2018/06/18 18:00

元洋楽雑誌編集者が語る、自虐のロック映画『スパイナル・タップ』がロックスターにも愛されたワケ

『スパイナル・タップ』(配給:アンプラグド)
6月16日(土)新宿武蔵野館他全国ロードショー
(c)1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.

文=赤尾美香/Avanti Press

私は、80年代半ばから90年代半ばまでを洋楽ロック専門誌の編集部で過ごした。メインストリームからインディまで幅広く扱う雑誌だったが、80年代半ばにもっとも力を入れていたのはLAメタルや、ヘア・メタル(長髪をスプレーで膨らませた“元祖ビジュアル系”的ハード・ロック)と呼ばれたバンド、及びその周辺にいたバンドである。

LA勢ではヴァン・ヘイレン、モトリー・クルーやラット、ポイズン。東海岸のボン・ジョヴィやシンデレラ、イギリスのデフ・レパードもこの中に入れていいだろう。そして、80年代も終盤になるとガンズ・アンド・ローゼズが登場。エアロスミスは華麗なる復活を遂げ、ハード・ロック・シーンは一層の盛り上がりを見せた。

海外ロックスターたちが揃ってフェイバリットに

『スパイナル・タップ』(配給:アンプラグド)6月16日(土)新宿武蔵野館他全国ロードショー(c)1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.

編集部の一員として、私も多くのハード・ロック・バンドに取材をした。そんなとき、インタビューやその前後の雑談、直筆アンケートの回答などで映画の話題が出ることも珍しくなかったのだが、やたらと多く耳や目にしたタイトルが『スパイナル・タップ』だった。パッと浮かぶところでは、ポイズンやスキッド・ロウ。彼らとはこの映画の話をしたことを覚えている。

けれど、私はその映画を知らなかった。知らなければ“もぐり”のレッテルが貼られるようなムードだったので、しばらくの間は知ったような顔をしていたけれど、あまりにみんなが口にするものだから、いてもたってもいられなくなり、「そんなことも知らないで……」くらいのお小言は覚悟の上で、ハード・ロックを得意とする先輩に白状した。「実は『スパイナル・タップ』、観てないんです」と。今のようにネットで簡単に検索できる時代ではない。レンタル・ビデオ店を何軒か回ったけれど見つけられずに、仕方なく白旗を掲げたのだ。

『スパイナル・タップ』(配給:アンプラグド)6月16日(土)新宿武蔵野館他全国ロードショー(c)1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.

すると先輩は「えーっ! 観てないの? うちにおいでよ、一緒に観ようよ」と誘ってくれた。聞けば、日本では劇場公開されていないという。当時すでに日本版ビデオが発売になっていたかどうかわからないのだが、先輩が持っていたのは海外出張先で購入したVHSビデオで、当然のことながら日本語字幕がなかった。だから、英語が不得手の私のために解説付きの鑑賞会を開いてくれたのだ。

セリフの一言一句までわかったわけではないけれど、先輩が教えてくれるあらすじや時々の状況だけで、エピソードの元ネタやオチの意味がわかり、笑うには十分だった。笑いながら「あいたたたた……」と思うシーンも少なくなかった。スパイナル・タップというバンドが実在しないことの方が信じられないくらい圧倒的なリアルさだった。その後私は、本作のビデオもDVDも入手、何度か繰り返し観てきたが、今こうしてまた観ても、やっぱりおもしろさは褪せていない。

『スタンド・バイ・ミー』の名匠ロブ・ライナーのデビュー作

34年の時を経てこのたびまさかの日本劇場初公開(!!)が決まった本作『スパイナル・タップ』は、伝説のロック映画ともロック・ファンのバイブルとも言われる、名作にして珍作だ。架空のロック・バンド「スパイナル・タップ」が、ニュー・アルバムをPRするために行なった1982年の全米ツアーの様子を追ったドキュメンタリー、ならぬ“モキュメンタリー”である。

監督は『スタンド・バイ・ミー』(1986年)、『恋人たちの予感』(1989年)、『最高の人生の見つけ方』(2007年)などのロブ・ライナー。本作が監督デビュー作だったライナーは、劇中に出てくるドキュメンタリーの監督役(バンドへのインタビュアー役)を演じてもいる。

劇中では「映画監督マーティ・ディ・ベルギー」に扮したロブ・ライナー『スパイナル・タップ』(配給:アンプラグド)6月16日(土)新宿武蔵野館他全国ロードショー(c)1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.

幼なじみのデヴィッド(金髪イケメンのフロントマン)とナイジェル(ギタリスト)によりイギリスで結成され、60年代にデビューしたスパイナル・タップは、時代に迎合しながら衣装も髪型も音楽性も変化させて生き残ってきた。そして80年代、ハード・ロック・バンドとして人気を博した彼らだが、その人気にも陰りが見え始めた82年、今一度栄光の座を掴むため、新作『Smell The Glove』(直訳:手袋の匂いを嗅げ)を引っ提げて全米ツアーを敢行。かねてバンドのファンだった映画監督マーティ・ディ・ベルギーはツアーに密着しドキュメンタリーを撮ることを決意する。

ナイジェル・タフネル役を演じたのはクリストファー・ゲスト『スパイナル・タップ』(配給:アンプラグド)6月16日(土)新宿武蔵野館他全国ロードショー(c)1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.

ところが、だ。ホテルのブッキング・ミスなど可愛いもの。サイン会では閑古鳥が鳴き、ラジオのDJには「あの人は今!?」扱いされ、チケットが売れずに幾つかのショウはキャンセルになる。新作のジャケットはレコード会社からNGをくらい(もっとえげつないライバル・バンドのジャケットはOKなのに)、舞台装置は故障するわ、気合を入れて飛び出した楽屋からステージへの経路がわからず迷子になるわ、ハプニングのてんこ盛り。

溢れる“ロック愛”とブラック・ユーモアの奇跡的バランス

さらに拍車がかかる“バンドあるある”の連続技。デヴィッドの恋人ジャニーニがツアーに合流。ふたりは東洋哲学と十二宮占星術にかぶれており、何かとそれらを持ち出してはバンド内を引っ掻き回す。マネージャーは去り、すっかりマネージャー気取りのジャニーニにナイジェルも激怒、脱退を決意……と、洋楽好きならどこかで聞いたような話だらけ。

金髪イケメンのギタリスト、デヴィッド・セントハビンズ役にはマイケル・マッキーン『スパイナル・タップ』(配給:アンプラグド)6月16日(土)新宿武蔵野館他全国ロードショー(c)1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.

歴代ドラマーが死亡している話の元ネタはレッド・ツェッペリンとザ・フーだと往年のロック・ファンなら、すぐにわかる。NGとなった新作ジャケットの代案デザインはなんと真っ黒。メンバーはみんなブーたれているが、後年、メタリカが真っ黒ジャケットのアルバム『メタリカ』(通称『ブラック・アルバム』)をリリースしたのは、本作のこのエピソードへのオマージュであると、ファンの間では有名だ。

本作きっての名シーンは、サイズを間違えて製作されたストーンヘンジの舞台セットと、踊る小人。あまりのシュールさに笑いも乾くが、この“ロック愛”とブラック・ユーモアの絶妙なバランスが、実際のバンドマンや音楽業界人のツボにはまり、本作はカルトな人気を得たと言っていいだろう。

調子いいことを言いながら実はバンドのことなど微塵も思いやらないレコード会社。売れたもん勝ちの非情な世界。本音と詭弁のせめぎ合い──。それらすべてを自虐的に笑い飛ばすくらいでないとハード・ロック・バンドなんてやってられるか!!  といったところだろうか。

日本人には嬉しい笑撃のラストは、ぜひ劇場で

『スパイナル・タップ』(配給:アンプラグド)6月16日(土)新宿武蔵野館他全国ロードショー(c)1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.

果たして、どうなるスパイナル・タップ!? このまま彼らの歴史は閉じられてしまうのか、と思いきや、「なるほど、こう来るのかぁ〜!!」と、とりわけ日本人の私たちには光栄でちょっと照れ臭いラスト・エピソードが待っている。ナイジェルが着ているのは読売巨人軍のフニフォーム、背番号1だ(とだけ書いておこう)。この笑撃のラストは、ぜひ劇場でご覧いただきたい。

モキュメンタリーという性質上、劇中の演奏(作曲も)はすべて俳優たちがこなし、実際彼らはスパイナル・タップとして、1992年に再結成アルバム『Break Like The Wind』、2009年には『Back From The Dead』をリリースし、ツアーを行なったりもしていることも、付け加えておきたい。

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