2018/05/19 11:00

「#限界コスメ」「人類モテ」……コスメ事情から見えてくる、オタク女の変化とは

2017年8月に開催された「浪費女の夏~本当にあった怖い話」 ©文藝春秋
2017年8月に開催された「浪費女の夏~本当にあった怖い話」 ©文藝春秋

『浪費図鑑』でホストやアイドルグループなどの“沼”にハマった女性たちによる浪費の実態をあきらかにした「劇団雌猫」。メンバーのひらりさによると、いま、オタク女子たちは「モテ」を目的としないコスメ道を邁進しているのだという。

「オタクは恥ずかしいから隠すもの」ではなくなった

 ジャニーズ、2.5次元舞台、声優、宝塚、ホストクラブ、女子アイドル、ディズニー、マンガ、ボーイズラブ……。

「オタク」という言葉が人口に膾炙し、そのジャンルも多種多様になってきた現代。矢野経済研究所の調査(2017年)によれば、その市場規模は5700億円にも達すると言います。『電車男』(2004年、新潮社)に代表される「内気でダサいオタク」のイメージはずいぶん後退し、今では街なかを颯爽と歩くきれいめキャリアウーマンが、シンプルなブランドバッグにさりげなく、推しているアイドルのキーホルダーをつけている……なんて光景も珍しくなくなりました。「オタクは恥ずかしいから隠すもの」という人が多かった時代から「オタクはむしろアピールして同好の友達増やしたほうが楽しいじゃん」というマインドへと変わってきたのです。

 私が所属する集団「劇団雌猫」も、4人全員が、インターネットで知り合った平成元年生まれのオタク女。それぞれのメインジャンルを持ちながらも、推しやジャンルの違う友人との交流も怠らず、複数の「沼」を掛け持ちし、さらなる新しい沼を求めて日々貪欲に活動しています。そのウォッチングの結果、オタク女たちによる匿名エッセイ集 『浪費図鑑』 (小学館)を刊行することができ、おかげさまで累計5万部を突破しています。

 さて、オタク女たちの「浪費」に着目し、たくさんのオタク女たちに出会ってきて、実感したことがあります。それは、自分の「推し」に時間もお金もつぎこんでいるオタク女たちが、その一方で自分への投資も怠っていないことです。つまり……、化粧や服装にも手を抜かず、「擬態」に精を出している人が、非常に目立ってきたのです。

オタク女子の間で流行した「#限界コスメ」とは

 2018年の始めには、オタク女子の間で「#限界コスメ」なるハッシュタグが流行する事態も発生しました。

“ 限界コスメ ”とは、「趣味に極力お金をつぎこみたいからこそ、それ以外には限界までお金をかけたくないオタクにおすすめしたい有能コスメ」の意。我こそはオタク女だ、という人たちが(自分の推しジャンルの宣伝も混ぜ込みつつ)思い思いのおすすめコスメをツイートし、ちょっとした「祭り」が繰り広げられました。

 私は、このムーブメントを、非常に画期的な出来事だと思いました。というのも――私自身もオタクなので実感してきたのですが――とくに二次元オタクの間には、

「自分が着飾っても仕方がない」
「人の目を気にするのは格好悪い」
「オタクなのに何モテようとしちゃってんの」

 こういった同調圧力が少なからずあり、容姿に気を使うことはオタクとして中途半端、というような風潮があったからです。

なぜ「#限界コスメ」が流行したのか?

 もちろん、「純粋に趣味の話だけで互いを評価したい」という気持ちもわかります。しかし、私自身がオタクとして過ごしてきたなかで、その同調圧力には、いわゆる「一般人」「リア充」への反感が含まれているようにも感じていました。だからこそ、“限界”という自虐は込めながらも、自分が使っているコスメを互いにおすすめしあうという光景には、そうした自意識からのいくばくかの解放が見られ、風通しがよくなったように思えたのです。

 一体、こうした変化はどうして起きたのでしょうか? 

・オタクの数が増え裾野が広がった結果、従来の“オタクの自意識”に囚われすぎず、オタク趣味もファッションも、両方気負いなく楽しめる層が増えてきた

・もともとジャニオタなど、「現場」のあるオタクはおしゃれに対する意識が高かったが、2.5次元舞台ブームやアイドルブームの結果、現場のあるオタクジャンルが増え、そのことが目立つようになってきた

 といったあたりも大きいのですが、ここ数年のTwitterを見ていると、こうした“オタクの美意識”にも影響を及ぼしているだろう、ある事象が生まれています。

 それが「美容・コスメ垢」の台頭。

「美容・コスメ垢」という言葉をご存知の方はどのくらいいるでしょうか? ざっくり言うと、「美容アイテムやコスメの最新情報をつねにキャッチし、TwitterやInstagramといったSNSで、その使用感をレポートしているアカウント」の総称で、中には、個々のアイテムの売上を大幅に変動させるような、インフルエンサーも存在しています。

 たとえば2017年11月には、「ローラ・メルシエ」というブランドの 「ホイップトボディクリーム アンバーバニラ」 がとてつもなく売れる、という出来事がありました。なんと売上が従来の4.7倍になったのだとか。猫川舐子さん(@namekonekokawa)という方がこのアイテムを「人類モテ」と称したツイートが、2万5000RTされたためです。

「人類モテ」という言葉は爆発的にひろまり、次第にローラ・メルシエ公式が、プロモーションツイートで使用するほどになりました。こうした特定のインフルエンサーのツイートがバズる例もあれば、美容・コスメ垢間の口コミがちょっとずつ伝播していって、コスメが売れる例も非常に増えています。SNSで話題になっていたアイテムを百貨店に買いに行くと、「その色はもうないんですよ〜。なんか、SNSで話題になったらしくて」と申し訳なさそうに謝られる、なんてこともしばしばです。

 そうして、ちょくちょくコスメ垢のツイートを眺めるようになって気づきました。この人たち……めっちゃオタクなのでは!?と。

「コスメ垢」のユーザーもやっぱり浪費していた

 なかには、もともとフォロワー数がいて、企業に頼まれてアイテムの宣伝ツイートをしているような人もいることでしょう。しかし、試しに「コスメ垢」「イエベ春」「ブルベ夏」などでツイート検索してみてください。そこには、決して企業に頼まれているわけではないだろう規模感のフォロワー数で、熱心にコスメの情報を収集し、新発売のアイテムを購入し、ときには同種アイテムのいろいろな色の発色を試した写真をアップして、飽きることなくコスメを探求し、ツイートを続けている人たちがたくさん存在しています。

 つまり、美容・コスメ垢というのは、「美容・コスメに浪費するオタク」と言っても過言ではないのです。

 ちなみに、「イエベ春」「ブルベ夏」というのは、正式には「イエローベースの春タイプ」「ブルーベースの夏タイプ」のこと。これは、個々人の肌色に応じて似合うコスメやファッションの色味が存在するという「パーソナルカラー」の考え方に基づいたタイプ分類を意味しています。最近ではファッション誌でもこの分類に基づいたコスメ紹介がされることが増えてきました。

 その人のパーソナルカラーによって似合うコスメの色味が変わってくるため、みんなお互いに参考にしやすいように、コスメの発色を「スウォッチ」(コスメの色味を実際に試すこと)したものをツイートし、アカウントのbio(紹介文)にパーソナルカラーを記載するのです。まるでオタクが、自分のジャンルや推しカップリングをbioに書くように……。

「モテ」を目的としないコスメ道

 なぜ彼女たちは、そうまでしてコスメ道を邁進するのか? それは決して「モテ」だけのためではありません。「他人のため」であれば、自分が可愛く見えると思うメイクの組み合わせを2~3セット見つけてしまえばいいだけのこと。しかし、彼女たちは、新商品が出るたびに吟味し、口はひとつしかないというのに口紅を何本も買い、他人から見たら同じ色に見えるアイカラーを何種類も買い続けます。

 日によって使い分けたり、重ねづけして異なるニュアンスを楽しんだり、肌質や肌色に合ったアイテムを探し求めたり、好きなブランドの新商品はどうしても試さないと気がすまなかったり……。よりかわいく、より自分に合ったメイクの追求に余念がないさまも完全にオタク。「このギラギラしたラメに萌えるからこのシリーズ全部買う!」「限定パッケージが可愛すぎるから集める!」というふうに、“収集欲”にドライブされている人も多く、その姿は、まるで「ポケモン図鑑」を埋めていくかのようなストイックさです。

 最近は、オタクとしての萌えツイートと、コスメツイートを交互に行なっているようなアカウントも珍しくありません。たとえば、資生堂の口紅「ピコ」と「名探偵コナン」の映画の値段を比較している ツイート も。

「そうは言っても、お金をもらってツイートしているインフルエンサーも多いし、みんな結局ファッション誌やメーカーのSNS戦略に踊らされてるんでしょ?」と考える人もいるかもしれません。

 もちろん、ここ数年の化粧品業界のSNS戦略の発達がめざましいのはたしかです。先ほどの「人類モテ」の件もそうですし、SNSや口コミサイト「@コスメ」の投稿を研究し、即座に自社プロモーションに転換しているメーカーはとても多いです。百貨店の店頭ですら、「@コスメランキング1位!」などと喧伝しているハイブランドもあります。全国百貨店売上高が軒並み落ち込んでいるなかで 「化粧品」部門だけが売り上げを伸ばしている のも、こうした戦略の成功が理由のひとつと言われています。

「コスメオタク」に愛されるブランドが炎上

 しかし、あちらこちらに「マーケティング」が隠れたこの時代、消費者だってバカではありません。SNSでのコスメプレゼントキャンペーンなどにうまく乗りながらも、先方に消費者を軽く見たような態度があれば、すぐに踵をかえすシビアさを持ち合わせています。

 最近の例でいうと、 「CHICCA(キッカ)」 というブランドが炎上した事件がありました。CHICCAは、各国「VOGUE」のカバーメイクで知られる世界的メイクアップアーティスト・吉川康雄さんがブランドクリエイターをつとめるブランド。ツヤ感のあるナチュラルな素肌を実現してくれるベースアイテム、もともとの顔立ちや血色感をひきたててくれるポイントメイクが人気で、それこそ「コスメオタク」に愛されているブランドです。

 そんなCHICCAが、なぜ炎上したのでしょうか?

CHICCA事件とは何だったのか?

 それは10周年を記念した限定セットの発売の際に、CHICCAのアカウントをフォローしたうえで「特定のインスタグラマーがあげている写真を見た」と報告すると1週間早く先行予約できるというキャンペーンを行なったため。

 そのことが全体で周知されているならともかく、キャンペーンの存在を知ることができたのは、もともと対象インスタグラマーをフォローしていた人だけ。限定セットを手に入れることを心待ちにしていた人ほど「メルマガも公式LINEや公式SNSもチェックしていたのに、ひどい」と怒り悲しんでいました。インフルエンサーのみを意識して、消費者の購入体験をないがしろにするマーケティング方法は、ブランド価値を毀損し、ファン離れを起こす可能性すらあるのです。

 そうした、自分の基準で良し悪しを判断し、自分のためにめいっぱいコスメを楽しむコスメオタクたちが姿をあらわし、そのオタクぶりに感化されるようになって、それ以外のジャンルのオタクたちも「おしゃれ」の話をしやすくなったのが、2018年のインターネットなのではないかと、私は考えています。

 各ブランドが行っている「無料刻印サービス」を利用して、自分の推しているアイドルの名前を口紅に刻印するなど、コスメそのものを自分の「オタク愛」の表現に使っている人も増えています。

 さる4月には、劇団雌猫でも「コスメやファッション、美容もある意味オタクジャンルの一つ!」というコンセプトでトークイベントを開催しました。開催する側からすると「世の中美容情報がわんさかあふれてるから、一般人の主催では誰も来ないのでは……?」という気持ちもありましたが、チケットは即日完売。当日は150人以上が会場に集まり、登壇したゲスト(もちろん全員オタク)が語る「忙しいオタクでも今すぐできる美のルール」や「好きなアイドルのコスチュームをうまく自分のファッションに落とし込む方法」といった、オタクならではのおしゃれレクチャーに聞き入っていました。

 イベントの感想でも聞こえてきたのは、やはり「宣伝、広告がからまないコスメ情報が知りたい」という声。インフルエンサーマーケティングが全盛の世の中だからこそ、女子たちは、より実感があって熱量のある情報を求めて、信頼できる「普通の人」を探し、日々TwitterやInstagramを眺め続けるのです。

 そうした探究心がどうして持続するかといえば、それはやっぱり、「他人のため」ではなく「自分のため」を第一に、化粧を楽しんでいるから。自分に合った最高のコスメに出会えたときの快感は、まるで新種のポケモンを見つけたかのような喜びなのです。

 そうして今日もドラッグストアと百貨店は、自分だけの相棒――ベストコスメを追い求めるオタクたちであふれているのです。

(ひらりさ(劇団雌猫))

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