2017/12/06 12:00

AORの日本盤LPの帯に綴られた キャッチコピーの様子がおかしい?

 1970年代後半から80年代前半にかけて、洋楽の世界を席巻したムーブメントがAOR。アダルト・オリエンテッド・ロックの略称である。

 この短期集中連載は、AORを21世紀に蘇らせる若き2人組ユニット、ブルー・ペパーズの福田直木が、黄金期AORの日本盤LPの帯に記された文章の濃すぎて深すぎる世界へとご招待。最も素晴らしい帯には、(福田)直木賞を勝手に贈呈いたします!

イメージ戦略が行き過ぎるあまり……


アナログレコードがブームを迎えた近年、LPの帯も再び注目を浴びている。

 AOR──オシャレ、洗練された……。

 カフェやクラブでも重用されるこの手の音楽に、皆さんはきっとそのようなイメージを抱くのではないだろうか。

 しかし、AORが隆盛を極めた当時、1980年前後に発売された海外アーティストの日本盤レコードは、どこか様子がおかしい……。

 それが「帯」である。

 帯とは、キャッチコピーやアルバムの内容説明が刷られた紙のこと。ジャケットの左端の一部分を覆うように巻かれている。中身を確認せずにアルバムの概要が一目で分かる上に、英語では消費者に伝わりにくい情報を明示できる、日本独自の販促ツールだ。

 世界中に帯(Obi)コレクターが存在する反面、開封と同時に破いて処分してしまう人もいる、まるで福神漬けのような立ち位置のアイテムだと思う。

 しかし、当時の小説『なんとなく、クリスタル。』で描かれているような、世間の流行を反映したイメージ戦略が行き過ぎるあまり、本来の帯の存在意義(=販促)を大きく逸脱したキャッチコピーが見られたりするのだ。

 そんなトホホなキャッチコピーの付けられたAORの帯を、毎回テーマごとに数枚ずつ紹介していこうと思う。

 ちなみに筆者はこのような記事を書きつつも、AORというジャンルの音楽を心から愛しているので、読者の方にとってこの連載がAORに興味を持つキッカケになれば幸いだ。

vol.1 名盤篇

 AORの定番として語られることの多い名盤も、当時の日本盤レコードにはヘンテコな帯が見られたりする。

 いや、その方が多いと言ってもよいだろう。

 今回は、そんなAORの名盤を蝕むダサい帯をいくつか紹介しようと思う。

クリスタルなムードが台無しに


ボビー・コールドウェル『イブニング・スキャンダル』(1978年)

シルエットは揺れ動く、スキャンダラスな夜。
今夜はトロピカル・ランデヴーとシャレてみようぜ!!

「ミスターAOR」とも称されるボビー・コールドウェル。そんな彼のデビュー・アルバムの帯には、こんなキャッチコピーが付けられていた。

「シルエット」「ランデヴー」などのカタカナ英語が醸し出すはずだったクリスタルなムードを、末尾の「シャレてみようぜ!!」という文体が全て台無しにしている。素晴らしい文章だ。


 また、アルバムの邦題は、一般的に英題・曲名・歌詞に使われている英単語を組み合わせて作られることが多いのだが、この作品には「イブニング」も「スキャンダル」も一切登場しない。

 きっと、アルバムジャケットを見ただけで思いついた英単語を並べたのだろう。

 でも、このアルバムに収録された定番曲「What You Won’t Do For Love」の邦題「風のシルエット」は、個人的にはナイスなネーミングだと思っている。

 ちなみに、彼のデビュー当時に曲がラジオでオンエアされると、そのソウルフルな歌声と素顔を隠したジャケットから、黒人のヴォーカリストであるとの噂が絶えなかったそうだ。

 だが、そんなイメージ戦略も日本盤の帯の前では無力であった。

ボズ・スキャッグスと写実主義


ボズ・スキャッグス『シルク・ディグリーズ』(1976年)

うつ向いた横顔と背中にたまらなく愛を感じる、そして真赤なつめと女の脚がおもわせぶり。
サンフランシスコの洒落男ボズの絹のようになめらかで艶やかな素敵なアルバム

 このアルバムの録音メンバーが後にTOTOを結成することなどから、AORのスタート地点として語られることも多い、ボズ・スキャッグスの1976年発表の名盤。


 一見「そんなにダサくないじゃないか」と思うのだが、この帯は実に雑な仕事である。今一度、ジャケット写真とキャッチコピーを交互に眺めてみていただきたい。

 ジャケット写真の情景をご丁寧に文章で説明しているだけなのだ。

 英語では消費者に伝わりにくいアルバムの内容や参加ミュージシャンの情報を消費者に明示する、という帯本来の目的を完全に見失っている。

 キャッチコピーから新たに得られる情報は「素敵なアルバム」であるということぐらいだろう。

 アルバムタイトルを何とか無理やり詰め込んだ「絹のような」も痛々しく思えてくる……。

 まあ、そんなことは置いといて、名バラード「We're All Alone (二人だけ)」で心洗われよう。

とにかくいろいろ溢れがち?


エアプレイ『ロマンティック』(1980年)

溢れるロマンティック感覚!!

「逆に」短い文章の方が、ワードの持つ破壊力が増幅されることがある。その代表例がこのアルバムだ。

 まず目に飛び込んでくる「ロマンティック感覚」というワード。


「ロマンティック」を名詞化したいのならば「ロマンティシズム」とすればよいのだが、カタカナ英語と「感覚」の同居が、何とも言えないダサさを生み出している。言い過ぎだろうか。

 こんなことを書いていると、次第に「溢れる」も気になってくる。「満ちた」や「一杯」でなく、なぜ溢れなければならないのか。この時代は色々と溢れがちなのか。

 ……と、これだけ帯にいちゃもんを付けておいて言うのもアレなのだが、作品自体は本当に偉大なアルバムだ。

 セールス自体は振るわなかったものの、メンバーのデヴィッド・フォスターとジェイ・グレイドンが作編曲家やプロデューサーとして関わった音楽が1980年代のシーンに与えた影響は、洋楽・邦楽ともに計り知れない。

 収録曲「Nothin' You Can Do About It (貴方には何も出来ない)」を聴いて何も感じないのならば、AORを聴くのは止めておいたほうがよいだろう。

時代を象徴する名盤の帯もまた……


ドナルド・フェイゲン『ナイトフライ』(1982年)

ドナルド・フェイゲンの魔法を信じますか?
エレガントに煌めくシティ・エッセンス、やがて貴方は魅力の虜に…

「さすがにこの名盤にはスタイリッシュなキャッチコピーが付いていてほしい」と願っていたが、神は容赦しない。

 スティーリー・ダンの頭脳、ドナルド・フェイゲンが1982年に発表した時代を代表する名盤も、この有様だ。


 魔法を信じるかどうかは置いておくとして、「エレガントに煌めくシティ・エッセンス」というワードからは、具体的なイメージが何も湧いて来ない。

 帯本来の役目を果たしているかと言われると、これは失格同然だろう。

 ただ、未だにサウンド・チェックによく用いられるほど音が良く、多くの人がフェイバリットに挙げる不朽の名作であるから、「やがて貴方は魅力の虜に」なることは間違いない。

 長年の相方ウォルター・ベッカーの死去や、その直後の「Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2017」の開催中止など、今年はスティーリー・ダン関連の悲しいニュースが多かったが、また元気になったドナルド・フェイゲンの姿を、日本のファンにも見せてくれたらと思う。

 それまでは、このアルバムを聴き続けて、いつまでも待つとしよう。


ブルー・ペパーズ『RETROACTIVE』
待望の1stフルアルバムには、これまでの作品でもおなじみのヴォーカル・佐々木詩織に加え、ドラムスの佐野康夫、キーボードの森俊之などベテラン勢も参加。彼らが南波志帆に提供した「コバルトブルー」のセルフカヴァーでは、ヴォーカルに星野みちるをフィーチャー。「ずっと」「秋風のリグレット」「6月の夢」など、既発表曲のアルバムヴァージョンも収録。
VIVID SOUND 発売中
2,500円(税抜)

文=福田直木(ブルー・ペパーズ),撮影=平松市聖

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