2018/03/22 18:00

AOR日本盤の帯のキャッチコピーは 意表を突くルビ使いに注目すべし!

 1970年代後半から80年代前半にかけて、洋楽の世界を席巻したムーブメントがAOR。アダルト・オリエンテッド・ロックの略称である。

 この短期集中連載は、AORを21世紀に蘇らせる若き2人組ユニット、ブルー・ペパーズの福田直木が、黄金期AORの日本盤LPの帯に記された文章の濃すぎて深すぎる世界へとご招待。最も素晴らしい帯には、(福田)直木賞を勝手に贈呈いたします!

vol.3 ルビ篇


国語のテストなら絶対に点をもらえない奇天烈なルビがいっぱい!

 AORのレコードの帯を紹介するこのコラムの3回目は、帯のキャッチコピーにおけるルビ(読み仮名)にスポットライトを当ててみようと思う。

 ルビとは、本来は漢字の読み仮名を明示するためのモノだが、帯のキャッチコピー上ではしばしばその目的を逸脱し、クリスタルな雰囲気を醸し出すための手段のひとつとして使われていることがあるのだ。

 今回はそんなAORの帯における「ルビ文化」の世界を覗いてみよう。

「都会」「瞬間」「旋風」を何と読む?


ランディ・ヴァンウォーマー『アメリカン・モーニング』(1979年)

都会(まち)に流れる音楽……だからこそ自然(ナチュラル)なものが……
青い心の旅人、アメリカン・モーニングに街で出逢うとき……

 ランディ・ヴァンウォーマーは、1979年に本作から"Just When I Needed You Most"のヒットを飛ばした米国のシンガーソングライター。

 彼の穏やかで優しい音楽の質感を伝える帯のキャッチコピーには、「都会」に「まち」と読ませるルビが振ってあり、さりげなく洒脱な雰囲気が醸し出されている。


 当時の帯には他にも「瞬間」で「とき」、「旋風」で「かぜ」、「女」で「ひと」などのルビが振ってあるものがよく見られ、2音節で読ませるのがオシャレのセオリーだったのかもしれない、と感じる。

「本気」と書いて「マジ」と読む例外を除いて、の話だが……。

 ちなみに、アルバムの原題『Warmer』も、シングル曲"Just When I Needed You Most"も、どちらも邦題は「アメリカン・モーニング」。どこかやっつけ仕事のように思えてしまうが、そんなものはまだまだ序の口だ。

エレガントな「フィーメル」って?


キャロル・ベイヤー・セイガー『真夜中にくちづけ』(1981年)

エレガントな女(フィーメル)、キャロル 愛……心に語りかけるアルバム。

 10代の頃から作詞家・作曲家として活躍していたキャロル・ベイヤー・セイガーの3枚目のソロアルバム。のちに夫となるバート・バカラック(現在は離婚)との共作を中心とする極めて質の高い曲を、名うてのミュージシャンたちの演奏で楽しむことができる、紛れもないAORの名作だ。

 しかし、帯のキャッチコピーはシンプルながらも、「女(フィーメル)」には突っ込まざるを得ない。


「女」と書いて「フィーメル」とは、表外読みにも程がある。わざわざルビを振る意味は感じられず、百歩譲ってもそこは「レディ」の方が自然だろう。

 だが、読み手に強烈な印象を残し、ふとアルバムを聴きたくさせるのがキャッチコピーの作者の策略なのだとしたら、このコラムを書いていること自体が完全に思うツボだ。

 それはともかく、皆さんも明日から女性のことを「フィーメル」と呼んでみてはいかがだろうか。聞き返されること確実だ。

「潮風」「歌」に振られた意外なルビ


クリス・レア『ひとりぼっちの渚』(1979年)

頬をなでる潮風(バラード)は、いつも君との歌(メモリー)だった。
だから、僕はきょうもここへ来てしまう……。

 続いてご紹介するのは、ハスキー・ヴォイスが印象的な英国のシンガーソングライター、クリス・レアが1979年に制作した2ndアルバム。

 AORファンには後年の『オン・ザ・ビーチ』(1986年)や『ダンシング・ウィズ・ストレンジャー』(1987年)の方が広く知られていると思うが、今回はこの『ひとりぼっちの渚』に注目したい。


「潮風」を「バラード」、「歌」を「メモリー」と読ませる離れ業をやってのけており、AORの帯界では一二を争う、クセがすごいパターンだ。

 ここまでくると、ルビは読み方を示すものではなく、文章に立体感を加えるためのものとして使用され、読み手に何ともセンチメンタルな読後感をもたらしてくれる。

 個人的には、「歌」に「メロディー」とルビを振る過程で「メモリー」とする案を思い付いたのではないか、という予想だ。

カタカナに漢字のルビを振る「逆ルビ」


キーン『ドライヴィング・サタディ・ナイト』(1981年)

カリフォルニア・ブリーズがきみのハートを直撃!
限りなきインスピレーションと疾走する爽快感。
今、都会に最も似合うドライヴィング・ショック(衝撃音)!

 最後にご紹介するのは、トム・キーンとジョン・キーンの兄弟を中心とするバンド、キーンの1981年のアルバム。当時彼らはなんと16~17歳で、作編曲・演奏・プロデュースまで自分たちで行っている実力の持ち主だ。そのTOTOを思わせる疾走感あるサウンドは帯の惹句通りなのだが、やはり最後のルビが気になってしまう。


 逸脱したルビ文化の極め付けは、カタカナ英語に漢字のルビを振る「逆ルビ」現象だ。「ドライヴィング・ショック」を「衝撃音」と読ませるというのは、一体どういうつもりなのだろうか。

 もう一度出発地点に戻って考えると、ルビとは本来、漢字が読めない時のためのものであり、漢字のルビを振ってしまっては何の意味もない。また、ルビの字間が広く空き過ぎているのも何だか面白く感じられ、字間に星マークを入れたくなる間抜けさがある。

 今回ご紹介した4枚のアルバムの帯では、雰囲気さえ出せればルビの用法はもはや何でもアリ、という自由すぎる文化をお楽しみいただけただろうか。次回は帯のキャッチコピーに登場する「ダジャレ文化」についてご紹介しようと思う。


ブルー・ペパーズ『RETROACTIVE』
待望の1stフルアルバムには、これまでの作品でもおなじみのヴォーカル・佐々木詩織に加え、ドラムスの佐野康夫、キーボードの森俊之などベテラン勢も参加。彼らが南波志帆に提供した「コバルトブルー」のセルフカヴァーでは、ヴォーカルに星野みちるをフィーチャー。「ずっと」「秋風のリグレット」「6月の夢」など、既発表曲のアルバムヴァージョンも収録。
VIVID SOUND 発売中
2,500円(税抜)

文=福田直木(ブルー・ペパーズ),撮影=平松市聖

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