2018/04/04 10:00

吉本興業の新入社員「お前呼ばわり」で退職――悪いのはパワハラ上司? “豆腐メンタル”の新人?

 3月25日の深夜に放送された『にけつッ!!』(日本テレビ系)で、お笑い芸人の千原ジュニアが、兄・千原せいじから聞いたという“吉本興業を退職した新入社員のエピソード”を披露。入社早々辞めたいと訴える新入社員に対し、上司が理由を確認したところ、「僕は親にも『お前』なんて呼ばれたことがありません!」「『お前』なんて呼ばれ方をする職場で僕は働けないです!」と答えたそうなのだ。

  “お前呼ばわりされたから”という退職理由に対して、同番組の共演者・ケンドーコバヤシは「世も末やな!」と呆れるようなリアクションを取り、「(男が)弱くなった……」と落胆していたのだが、ネット上では退職した新入社員を批判する声は少なく、むしろ矛先はジュニアとケンドーコバヤシへ。

 「周りから見下されるような環境で気持ち良く働けるわけがない」「男も女も関係ないでしょ。男だから、部下だから『お前』って呼んでいい道理なんてないよ」、さらに「吉本ってパワハラが常態化している会社なんですね。吉本のような縦社会がまさに『世も末』なのでは」とついには吉本興業にまで飛び火している状態だ。

 しかし一方で、「その新入社員は、世間知らずのお坊ちゃんだったんだろうか」「そんな豆腐メンタルでよく吉本に入社しようとしたな」「社会を舐めすぎているのでは」などというという意見も見受けられた。

 果たして、「『お前』呼ばわりはパワハラなのか?」――。白黒をはっきりさせるべく、今回、精神保健福祉士やキャリアコンサルタントなどの国家資格を持つメンタル・ジャーナリストの大美賀直子氏に取材。このパワハラ騒動についてお話を伺った。

 大美賀氏はストレスやメンタルコントロールに関する著書の執筆・監修を多数されており、精神保健福祉士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を保有している。また、カウンセラー、研修講師としても積極的に活動している、いわば“こころ”のプロフェッショナル。セクハラやパワハラ、モラハラなどのハラスメント(=いじめ、嫌がらせ)には心がどう感じるかが密接に関係しているので、この問題に対しまさに適役と言えるだろう。

 そんな大美賀氏に今回の騒動を説明すると、「どのような状況で言われたのか、継続的に言われていたのかなど、細かな情報がないとパワハラかどうかをコメントすることはできないのですが……」と前置きしつつも、「一般的には会社というビジネスの場で『お前』という呼称はふさわしくないですね」ときっぱり言い切った。

「ビジネスの場に限らず当たり前のことですが、『相手の尊厳を傷つけていないか』という配慮は人として基本中の基本です。ましてや、『職場』は多様な価値観を持つ人が働く場です。『吉本だからよい』『この会社の慣習だから仕方がない』ということではなく、職場においては業務の適正な範囲を超えて人に精神的な苦痛を与える言動は、パワハラになります」

 つまり、どのような状況下、どのような頻度や程度でその言動が行われたのかを総合的に判断しないと、パワハラと言えるかどうかはわからない。しかし、言われた人が苦痛になる呼び方を何度も繰り返されて、退職を考えるほど不愉快になっていたのであれば、パワハラの可能性が考えられるということだ。

女性社員への“ちゃん付け”も問題

 では、実際に職場での呼び方がパワハラやセクハラになったという事例はあるのだろうか? 裁判例情報によると、パワハラと認められた事例の中に、“呼び方”が関わっているものも散見された。2009年には、佐川急便で働く男性が上司から「お前なんかいらない」という言葉を受け自殺した一件が大きく報じられた。

 この件では「お前」のほかにも「社内放送では名前を呼び捨て」「名簿から名前を消される」など、呼び方や名前に関わる多くの問題発言や行動があり、さらには激務による過労や飲食代を払わされるなどの金銭的トラブルなどもあったという。

 また、10年には、部下に“ちゃん付け”をしてメールを毎日送ったとして、福井大学の男性職員が停職2カ月の懲戒処分になっている。被害者は、仕事とは関係のないメールが毎日上司から送られてくるというストレスとともに、“ちゃん付け”にもストレスを感じていたのではないかと推測できる。こうした情報を読むと“たかが呼び方”と啓記すような考え方は間違いだということを強く印象付けられる。

 では、自分が上司だったとして、パワハラ加害者にならないためには部下をどのように呼ぶのが適切なのだろうか?

 大美賀氏によると、「人には氏名があるのですから、苗字に『さん』をつけて呼ぶことが原則です。部下に対してでも、ビジネスの場においてはそのような敬称をつけるべきです」とのこと。

 もしあなたが今「部下は呼び捨てされてあたり前」と少しでも考えたのなら、パワハラ予備軍になる可能性があるかもしれないので気を付けるべきだろう。とにかく、“業務の適正な範囲を超えて、職場の人に精神的・身体的苦痛を与えていないかどうか”がパワハラの境界線。相手が仕事を辞めざるを得なくなったり心の病に陥ったりするほど、精神的に追い詰めてしまってからでは遅いのだ。

 ネット上では、「そもそも、プライベートであるべきはずの退職理由が芸人にまで広まってしまい、ましてやそれをテレビで愚痴っぽく語ってしまうのは非常にモラルに欠けている」などとも指摘されている今回の騒動。

 辞めた原因が“お前呼ばわり”された件しか情報が載っておらず、どのような状況で言われたのか、継続的に言われていたのかなど、細かな情報はわからないため、あくまで臆測となってしまうが、社員の退職理由が“ネタ”となってしまう吉本の社風を考えると、きっと原因は“お前呼ばわり”だけではないのだと思ってしまう。ジュニア・ケンドーコバヤシともに“親に殴られるのが当たり前の世代”らしいが、時代は変わっていることに気づいた方がいいかもしれない。
(文=ヨコシマリンコ)

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