2018/01/26 07:00

AOR名盤のジャケットが日本仕様に 差し替えられてしまう納得の理由は?

 1970年代後半から80年代前半にかけて、洋楽の世界を席巻したムーブメントがAOR。アダルト・オリエンテッド・ロックの略称である。

 この短期集中連載は、AORを21世紀に蘇らせる若き2人組ユニット、ブルー・ペパーズの福田直木が、黄金期AORの日本盤LPの帯に記された文章の濃すぎて深すぎる世界へとご招待。最も素晴らしい帯には、(福田)直木賞を勝手に贈呈いたします!

vol.2 差し替えジャケット篇


このジャンルにおいて、日本オリジナルに差し替えられてしまうジャケットは予想外に多い。

 海外のAOR系ミュージシャンというのは、日本人が思う以上にビジュアルへの頓着が無かったりする。アルバムのジャケットには、シンプルに本人の肖像をあしらっただけ、というパターンが多く見られるのだ。

 そんな海外盤のレコードを日本で発売するにあたって、アルバムのジャケットを別の写真やイラストに差し替える、という手段がよく用いられたのである。

 イメージに気を遣う戦略……ということは、おのずと帯にもクサい文章がちりばめられていることが多い、ということに気づいた。

 そこで今回は、そんな「差し替えジャケット」と、その帯にスポットライトを当ててみようと思う。

落ち武者がリア充カップルに変身!


【日本盤】ビル・ラバウンティ『サンシャイン・メモリー』(1982年)

サザン・カリフォルニアのサンシャインに溶け込む純LA産AOR。
優しいまどろみの午下り、今日はビル・ラバウンティのメロウな歌声で、気分はとっても爽快!!

 まずはAORの名盤として語られることの多い、ビル・ラバウンティの4枚目にあたるこのアルバムから。

 彼の安定感あるソングライティングと、腕利きのセッション・ミュージシャンによる演奏は、まさにAORのお手本のような図式だ。


 注目の帯の方は、パンチ力に今ひとつ欠けるものの、こちらもイメージ戦略のお手本のようなキャッチコピーが躍っている。

 この手の帯にはアメリカの地名が登場することが多いのだが、キャッチコピーを書いた人の何割が実際にその地に行ったことがあるのか、アンケートを取ってみたいところだ。

 また、原題のセルフ・タイトルでは売れないと判断したのか、邦題も『サンシャイン・メモリー』と変更されている。もはや「音以外は何でもイジってしまえ」という潔ささえ感じる。


【オリジナル盤】Bill LaBounty“Bill Labounty”(1982年)

 だが、そうなると気になってしまうのは、オリジナル・ジャケットを見たときのインパクトだ。

 通称「落武者ジャケ」である。これを見て「気分はとっても爽快!!」とは言えないだろう。冴えない男をリア充のカップルに差し替えるなんて、まったく酷い仕打ちだ。

鈴木英人のイラストに模様替え!


【日本盤】ラリー・リー『ロンリー・フリーウェイ』(1982年)

フリーウェイを駈けぬける真紅なキャディ、まぶしい午後の乾いた心…。

気ままにアクセルを踏み、ラジオのボリュームをめいっぱい上げる。
音が流れ、青空にとけ込んでいく。
なぜか淋しげ、ひとりぼっちのフリーウェイ。

 こちらは1970年代中盤に人気を博したオザーク・マウンテン・デアデヴィルズというカントリー・ロック・バンドの中核メンバーによる初のソロ・アルバム。

 まず目に入ってくるのは鮮やかなジャケットのイラストだろう。この差し替えジャケットは、山下達郎『FOR YOU』などのジャケットでもおなじみの、鈴木英人氏によるもの。


【オリジナル盤】Larry Lee“Marooned”(1982年)

 オリジナルのジャケットは、カントリー・ロックのアルバムには合っていそうだが、蓋を開けてみればコテコテのAORサウンドであったため、急遽イメージに合ったジャケットに差し替えることになったそうだ。


 帯のキャッチコピーは、最初からアルバムの内容説明をする気が見られず、差し替えジャケットを見ながら垂れ流したであろうポエムのシャワーが降り注いでおり、イメージ戦略に拍車を掛けている。

 この手のポエムは「フラれた男目線」で書かなければいけない暗黙のルールでも存在したのだろうか……。

 曲や演奏、アレンジだけを取れば、本作よりも優れたアルバムはたくさんあるのだが、代表曲「Don’t Talk」のような、1980年代前半の希望に満ち溢れた底抜けに明るいサウンドを楽しめるという点では、他の追随を許さない作品だと思っている。

またしても冴えないオッサンが登場!


【日本盤】ポール・デイヴィス『クール・ナイト』(1981年)

こみあげる想いとともに
夜が静かに更けてゆく
もう届かぬ想い出と
知りながら
またダイヤルを
回してしまった…。

 こちらは田中康夫の小説を映画化した『なんとなく、クリスタル』の主題歌に「I Go Crazy」が採用されたことでも有名なシンガーソングライターによる、1981年の作品だ。

 差し替えジャケットには、前の2作の明るさとは対照的に、センチメンタルな夜景が選ばれている。原題に忠実なイメージ戦略、ということだろう。

 そして、気になるオリジナルのジャケットは……また冴えないオッサンである。


【オリジナル盤】Paul Davis“Cool Night”(1981年)

 そろそろお気付きかもしれないが、「ヒゲ面で、少々オツムの寂しいオジサンが、仲間にしてほしそうにこちらを見ているジャケット」は差し替え対象になる、という暗黙のルールも存在したのではないだろうか。

 話がジャケットに逸れてしまったが、肝心の帯にはお約束の「フラれた男目線」で書かれた渾身のポエムがちりばめられている。


 和歌のリズムを意識しているようにも思えるが……勘違いしないでいただきたい。ここは、お茶のペットボトルのラベル上で繰り広げられている俳句大会の予選会場ではないのだ。

“ミスター・アメリカン・ナイーブ”?


【日本盤】トム・スノウ『ハングリー・ナイツ』(1982年)

電話をするには近すぎる
ノックをするにも勇気が要る
もう何本めのタバコだろうか
今夜も眠れぬ夜になりそうだ

喜び上手、悲しみ上手のあなた、シャンペンとハンカチーフの御用意を。
彼はまさしくミスター・アメリカン・ナイーブなのですから。

 今回のコラムの最後を締めくくるのは、作家として活躍していたトム・スノウの1982年の作品だ。

 これは何よりも帯のキャッチコピーが強烈だろう。本人が見てないからって、やりすぎではないだろうか。海の向こうで勝手に“ミスター・アメリカン・ナイーブ”に認定されてしまったトム・スノウさんの気持ちも考えてほしいと思う。


 また、文章の長さもなかなかのモノで、筆者が帯の文章を紹介するために運営しているTwitterのbot(自動投稿システム)では、文字数制限に引っかかってしまい全文を投稿できない稀有なケースだったりする。


【オリジナル盤】Tom Snow“Hungry Nights”(1982年)

 アルバムのジャケットは、オリジナルのオジサンも、差し替えられた夜景も、1つ前に紹介したポール・デイヴィス『クール・ナイト』と非常に似ており、同じ担当者の仕事だと思われる。

 当時の担当者ごとの「クセ」に注目して観察してみる、というのもAOR帯文学の1つの楽しみ方だったりするのだ。

 こんなコラムを書いておいてアレなのだが、作品自体は爽やかなタイトル曲「Hungry Nights」からメロウなバラード「Time Of Our Lives」まで、クセのあるソングライティングが楽しめるので、帯に興味を持っていただけたのなら、この機会にぜひ聴いてみてほしいと思う。


ブルー・ペパーズ『RETROACTIVE』
待望の1stフルアルバムには、これまでの作品でもおなじみのヴォーカル・佐々木詩織に加え、ドラムスの佐野康夫、キーボードの森俊之などベテラン勢も参加。彼らが南波志帆に提供した「コバルトブルー」のセルフカヴァーでは、ヴォーカルに星野みちるをフィーチャー。「ずっと」「秋風のリグレット」「6月の夢」など、既発表曲のアルバムヴァージョンも収録。
VIVID SOUND 発売中
2,500円(税抜)

文=福田直木(ブルー・ペパーズ),撮影=平松市聖

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