2018/01/17 11:00

「ツイン・ピークス」を生んだ巨匠デヴィッド・リンチ。その傑作の数々を振り返る

(c)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016
映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』 2018年1月27日(土)、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか、全国順次公開

「ツイン・ピークス」をはじめとする奇怪な映像作品で世にインパクトとショックをもたらし続けてきたデヴィッド・リンチは、映画界の玄人たちから常に一目を置かれる唯一無二の存在です。一部の映画マニアからもカリスマとして熱狂的に支持されています。

あのジョージ・ルーカスに才能を惚れこまれ、『スター・ウォーズ ジェダイの復讐(ジェダイの帰還)』のメガホンをとらないかとオファーを受けたほどの鬼才は、これまでどのような衝撃作・意欲作を生み出してきたでしょうか。

リンチの創作活動の源泉をたどるバイブル的映画『デヴィッド・リンチ アートライフ』の公開に先駆け、彼が手がけた傑作の数々を振り返ってみましょう。

(c)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

猟奇趣味のなかのヒューマニズム、『エレファント・マン』(1980年)

『イレイザーヘッド』(1977年)で衝撃の長編監督デビューを飾り、「深夜上映のカリスマ」として一部の映画マニアから熱狂的な支持を得たデヴィッド・リンチ。それからほどなくして発表した『エレファント・マン』(1980年)によって、彼の名は一躍世界の知るところとなりました。

本作は生まれつきの奇形から「エレファント・マン」と呼ばれて見世物小屋に立つ青年ジョン・メリックが、外科医や女優との出会いを通して少しずつ心を開いていく過程を描いた物語です。

評論家のなかにはグロテスクな映像描写を嫌悪する人もいましたが、猟奇趣味のなかにも人間的な温かみを感じられる作品として、最優秀作品賞などアカデミー賞8部門にノミネートされました。

困難に見舞われながら情熱で完成させた意欲作、『デューン/砂の惑星』(1984年)

フランク・ハーバートのSF大河小説『デューン』の映像化に挑戦した意欲作『デューン/砂の惑星』(1984年)。巨大な虫が支配する荒涼の惑星アラキス(通称デューン)を舞台に、メランジと呼ばれるスパイスを巡る争いや救世主一族の革命など多様なドラマが展開します。

世界観があまりに壮大すぎるために、過去に映画化の計画が2度頓挫していた“いわくつきの物語”でしたが、リンチは持ち前の発想力で尺を大幅に削るなど大胆な工夫を凝らし、どうにか完成へと漕ぎつけました。

当初の構想から大きくスケールダウンせざるを得ず、ダイジェスト版のような内容に仕上がったため、世間の評価は芳しいものではありませんでした。リンチ自身、「大変悔しい思いをしたし、残念な結果を迎えた」と自伝で回顧するほど、不完全な出来だったようです。しかし、リンチ独特の悪趣味的な世界観が全面に表れた作品となったことから、映画マニアのあいだではカルト作として一定の評価も得ています。

過激な描写をめぐって世界中に論争の渦が!『ブルーベルベット』(1986年)

デヴィッド・リンチといえば、ひとつの作品のなかにジャンルを問わず複数の題材を多く盛り込むスタイルが知られます。『ブルーベルベット』(1986年)は、リンチが自身の作風を確立するきっかけとなったと考えられている記念的作品です。

リンチは本作のなかで、1950年代を彷彿とさせるのどかな田舎町の暗部を伝統的なミステリー映画の手法にならって暴き出し、見事に善と悪の葛藤を描いてみせました。不法侵入や覗き見、性的虐待といった倒錯的行為が物語のなかで重要な役割を果たしている作品であるがゆえ、公開されるとすぐに世界中で論争を巻き起こしましたが、批評家の反応はすこぶるよく、全米批評家協会賞作品賞・監督賞、LA批評家協会賞監督賞など名だたる映画賞を総なめにしました。

また、本作で初めて起用されたアンジェロ・バダラメンティの1950年代をイメージとさせる音楽は、のちのリンチ作品に欠かせない要素となりました。

デヴィッド・リンチといえばやっぱりこれ、「ツイン・ピークス」シリーズ

90年代初頭に、ある衝撃のテレビドラマが社会現象を巻き起こしました。デヴィッド・リンチが演出を手がけた「ツイン・ピークス」です。リンチの名を聞いて、最初に同作を想起する人も少なくないでしょう。

本作は、FBI特別捜査官であるデイル・クーパーの活動を主軸に、架空の田舎町ツインピークスの日々を描いた複合的ミステリーです。複雑な人間関係が織り成す物語が、ある連続殺人事件を導入として、性、麻薬、虐待といった日常の暗部、社会問題、環境破壊、宗教、超常現象、宇宙など幅広い題材とともに展開していきます。1950年代風の音楽と茫漠とした映像が特徴で、全体に古今東西の名作のパロディが散りばめられているところも見どころの一つです。

『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(1992年)は、物語のなかで重要な位置を占めるローラ・パーマー事件を扱った劇場版作品で、TV版では解明されていない事実を明らかにする意図をもって制作されました。ローラ・パーマーというキャラクターにのめりこんでいたリンチは、テレビ・シリーズが打ち切られた後も「ツイン・ピークス」の世界を去りがたく、ローラを主人公に、彼女が殺害されるまでの7日間を映像化するというプロジェクトを打ち立てたといいます。

(c)Duck Diver Films & Kong Gulerod Film 2016

リンチ作品の魅力のひとつに、人間社会や人間精神に潜む闇を、なめらかな質感の映像美と印象的な音響効果の中で、シュールレアリスティックにえぐり出す点があります。一般的に醜いと捉えられているものの中に究極の美を見出したり、「善悪」や「優劣」といった単純な対概念を破壊しようと試みたりするリンチ独特の姿勢は、作品の鑑賞者に発見と衝撃をもたらします 。

『デヴィッド・リンチ アートライフ』は、そんなリンチの芸術哲学や表現手法を、リンチ自身の言葉によって知ることができるファン垂涎のドキュメンタリーフィルムです。本作を鑑賞してから改めてリンチ作品の数々を振り返ると、新しい発見があるかもしれません。リンチ作品に触れたことがない方も、本作を介してデヴィッド・リンチという特異な人物に関心をもつことでしょう。

リンチの語りにじっくり耳を傾けながら、リンチの脳内に広がる宇宙を遊泳するうち、きっとあなたもリンチの倒錯した世界の虜になるはず。

『デヴィッド・リンチ アートライフ』は、2018年1月27日(土)より、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開。

 (桃源ももこ@YOSCA)

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