2018/08/15 07:00

二宮和也と互角に渡り合う超個性派、酒向芳の「地獄の包容力」

(C)2018 TOHO/JStorm

木村拓哉と二宮和也の初顔合わせで話題沸騰の映画『検察側の罪人』(8月24日より公開)。もちろん、両者の演技合戦は本作最大の見どころだが、百戦錬磨の個性派がズラリと揃い、鉄壁の脇を固めている点も逃せない。

中でも注目は、物語のキーマンとなる被疑者・松倉重生役の酒向芳(さこう・よし)。一度見たら忘れることのできない存在感。観る者の深層心理を逆撫でするような振る舞い。オーラも、演技の強度も、ハンパない。映画ファンなら、例えばかつて『セブン』(1995年)の犯人役でセンセーションを巻き起こしたケビン・スペイシーを思い起こすかもしれない。

映画を沸騰させ、導火線に火を点ける

本作で監督を務めた原田眞人は、その演出力と共にキャスティングの選球眼に独自の才覚がある。

たとえば『クライマーズ・ハイ』(2008年)。あの作品で堺雅人は完全ブレイクを果たし、滝藤賢一は一躍脚光を浴びた。堺にとっても、滝藤にとっても、決定打となった。以後、堺や滝藤が、いかに映画やドラマの世界で活躍しているかは言うまでもないだろう。

原田は今回の二大スター競演作に際して、演劇畑から確かな芝居力を持つツワモノたちを集結させた。松重豊、大倉孝二、八嶋智人。奇しくもこの3人は木村と「HERO」シリーズで共演しているが、これはあくまでも偶然の一致であり、原田のこだわりは舞台で実力を示している演技巧者だったという。

酒向も舞台を中心に活動している。数々の映画、ドラマにも出演しており、現在放送中の朝ドラ「半分、青い。」でも顔を見せているが、松重や大倉、八嶋に較べれば、一般的な知名度は低く、本作への起用は大抜擢そのものである。

ある事件を巡って、木村演じるカリスマ検事と、二宮の演じる血気盛んな後輩検事が火花を散らす。それは、それぞれの正義をめぐる闘いだが、この対立の真ん中にいるのが、酒向扮する事件の容疑者なのだ。

言ってみれば、酒向のオーラ、演技が凄まじいからこそ、木村と二宮の抗争も激化することになる。ある意味、映画本体のエネルギーを沸騰させ、導火線に火をつける存在が酒向である。

(C)2018 TOHO/JStorm

トラウマ必至、戦慄と震撼の歴史的怪演

詳細は差し控えるが、酒向演じる松倉は、ある忌まわしい事件の容疑者だった過去がある。そうして、二宮扮する若き検事は彼を取り調べることになるのだが、このシークエンスが映画前半のクライマックスとなるのだ。

まず、目を見張らせるのは、二宮和也の驚異的な演技持久力だ。芝居に定評のある二宮だが、取調室という密室でスパークする気迫のみなぎり、怒涛の爆発、冷徹な沈黙、狡猾な挑発、相手に対する容赦ない蹂躙、それらすべてを緩急も豊かにコントロールする様には圧倒されるしかない。獣性がむき出しになったそのありように、誰もが前のめりでスクリーンを凝視することになるだろう。

だが、それを迎え撃つ酒向の底なし沼のような「地獄の包容力」は、二宮とは別種の闇のパワーを放ち、わたしたちはただ戦慄し、震撼する。

松倉は「ある告白」をする。事件現場に無理矢理「立ち会わされる」ような、破格の臨場感が酒向の語りにはある。舞台役者の揺るぎない本領が、トラウマのような徴(しるし)を画面に刻みつける。原田が演劇界の実力者にこだわった理由を、イヤというほど思い知らされる。

松倉は決してクールではない。若造の検事を上から目線で小馬鹿にしていたかと思うと、一転、仕掛けてきた口車にハマって逆上したりもする。つまり、きわめて感情的で、どこまでも人間的。侮蔑している者が、その直後に、翻弄される側に堕ちていく。その起伏が、一瞬にして精緻にかたちづくられている。単なる豹変ではなく、人という生きものの「一歩先はどうなるかわからない」普遍を、酒向は体現している。

真に嫌悪すべきキャラクターが、実は、わたしたちと同じ種族であることを体感する瞬間がいくつもある。だから、ほんとうに恐ろしいし心底震えるのだ。

(C)2018 TOHO/JStorm

これまではどちらかと言えば、温厚で、人情家の役どころが多かった酒向芳だが、『検察側の罪人』における「歴史に残る怪演」によって、一気にキャリアは加速するだろう。いま、最も見つめるべき俳優のひとりである。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)

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