サービスとは何なのか」という定義が、あやふやになっている気がします。

田中 そうなんですよね。正直、僕としてもわからないですよ。丸山君が参加できないのはやむを得ない事情ではあるんだけど。かといってバンドを止めるわけにもいかないし、丸山君がいたらこういう音にもなってないし。今はレコーディング技術が進歩して、なんでも家でやれるようになっている。だからバンドでスタジオに入って音を合わせるということもどんどん減っている。打ち込みでリズムを作ったり、曽我部がドラムを叩いたりみたいなことも簡単にやれるようになってきた。そうするとバンド形態ではなくなってくるんですよね、自然と。だから「じゃあ、俺は何なんだ」という思いが出てきていますね。そのぶん、ライブがアーティストにとっても貴重な場になってきていて、「自分の居場所がサニーデイ・サービスにある」ということを示せる場所になっている感じがします。

エンケンさんが教えてくれたこと

――地方の小さな活動にせよ、ライブの空間にせよ、場所の重要性が増しているんですね。

田中 ライブに立つことについては、ここ最近、気持ちの入り方が変わってきています。去年、エンケン(遠藤賢司)さんとライブをやったときに、自分はステージの上でちゃんと客に名乗りを上げるんだということを言われて。「そうだよな」と思ったんですよね。やっぱり「俺は俺だ」というのをちゃんと見せるのがプロのミュージシャンである、と。当たり前のことかもしれないけど、そこに改めて気付かされたんですね。地方カフェで、30人規模のお客さんに近い距離で楽しんでもらう時だって同じです。レコーディングの形も、音楽の流通の形も変わってきていますけど、音楽する場所の重要さは変わらないものだと思っています。

取材・構成=柴那典
写真=佐藤亘/文藝春秋

INFORMATION

サニーデイ・サービス、師走の東京・大阪ワンマンライブが決定!
『DANCE TO YOU』以降の曲を中心とした、サニーデイ結成25年目の2017年を締めくくるライブ!
<DANCE TO THE POPCORN CITY>
12/18(月)東京 恵比寿リキッドルーム
12/21(木)大阪 梅田クラブクアトロ
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ストリーミング配信のみという前代未聞のリリースで度肝を抜いた、サニーデイ・サービス最新アルバム『Popcorn Ballads』が、ついにCD・LPとして12/25に発売決定!配信時の収録内容から大幅に改訂された、全25曲100分超の壮大なミュージカル・ジャーニー!19年ぶりに行われた日比谷野音公演の模様を収めたライブDVD『サニーデイ・サービス in 日比谷 夏のいけにえ』も同時リリースです!

たなか・たかし/1971年生まれ。サニーデイ・サービスのベーシスト。2000年のバンド解散後、山下達郎氏が所属するスマイルカンパニー内の新人開発ロック部門のチーフとしてスクービードゥーのディレクション、マネージメントを手がける。退社後、国内外多くのアーティストのサポートミュージシャンとしての活動の他、スネオヘアーの作品を共同プロデューサーとして多数リリース。2008年のバンド再結成後も、声優アイドルユニットや、ボーカロイド作品までプロデュース業は多岐にわたる。2018年放映のアニメ『らーめん大好き小泉さん』では、劇伴にも初挑戦する。音楽以外では、趣味である食べ歩きの知識を活かし、CSフジ『ラーメンWalkerTV2』では乃木坂46をゲストに迎えるメインMCとして、NHK『マイあさラジオ』ではレギュラーコーナーを担当するなどメディアでも活躍中。他に、文筆業も連載を月に三本抱えるなど、多方面にわたり精力的に活動中である。

(「文春オンライン」編集部)

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