2018/05/02 11:00

東出昌大×柳家喬太郎「二ツ目ブームと名人について語ろう」 落語“大好き”対談【前編】

人気落語家・柳家喬太郎師匠(左)と無類の落語好き・東出昌大さん(右)がたっぷりと語った
人気落語家・柳家喬太郎師匠(左)と無類の落語好き・東出昌大さん(右)がたっぷりと語った

空前の落語ブーム。大の落語ファン・東出昌大さんが、敬愛する噺家・柳家喬太郎師匠とじっくり語り合いました。異色の落語対談、前編は志ん朝から白鳥までを挙げての「名人とは何か」、そして現在の二ツ目ブームをめぐって……。( 後編 に続く)

iPodで落語が好きになった

東出 師匠、お久しぶりです。

喬太郎 何年か前、『an・an』でいっぺん、対談させていただいて以来ですね。

東出 最近も喬太郎師匠の高座を拝見しましたよ。ウルトラマンの格好をなさっていて(笑)。

喬太郎 ああ、ウルトラマンっぽい柄の着物の時だ。お忙しいのに、寄席に来てくださってるんですね。東出さんが(春風亭)一之輔君と共演された『落語ディーパー!』(Eテレ)、あれ面白いですね。番組を見ていると、東出さんの落語に対する愛がものすごい伝わってきますけど、落語を聴くようになったのはいつからなんでしたっけ?

東出 19歳の頃からです。父から「このCD、iPodに入れて」ってお願いされて渡されたのが落語のCDだったんです。その時は、十把一絡げに古典芸能って「なんか古臭いもの」って思っていたんですが、iPodに入れながら興味本位で聴いていると、「あれ、なんかこれ、面白いぞ」って。それでだんだん、長めの電車移動の時に聴くようになったりして、好きになったんです。

喬太郎 うれしいですよね、そうやって何かがきっかけで落語を好きになってくれるって。

喬太郎師匠の『時そば』のマクラが大好きで

東出 「落語を聴き始めるなら何から聴けばいい?」って聞かれることがあるんですけど、その時は必ず喬太郎師匠の『時そば』を薦めているんです。

喬太郎 ハハハ、僕の「時そば」ですか! ありがとうございます。

東出 師匠がマクラで話す、コロッケそばのコロッケの気持ちの話が大好きなんです(笑)。だんだん、つゆが衣に浸み込んでいくさまを、師匠が座布団の上で表現するわけですけど……。

喬太郎 なので、ちまたでは喬太郎の『時そば』は「コロッケそば」だって言われてる。東出さんには、特に繰り返し聴くような噺家はいるんですか?

東出 まわりまわって結局、志ん朝師匠に落ち着きます。DVDは全部持っています。

喬太郎 全部!

東出 CDもほとんど持ってます。最近も東宝名人会での『粗忽長屋』が収録されたCDを買いました。

喬太郎 へぇ、志ん朝師匠の『粗忽長屋』ってあんまりイメージがないな。それは珍しい。

志ん朝師匠が楽屋に入ると、空気がパッと変わる

東出 志ん朝師匠の落語は品があって、華があって、語り口も滑らかで、何回聴いても飽きがこない。「船をもやっとく」とか、江戸の言葉がまた耳に心地よくて。師匠はもちろん、間近で志ん朝師匠を見たこともあると思いますが、どんな存在感がありましたか?

喬太郎 楽屋口に師匠がみえたっていうだけで、楽屋の空気がパッと変わるんですよ。それはこちらが緊張するというのもあるんですけど、それ以上に周りをパッと明るくする華がある。先代の小さん師匠や、いまだったら小三治師匠にもそんな雰囲気ありますね。

東出 さん喬師匠は?

喬太郎 うちの師匠ですか? うちの師匠は誰からもほっといてほしい人なんで、ほっといてあげてください(笑)。もちろん、うちの師匠も権太楼師匠も、存在感はおありになるわけですけど、志ん朝師匠には、またちょっと違う一種独特なオーラがありましたね。

東出 志ん朝師匠はまさに「名人」という言葉が似合う方だと思うんですけど、でも名人って一体なんなんだろうって思うんです。定義が難しいというか……。

「名人」とは何か?

喬太郎 確かに難しいんですよ。僕自身、「名人とは何か」みたいな考えは歳をとるにつれ、いろいろ変わってます。例えば「昭和の名人」といえば、圓生、文楽、志ん生だったりするんでしょうけど、何か決まった「名人の条件」というものがあるわけではないですからね。

東出 名人というと、ものすごい高みにあるような印象があって……。

喬太郎 そうなんです。めったに使っちゃいけない言葉のような気がする。こういうかたちで名前を出すのは失礼かもしれないけど、僕と同世代の三遊亭白鳥師匠は、いままでの価値観でいう「名人」で名前が挙がる人じゃない。動物園の動物たちの話『任侠流山動物園』とか、奇天烈な新作落語を演り続けている人ですからね。だけど単なるうわっつらのギャグだけでウケてるんじゃなくて、独特の作品世界を客席にポーンと放って、そこでお客さんを遊ばせることができる人。実はそれもある種の名人なんじゃないかという気がするんですよ。東出さんはどう思います? 名人とは。

名人の定義は年齢や価値観によってどんどん変わる

東出 イチ落語ファンでしかないので、知ったようにしゃべるのは気がひけるんですけれども、志ん朝師匠の『文七元結』のマクラに、「文化芸能の世界に名人はいないと思う」というのがありますよね。あるいは、志ん朝師匠が親父さんの志ん生師匠に「名人って何? 親父は名人?」って聞いたら、「俺なんて名人じゃない。橘家圓喬は名人だった」と。

喬太郎 圓喬、近代落語の祖・三遊亭圓朝のお弟子さんですね。

東出 さらに「どういうものだったの?」と聞くと、「どういうものとかいうんじゃなく、とにかく名人だった」と説明されたという。

喬太郎 名人ってのは、とにかく名人なんだよと(笑)。

東出 なので、さっき師匠がおっしゃっていたように、名人とは何かみたいな自分なりの定義って、年齢や価値観によってどんどん変わっていくんだろうなって思います。なんだろう、それこそ子どもの頃は安いそばでも、高級なおそばでも、同じそばなんだけど、大人になるとそれぞれの旨さがわかってくるというか。

喬太郎 ああ、たしかにそうですね。大人になって、人情噺の機微が好きになって、それまで追っかけていた笑いとは違う「名人」を発見するってこともあるでしょうね。

『黄金餅』とヒップホップのうまい感じ

東出 そうなんです。落語って時間とともに、響いてくるポイントが変わってきて面白いんですよね。間男が出てくる浮気話『紙入れ』に「人の女房と枯れ木の枝は、登りつめたら命がけ」って文句が出てきますよね。あれ、落語を聴き始めた頃はよくわかんなかったんですけど、だんだん大人になって「ああ、なるほど、うまい!」って思ったり。

喬太郎 ハハハ、子どもで「うまい」って思っちゃまずいかもね、たしかに。

東出 あと、『黄金餅』の変なお経の中に出てくる「君と別れて松原行けば松の露やら涙やら」。くだらないんだけど、調べの中に上手いこと言ってる感じを挟んでいて、ちょっとヒップホップにも近いですよね。なので、僕の聴き方って、古典芸能を鑑賞する、というものとは程遠い……。

喬太郎 いやいや、そうやって純粋に楽しんでくれるのが一番嬉しいですよ。落語を高尚な芸術品のようにありがたがられても困ります(笑)。中学校や高校に学校公演の仕事でお邪魔することがあるんですけどね、ずいぶん変わりましたよ。だって、みんな面白そうに聴いてくださるんです。単に古臭い古典芸術っていう構えをされることは、あまりなくなってきた気がします。

これほど二ツ目に注目が集まるというのも珍しい

東出 最近は鈴本(演芸場)の早朝寄席だったり、末廣(亭)の深夜寄席だったり、二ツ目の噺家さんにも注目が集まって、ちょっとしたブームになっていますよね。噺家さんは前座から始まって、二ツ目、真打って「出世」していくものですが、これほど二ツ目に注目が集まるというのも珍しいんじゃないですか?

喬太郎 17〜18年前にもそんな感じのときがあったんですよね。ブームというほどではなかったけど、たい平兄さんと僕が二ツ目最後の末廣深夜寄席に出たときに、1階がいっぱいになったんです。自画自賛みたいで口はばったいけど、その時に、真打昇進で抜いた本来の先輩方何人かが「たいちゃんと喬ちゃんがせっかく客を集めてくれたんだから、このまま行こうぜ」と、池袋で二ツ目の会を始めたことがありました。

東出 そうなんですか! 

喬太郎 でも、今みたいに末廣の深夜寄席とか鈴本の早朝が満員になるなんて考えられなかった。ぼくら二ツ目の初期のころは、末廣の深夜は毎回、ワリ(ギャラ)をもらえましたけど、鈴本では、番頭役が半年分プールしておいて、半年後に高座の回数でもって均等割りにしないと、とても渡せなかったんですよね、お客が少なすぎて。それが僕が番頭になった二ツ目の途中ぐらいから、そろそろ毎回、少しならなんとか渡せるんじゃないかという具合になった。

末廣亭から新宿三丁目の駅まで並ぶほど

東出 今だと、二ツ目会に行列ができていますよね。

喬太郎 芸術協会の「成金」っていうユニットの連中、彼ら中心に脚光を浴びてますよね。いまの深夜寄席なんて、下手すると本興行より入っていたりするわけですよ。ディズニーランドみたいに、新宿三丁目の駅まで並ぶんですもん。だからいまの二ツ目さんは落語で食えちゃうんだけど、逆にそれが怖いですね。

東出 怖い、というと?

喬太郎 この状態にあぐらをかいちゃうと、絶対落ちちゃうときがくる。なんか、うるさいことを言うようでイヤなんですけど、気をつけてほしいって思いますね。

東出 ファンのほうは若手を発掘したいのか、とにかく二ツ目ブームって面白い現象だなあって思います。

喬太郎 ドラマや漫画や、若手の活躍もあって、たとえ熱心なファンでなくとも「落語って面白い」って興味を持っていただいているのは、本当にありがたいですよ。だって高校生が「一之輔さん面白い」「白鳥さん面白い」って言うなんて、昔なら考えられないですよ。

後編 東出昌大が柳家喬太郎に聞く「真打になるということ」 http://bunshun.jp/articles/-/7276  につづく

写真=佐藤亘/文藝春秋

やなぎや・きょうたろう/1963年、東京都生まれ。書店員を経て、89年、柳家さん喬に入門。2000年に真打昇進。創作新作落語に『ハワイの雪』『ハンバーグができるまで』『夜の慣用句』など。5月5日から舞台 『たいこどんどん』 (紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA)に主演。

 

ひがしで・まさひろ/1988年、埼玉県生まれ。高校時代からモデルとして活躍し、2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。フジテレビ系ドラマ『コンフィデンスマンJP』に出演。また主演映画 『OVER DRIVE』 (6/1公開)、 『寝ても覚めても』 (9/1)が公開予定。Eテレ 『落語ディーパー!』 が5月6日(日)0:00〜0:50 放送予定。

(「文春オンライン」編集部)

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