2018/04/23 17:00

世界一“シネマ映え”する街ニューヨーク、その魅力に迫る最新オススメ3作

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』
4月28日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
(C)Thought Equity

文=圷 滋夫(あくつ しげお)/Avanti Press

『ウエスト・サイド物語』(1961年)、『ゴッドファーザー』シリーズ、『タクシードライバー』(1976年)、『アニー・ホール』(1977年)、『恋人たちの予感』(1989年)、『レオン』(1994年)、『はじまりのうた』(2013年)などなど。これら映画史に残る傑作にはマンハッタン──それも摩天楼や高級ブランド街ではない、古き良きアメリカの街並みの雰囲気をとどめる地域が登場する。しかしある1人の主婦がいなければ、これらの傑作が存在しなかったかもしれないことをご存知だろうか?

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』4月28日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開 (C)Library of Congress

この主婦がいなければ、マンハッタンを舞台にした名作の数々もなかった!?

その名はジェイン・ジェイコブズ。彼女はグリニッジビレッジに住む3人の子供を持つ主婦であり、建築や都市に関するジャーナリストでもあった。いわく「都市にとって大事なのは、そこで暮らす住民と公共の場所と街路」「古い建物を残して多様性を持たせる」「ニューヨークは誰でも受け入れ、どの通りにもどの地区にも個性があり、歩いているだけで楽しい」。4月28日公開の『ジェイン・ジェイコブズ―ニューヨーク都市計画革命―』は、愛するマンハッタンを住民の意向を無視した再開発から守る彼女の闘いを綴ったドキュメンタリーだ。

1954年、ジェイコブズは子どもたちの遊び場でもあるワシントンスクエア公園に、幹線道路を貫通させる計画が進められていることを知る。彼女は地域住民を巻き込み、反対運動を始める。相手は“都市再生の帝王”と呼ばれ、ニューヨークの公共事業を仕切る建設コーディネーター、ロバート・モーゼスだ。

彼は金と権力を武器に政治家と企業と開発業者を結び付け、狙った地域をスラム=街の病巣と見なして撤去。多くの住人を立ち退かせ、高層ビルや公営住宅を次々と建てていた。第二次大戦後の経済発展という大きな流れの中、モダニズムの考えのもと高速道路と高層ビルを造るのは、時代の必然でもあった。

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』4月28日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開 (C)Controlled Demolition Inc

モーゼスは地域のコミュニティには無関心。過去の建物を壊して全てを刷新するやり方で、ジェイコブズと真っ向から対立した。その後も1961年には彼女が住むウエストビレッジをスラム指定地域にした再生計画、1962年にはロウアー・マンハッタンに高速道路を横断させる大規模な計画が明らかになる。

しかしジェイコブズは市民運動の戦略家としても優秀だった。彼女の知的でユーモア溢れる手法が運動の輪を広げ、批評家のスーザン・ソンタグやエレノア・ルーズベルト(フランクリン・ルーズベルト大統領の妻で婦人運動家)などの著名人も彼女に協力するようになる。当時は環境問題や公民権、フェミニズムなどの市民運動が大きな盛り上がりを見せていて、そんな世間の空気にもリンクしていたのだ。こうしてジェイコブズとモーゼスは壮絶な闘いを繰り広げることになる。

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』4月28日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開(C)Corbis

これらの計画にはグリニッジビレッジやソーホー、バワリー、リトルイタリー、チャイナタウンなどの豊かな個性を持った地域が含まれていた。もし計画が実行されていたら、冒頭に挙げた名作を含む多くの映画は、これらの場所で撮影されることはなかっただろう。

またこの地域には、多くのフォーク歌手が育ったカフェやジャズクラブ、パンクの拠点となったライブハウス「CBGB」などもある。もしそこで興ったフォークやパンク、現代ジャズなどのムーヴメントがなかったら、現在の音楽地図はまったく違うものになっていただろう。オフからオフ・オフ・ブロードウェイの小劇場やギャラリーも多い地域なので、もちろん演劇や美術も同様だ。そう考えるとニューヨークに関わる全ての芸術家は、そしてそんな彼らのファンである私たちも、ジェイン・ジェイコブズに感謝しなければならないのだ!

オーソン・ウェルズの不朽の名作に引っ掛けたタイトル“Citizen Jane”

ちなみにジェイコブズは1961年、それまでの経験をまとめた『アメリカ大都市の死と生』を著しており、今では都市開発論のバイブルとなったこの本が、本作のベースになっている。また彼女が市民運動の中で生み出した様々な手法は、今も世界中で展開する運動の手本になっている。

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』4月28日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開 (C)Library of Congress

しかしそれは、モーゼスのような存在や金儲けのための利権構造がどこの国、いつの時代にも存在することの証明でもある。もちろん日本も例外ではない。少々脱線するが、そんな最悪な都市開発に対するカウンターになっていたのが、2月に表参道で開催された現代美術作家の会田誠による展覧会だ。それは都市の再生がテーマで、多くの作品のコンセプトがジェイコブズの考え方と通底し、共鳴していて痛快だった。

最後に、本作の原題は“Citizen Jane(市民ジェイン)”だ。もちろん映画史上最高の傑作とも評されるオーソン・ウェルズ『市民ケーン(Citizen Kane)』のパロディで、主人公のケーンが新聞王で大金持ちという皮肉が見事に効いている。そして彼がどんなに贅を尽くしても結局は孤独で、思い出すのは貧しい幼少期の遊び道具という内容が、本作の本質的な部分にも重なり秀逸だ。

『さよなら、僕のマンハッタン』の原題は、NY生まれのポール・サイモンの名曲から

せっかくなのでジェイコブズが守ったマンハッタンが舞台の、最新映画2本を紹介しよう。まずグリニッジビレッジとも関わりが深いサイモン&ガーファンクルの名曲がそのまま映画のタイトルになった『The Only Living Boy in New York(ニューヨークの少年)』で、邦題は『さよなら、僕のマンハッタン』だ。

『さよなら、僕のマンハッタン』丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国で公開中 (c)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

作家を目指す主人公トーマスが暮らすアパートや、レストラン、ナイトクラブ、カフェ、シックなホテルに公園や街並み……。本作のロケ地の多くは、もしかしたら再開発で消えていたかもしれない地域の、古き良き雰囲気を湛えている。そして本作自体がこの地域にかつては満ち溢れていた(つまり、今や商業主義に侵され失われてしまった)様々なカルチャーへのオマージュになっている。その喪失感は本筋の物語全体からも匂い立つ。

『さよなら、僕のマンハッタン』丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国で公開中 (c)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

たとえばトーマスは、恋人だと思っていたミミから「あなたは友達で、私はクロアチアに移住する」と告げられる。トーマスの隣の部屋に越してきた知的で怪しい中年男は示唆に富んだ人生の機微をトーマスに教えるが、自分自身は今でも、かつての破れた恋が忘れられない。トーマスの父イーサンと母ジュディスは互いに心が離れてしまった。そしてイーサンの愛人ジョハンナ(彼女も自殺した父へのトラウマを抱えている)の存在を知ったトーマスが彼女に近付き、惹かれ始めることから物語が動き出すのだ。

『さよなら、僕のマンハッタン』丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国で公開中 (c)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

現代のニューヨークを、ノスタルジー溢れる寓話として描く

少しずつ各々の想いが滲み出し、最後にある秘められた事実が明らかになる。その瞬間、それぞれの孤独の理由がパズルのように繋がり、まだ何者でもない青年の成長物語の先に、奥ゆかしくも深淵な人間模様が浮かび上がってくる。観終わった時にはその見事な脚本に心揺さぶられ、ある仕掛けによる巧みな構成に気付かされるだろう(ただ原題と違う邦題で少々分かりにくいので2度観をオススメ!)。

『さよなら、僕のマンハッタン』丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国で公開中 (c)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

監督は『(500)日のサマー』(2009年)、『gifted/ギフテッド』(2017年)のマーク・ウェブ。自ら暮らす現代のニューヨークを、ノスタルジー溢れる寓話として描いている。またトーマスを演じたカラム・ターナーの青臭さと、謎の中年男を演じたジェフ・ブリッジスのいぶし銀の渋さが素晴らしく、ポール・サイモンが歌う永遠のメロディーと「僕はここにいる。ニューヨークでひとりぼっち」という歌詞が、すべての想いを1つにする。

半世紀の時を隔てた2つの物語が交差する『ワンダーストラック』

もう1本は、1977年の少年ベンと1927年の少女ローズの物語『ワンダーストラック』だ。「半世紀の時を隔てた2つの物語が、どこでどのように交わるか?」というスリルが極上のミステリーのようで、それが本作の大きな見所の1つだ。遂に訪れるその瞬間の驚きと壮大なドラマには、誰もが胸を熱くするだろう。

『ワンダーストラック』公開中 PHOTO:Mary Cybulski

ベンとローズには共通点がある。まず2人とも耳が聞こえない。ベンは落雷の事故で。ローズは生まれつきで、口もきけない。2人は故郷を飛び出すが、その目的の地が共にニューヨークなのだ。母を事故で亡くしたベンは、会った事のない父を探しに。ローズは大好きなスターの舞台を観るために。

『ワンダーストラック』公開中 PHOTO:Mary Cybulski

2つの物語は見事な演出によって並行して描かれるが、特に秀逸なのはローズのパートだ。白黒無声映画のスタイルでローズの聞こえない、そして喋れない状況をユーモアたっぷりに表現する。それは終盤の人形や模型を使った撮影と相まって映画の歴史を辿り、映画そのものへの大きな愛を感じさせる。

『ワンダーストラック』公開中PHOTO:Mary Cybulski

『さよなら、僕のマンハッタン』と『ワンダーストラック』の意外な共通点

実は本作は『さよなら、僕のマンハッタン』ともいくつかの共通点がある。まず、両作とも古書店が重要な出会いの場になっていること。『恋におちて』(1984年)や『ユー・ガット・メール』(1998年)を挙げるまでもなく、マンハッタンは書店の佇まいがよく似合う。その『ワンダーストラック』に描かれるキンケイド古書店は、『さよなら、僕のマンハッタン』の重要な場面で流れるボブ・ディランの曲「ジョアンナのビジョン」が収録されたアルバム「ブロンド・オン・ブロンド」のジャケットを店内に飾っている。

『ワンダーストラック』公開中 PHOTO:Mary Cybulski

『さよなら、僕のマンハッタン』丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国で公開中 (c)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

また両作とも、音楽が時代を彩るアイコンとしてとても重要な役割を果たしており、個人的には「この人の名前があればハズレなし!」と思っているランドール・ポスターの名前が音楽監修として両作ともクレジットされている。ちなみに『ワンダーストラック』では、ベンの母が大好きな曲としてデヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」が何度も印象的に流れるが、実はこの曲にも前述の「ニューヨークの少年」にも、歌詞の中にトム(=トーマスの愛称)という人物が登場するのだ。

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