2017/11/22 17:00

桐谷健太『火花』を語る「上京したての絶望を考えたら、俺もやるなあと」

©文藝春秋
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芥川賞を受賞した又吉直樹の小説 『火花』 がついに映画化。客に媚びない笑いを追求する漫才コンビ「あほんだら」の神谷(桐谷健太)に心酔し、弟子入りを志願する「スパークス」の徳永(菅田将暉)。自分らの笑いを信じ、夢を追う者たちの青春物語に、笑いのプロの板尾創路がメガフォンをとった。出演者全員関西人。主演の桐谷健太が語る「映画」と「笑い」と「好きな本」。

◆ ◆ ◆

映画のお話をいただいたときは「ほんまに、来たでー」

――原作の小説『火花』は読まれましたか?

桐谷 はい。まだドラマ化の話が出る前に、友達が貸してくれました。すみません。買ってはいないんです (笑)。そのとき友達が、「もし、これが実写化されたら、健ちゃん、絶対、神谷役合うと思うわ」と言ってくれたんです。だから、映画のお話をいただいたときは、縁を感じましたし、うれしかったです。「ほんまに、来たでー」と(笑)。

――読まれた感想は?

桐谷 芥川賞をとりはったから、難しい話なんかなと思っていたら、めっちゃ読みやすかった。くだらん話をしながら時間が過ぎていくとか、神谷と徳永が朝までつるんで飲む感じとか、わかるなあと思いながら読んでいました。初めて読んだときは、神谷という人物が一人の人間に思えなかったというか、又吉さんの思う、いろんな先輩方のエッセンスが含まれているのかなと想像していました。

――神谷役を演じるにあたって、どんなことを大事にしましたか?

 神谷は奇抜なこともしますが、そこまでぶっ飛んでいるイメージはなかったんです。大阪にはもっと変な人がたくさんいますから(笑)。天才肌と言われる神谷をどう表現したらいいのかなと悩んでいたんです。あほんだらの相方・大林役の三浦誠己くんとは、代々木公園やカラオケボックスで、よく漫才の自主練をしていたんですが、あるとき、バラエティ番組に出ている俺を見て三浦くんが「桐谷健太がおもろいと思う言い方、おもろいと思うことをやればええと思う。それがきっと神谷になるから」と言うてくれたんです。彼はもともと芸人さんなので説得力があったし、めっちゃうれしかったですね。笑いってどうしても感覚的なものだから、神谷の間はこう、と決めても、自分がおもろいと感じられないと嘘になってしまう。奇をてらわなくていいし、自分の信じる間、おもしろでやっていけばいいと、言われてはっとしましたね。

子どものころ、そのへんのおっちゃんがみんな面白かった

――俳優というより、芸人として生きていたように見えるくらい、役にはまっていました。

桐谷 もともと子どものころから、人を笑かすのが好きだったんです。小学校の卒業アルバムでは、将来の夢に「コメディアン」と書いていましたから。いま思うと、お笑い芸人さんなんですけど、職業の名前がわからんかった。友だちに聞いたら、「コメディアンちゃう?」と言われてそのまま書きました。「コメディアン」って、なかなか言わないから、一周まわって面白いですけどね(笑)。

――当時好きだったコメディアンは?

桐谷 特別この人というのはなかったんですが、『オレたちひょうきん族』やダウンタウンさんの『4時ですよ~だ』なんかをよく観ていました。あと、そのへんのおっちゃんがみんな面白かったんですね。おとんが連れて行ってくれた飲み屋のおじさんらの会話が面白くて。

――子どものころから、笑いの英才教育を受けていたんですね?(笑)

桐谷 高校でもみんな、普通にボケツッコミしていましたしね。笑いは、テレビを見て学ぶというより、育った環境のなかに自然にあったと思いますね。

――『火花』では、徳永のもがいた10年間が描かれていますが、ご自身と重なる部分はありましたか?

桐谷 もちろん、売れずにもがいていた、絶望を感じていた時期はありましたけど、今思えばそのときにしかない面白さも確かにありました。だから、物語のなかの売れない芸人たちの感覚は共感するところはあります。役者には脚本があって、1のものを1のままやったり、100や1000にする仕事ですが、漫才は自分たちで0から作り上げるもの。観客に理解されるものを作るのか、笑えんかったら笑えんでええと突き放すのか。神谷はワイルドなところもあるけど、笑いの分析もちゃんとしているから、わかりやすい笑いをやれば、売れるんじゃないかと思いましたけど、そこをしないのが神谷なんでしょうね。

諦めない才能みたいなのがあったから

――『火花』はくすぶっている人のための映画じゃないかと思います。桐谷さんは苦労された時期をこえて結果を出している。そんな桐谷さんの実人生も重なって、観る人の胸にぐっと迫るところがあるように思います。

桐谷 ほんまですか? 俺も5歳からテレビの画の中に入る人になりたいと思っていました。運やまわりの人の支えがあり、こうやって主演をやらせてもらえて、ほんまありがたいと思います。上京したての絶望を感じていたころを考えれば「俺もやるなあ」と思わないでもない (笑)。でも、ほんまに真っ暗闇の時期を経験したから、神谷のセリフが言えたんだと思います。「やらんかったらよかったって思う奴もいてるかもしれんけど、(淘汰された奴らの存在って)絶対に無駄じゃないねん」。実際、役者を途中であきらめた友達のことも思ったし、俺も消えかけていたけど、消さずに火を灯し続けられた。諦めない才能みたいなのがあったからやれただけで、どうなるかわからなかったですから。

――芸人や俳優に限らず、すべての、夢をあきらめた人に向けられた言葉なのかもしれません。

桐谷 そうですね。神谷のあのシーンのセリフはすごく好きです。演技でも、「誰もやらない芝居をしてやろう!」と思った時点で、他の役者がいて、そんなライバル心を持てたから、成立すること。実際は共同作業のようなものですよね。誰も恨む必要はないし、誰に嫉妬することもない。「絶対に全員必要やってん」は、すごいセリフだと思います。

――映画のラストには、菅田将暉さんと「浅草キッド」を歌われています。いかがでしたか?

桐谷 板尾創路監督が、「関西の芸人の話やけど、『浅草キッド』を歌うことによってまた広がりが出る」とおっしゃったんです。僕も好きな歌だったし、作品の人物と重なる歌詞。めっちゃ気持ちを込めて歌えました。前奏なしに、桐谷のアカペラからはいってほしいと監督がおっしゃったんです。あの歌が流れてエンドロールが終わるまで、板尾演出なんやなと思いました。

――最後に、小説『火花』の推薦文をつけるとしたら?

桐谷 わあ。国語のテストみたい。難しいな(笑)。

 そうですね。神谷目線で言うと、「認められようが認められまいが、自分が面白いと思う、生き方をするんや」……ですかね。

撮影/松本昇大 ヘアメイク/石崎達也 スタイリスト/岡井雄介

INFORMATION

映画「火花」
11/23(木・祝)全国東宝系公開
監督:板尾創路/原作:又吉直樹/出演:菅田将暉、桐谷健太、木村文乃 http://hibana-movie.com/

【桐谷健太さんがすすめる2冊】

『火花』  又吉直樹
売れない芸人・徳永が、天才肌の先輩芸人・神谷と出会い、互いに夢を追いながらも道を違えていく様を、細やかな筆致で描く。「神谷にも徳永にも芸人さんたちにも感情移入しました。くだらん話をしながら1日が過ぎていくところとか、わかる! と思いながら読みましたね。実写化するなら神谷は健ちゃん合うと思う、と友達が言ってくれてうれしかった」

『片想い』  東野圭吾
哲郎は、大学のアメリカンフットボール部の同窓会の帰りに当時マネジャーだった美月に遭遇。彼女は男の姿をし、殺人を犯したと告白した。「自分たちが一番輝いていた時期を取り戻すために主人公は奮闘します。友情をとるのか、真実をとるのか。いろんな夫婦のあり方も示しているサスペンスをお楽しみください(笑)」

桐谷健太/きりたにけんた 1980年生まれ。大阪府出身。ドラマ「九龍で会いましょう」(02 CX)で俳優デビュー。主な出演作にドラマ「ROOKIES」(08 TBS)、「龍馬伝」(10 NHK)、「カインとアベル」(16 CX)、「片想い」(17 wowow)、映画『オカンの嫁入り』(10)、『バクマン。』(15)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(16)、『彼らが本気で編むときは、』(17)など。16年にアルバム『香音――KANON-』をリリース。

(黒瀬 朋子)

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