2017/10/14 22:00

「ウェブ再録」の同人誌は売れるのか? 実際に頒布してみた!

 先にウェブで発表した作品を、後から紙の書籍の形で販売する「ウェブ再録」。同人誌に限らず商業出版でも見かけるが、そういった作品のAmazonレビューを見ると「タダで読めんじゃん。星一つ」など辛口なものも見かける。一方で「手元に形として残しておきたいから再録はうれしい」と言う声もある。そんな意見の割れる「ウェブ再録」に、ある同人作家(私)が初挑戦してみた。


■二次創作は、「そのジャンルの第一作」に圧倒的に当たりが多い


 私は2012年からはオンライン、15年からはオフライン(実際に紙の同人誌を発行する)でも同人活動を行っている。オフラインでは今までに4冊の同人誌を出しているが、これらはすべて書下ろしの「非ウェブ再録」だった。

 そもそも、私自身ウェブ再録は好きな同人作家が出したものでも買わない。普段自分がやらないことを人に勧めてはいけないと思うが、それでも今回ウェブ再録に踏み切った理由は、「オンライン(pixiv)で発表してみたら思いのほか自分に大ヒットしたから」に尽きる。

「オンラインで発表してみたら思いのほか大ヒットしたから」ではない。「オンラインで発表してみたら思いのほか『自分に』大ヒットしたから」だ。私が行っているのは二次創作になる。今まで4冊紙の同人誌を出していて、「1冊目」と、「2~4冊」目がそれぞれ別の原作の二次創作になるが、今回の同人誌からはまたジャンルを変える。

 二次創作をしている人には死ぬほどわかってもらえると思うが「そのジャンルの一冊目の二次創作の同人誌」というのは、自分が今まで書いたのを見ても、人の作品を読んだ時でも総じて当たりが多い。やはり処女作はパワーに満ちており、「このキャラクターはこうだと思うんですよ、僕ぁ!」という童貞の鼻息の荒さがたまらない。二次創作の場合ジャンルを変えるごとに「処女作(そのジャンルでは)」になるため、一人の同人作家が生涯に何冊も処女作を出せるという、処女なのにクソビッチというミラクルも起こるのだ。

 私もジャンルを変えた現ジャンル一発目を書いてオンライン(pixiv)に上げてみたところ、これがいたく自分的に大ヒット、全米が泣いたのだ。しかし、数値は前ジャンルに比べるとpixivでの反響の数値は初動もその後の勢いも振るっていない。pixivの指標の一つ、ブックマーク数は前ジャンルの半分どころか、クオーター程度だ。それでも自分はこの話が好きだからウェブ再録したいと、ほとばしる童貞力で踏み切ることにした。
 
 なお、私は「自分が買う側なら100%のウェブ再録は好きな同人作家でも、年収が3億あってもきっと買わない」ので、自分がこれなら買うレベルで修正と加筆は結構行った。自分的に大ヒット話の加筆修正は相当楽しかったのでお勧めしたい(私は書いているのが小説だから気楽に加筆修正できるのであり、マンガの人なら相当な労力を要するだろうが)。


■同人やっていてよかったと思う瞬間~神からのブックマーク

 
 ウェブ再録にあたり迷ったのが部数だ。私は今まで4冊の同人誌を出しており、1~3冊目は50部、4冊目は40部刷っている。晴れて2冊目が先日完売したため「50部を1年と少しで完売」が好調時の私のペースだ。ただしこれは「前のジャンルにおいて」であり、ジャンルが変わった今、その情報はさっぱりあてにならない。

 pixivの投稿作品やブックマークなどの反響数から現ジャンルの同人人気は前ジャンルほどではないのは分かる。また、twitterでこんなこと呟けば炎上必至だが、「ジャンル内の同人作家としての自分の人気」も部数においては考慮すべきだろう。前ジャンルにいたころ、私のジャンル内でのpixivに投稿した作品のブックマークの集まり具合は「よい方」だった。しかし、現ジャンルでの集まり具合は「ふつう」ぐらいだ。

 さらに、部数において考慮すべきは交流の有無だ。私は感想が欲しいくせにオンラインの同人活動はpixivのみで、twitterでの交流は一切していない引きこもり同人だ。理由は「twitterをやっている自分はイケていない」「顔も声も知らない人と交流すると後からヤバいことに気づくことがある」「そもそも自分が欲しいのは交流ではなく作品への感想だった」などが挙げられる。ということでフォロワーさんもおらず、「交流による需要」もない袖は振れない状態だ。

 その上ウェブ再録だ。以上、目をこらしても明るい兆しは見えず、「爆死」という言葉が頭をよぎる中、印刷会社には30部で注文した。なお、大抵の印刷会社は20部、10部でも刷れるが、ここまで少部数だと価格は大して変わらない。

 なお、「今後このジャンルでどれだけ活動していくか」も部数を決めるにあたって大きな要因だろう。またこのジャンルでイベントに出る予定があるなら、ある程度部数はあった方がいい。しかし現ジャンルは今回の再録の加筆修正を書いたら超すっきりしてしまい、今後も続けていくかは正直微妙だ。そのわりに30部は強気ともいえるが、やっぱりこんないい話書いちゃった以上、10や20部では自分に申し訳が立たないと、結局毎度のパターンで刷ることにした。

 この段落と次の段落は自慢になるので舌打ちしながら読むか、薄目で飛ばしていただければと思うが、印刷会社に注文を出したあとイベント用のお品書きを作り、いつもの通りpixivにアップしたところ、「同担で絵もうまければ話もうまい、超絶イケてる二次創作漫画を描く同人作家さん(以下、神)」からお品書きに対しブックマークをもらってしまったのだ。これは同人活動をしている人でないと伝わりにくい感動だと思うが、「庭から石油が噴き出て止まらない」くらいに捉えてもらえれば、おおむね合っている。なお、作品そのものをアップした時はその神からはブックマークはなかったのだ。

 マイナージャンルなので、神は単にイベント合わせ(同人用語で、そのイベントに合わせて中的一緒にコスプレをしたり、同人誌を出すことを差す)で同担はおしなべてチェックしていただけかもしれないが、そんなことを確認したところで何になるというのだろう。「神も気に入ってんだ、アタイの話。やっぱりね、アタイも好きなんだ」と鼻の下を人差し指でこすればそれで十分だ。しかし神からブクマをもらった以上、発行部数は30部ではなく300部の間違いだったのではと思ったが、お品書きのトータルのブックマーク数は結局いつも通り一桁で、心の底から追加注文を出さなくてよかったと思い当日を迎えた。

 神は通販派の可能性もあるし、私自身、人のお品書きをブクマしたものの買わずに終わるケースはある。よってイベント爆死の可能性はゼロではないものの、神からのブクマである種やりとげたなという思いを抱え、ビッグサイトに向かった。


■「部数は読めない」&「ジャンルを変えたら前ジャンルは苦戦」


 今回のイベントの頒布冊数は以下の通りになった。

【前提条件】
・同人誌A~Eを制作。全て二次創作。「A」「B~D」「E(新刊)」は元の作品が異なる
・書いているのは漫画でなく小説
・A~Cは50部、Dは40部、Eは30部刷る
・B~Eを同人誌の販社を通じ通販している(Aも以前はそうしていたが、委託期間が過ぎて今は販売していない。Eは手続き中で販売はまだ始まっていない)

【前回、2017年8月までの頒布冊数】
A 17冊
B 50冊(完売)
C 37冊
D 21冊
合計 123冊/190冊

【2017年10月の頒布冊数】
A 17冊
B 50冊(完売)
C 38冊(+1)
D 22冊(+1)
E 11冊(+11)
合計 136冊/220冊

※実際は印刷会社が何部か注文した分以外の「余部」を渡してくれるが、端数が出るので入れないでカウントしている。

 ウェブ再録の新刊(上記における「E」)は、今回のイベントで11冊を頒布できた。今年の春にその前の新刊「D」を初めて頒布したイベントでも頒布冊数は11冊と、蓋を開ければジャンルが変わっても同じだけの数を頒布できたのだ。

 現ジャンルはそれまでのジャンルより同人人気は強くなく、ウェブ再録の元となったオンライン上の話のpixivのブックマーク数は前のジャンルの1/4程度なのにだ。今までこの連載では何回か、「完売はわわ(イケると思われる数より全然刷らず、イベント開始1時間程度で完売してしまい、震えるまでの喜びを隠しつつtwitter上でごめんなさい>

 しかし、ジャンルが変わると前ジャンルの既刊は例えイベントに参加しても、数は一気に動かなくなる。二次創作の同人イベントは「桃太郎は東1ホール」「金太郎は東2ホール」「白雪姫は西1ホール」(例)などジャンルごとに配置されており、私は今回現ジャンルの場所で出たため、なかなか前ジャンルの人には来てもらいにくいのだろう。

 ここで問われるのが交流力であり、前のジャンルでイベント参加する人のスペースに自分の本を委託で置かせてもらっている人もいる。これができれば強いが、それに伴う諸々(人づきあい、しかも金銭の授受が発生)が伴う。そもそも私は非交流派なのに自分の本を頒布してほしいだけ人を頼ろうとするなんて、ムシが良すぎて自分の良心が頼む前に割腹自決を選んでしまうだろう。私は飽きっぽくジャンル熱がいつまで続くかわからないので、やはり部数は50部でなく30部でやっていくのがちょうどいいのだろう。

 また、前の記事にも書いたが、私の同人活動の力水は読んでいただいた方からいただく感想だ。twitterをやらない分、とっつきにくさはあると思うので「私、感想乞食で~すっ!」とのPRは積極的に行っている。そのせいもあってかイベントでは暖かい感想をいくつか頂けることもできた。11時くらいに「まだ御本があってよかったです」とほっとした笑顔で言われたときは、同人作家冥利に尽きた。来ていただいた方とそんなお話を今回あれこれできたのも楽しかった。


■同人活動は思いがけない世の中のニーズと、知らない自分の姿をあぶりだしてくれる


 今回、ウェブ再録だろうが、そうでなかろうが初動は同じになった現実を受け、しみじみと、自分の当たり前(ウェブ再録は買わない)は人の当たり前と限らないと感じた。

 私は以下はやらないが、すべてやっている人をわりとよく見かける。

①加筆修正のないウェブ再録を出す/購入する
②自分が好きになったジャンル、キャラクターの同人誌は絨毯爆撃で買い占める
③自分で書いた作品を超絶自慢する

 ①はすでに触れた。②はイベントでそうしている人をたまに見るが、私自身は好みの二次創作作家が書いたもののみ入手できればよく、そのキャラが出ていれば何でも欲しい!とは全くならない。むしろ、好きな二次創作作家が書いた話だから、あまり原作は知らない別ジャンルの同人誌を買ったこともある。

 ③は、私自身もこの原稿で散々自作を持ち上げているので正確にはやっているのだが、ここで言いたいのはtwitterやpixivなどで自作を絶賛しちゃう行為のことだ。そんな人いるのかと思った人もいるかもしれないが、結構いるのだ。男性作家をイメージした人がいるかもしれないが、女性作家でも結構いる。

 私は自作が最高に好きだが、pixivで投稿時に絶賛はしない。何も言わずに神作をそっと出すのが最強クールな振る舞いであり、私自身そういう神が好きでかくありたいと思うからだ。しかし、自作を臆面もなく絶賛しちゃうタイプの人はそうまでするだけあって上手い人もいるし、そういう同人作家はファンがつきやすい気がする。口数の少ない控えめな人より、自作をいけしゃあしゃあと語る「俺」な方がカリスマ性は宿りやすいだろう。あまりに堂々と自慢しているのを見ると、なんだこいつと思いつつジュンと来るのも否定できない。「な、なんであんないけ好かない奴のこと気になってんの、私」と、読者を少女漫画の主人公状態にさせる「抱いて力」が半端なく強いのだ。いわゆるボーイズラブ界隈においては「攻め(オス側)」の人材不足が叫ばれ久しいが、描いている側が総攻め様だったりするのだ。

 しかし、私とて「神が自分以外の同担をおしなべてブクマしていたらガッカリするから見ないようにした」と先ほど白状しており、「俺だけ見てろよ」と壁ドンをするような“俺様ハート”の持ち主なのだ。しかも相手は神だというから我ながらオス臭がえげつない。自慢しい同人作家が苦手なのは同族嫌悪だったのだ。私も今知ったが、自分とて総攻め様要素があったようだ。

 同人活動は自分でも知らなかった自分の一面をあぶりだしてくれる。

(文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/])

今日の運勢

おひつじ座

全体運

好奇心のままに動きまわろう。興味のある所に顔を出すと、ワク...もっと見る >

おすすめキャンペーン