2018/08/18 07:00

過ぎ行く青春のきらめきを描く『きみの鳥はうたえる』

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

『そこのみにて光輝く』(2014年)などで知られる佐藤泰志の小説を映画化した『きみの鳥はうたえる』(8月25日より函館シネマアイリス先行公開、9月1日より全国順次公開)。柄本佑と石橋静河、そして染谷将太という若手実力派俳優の持つ身体性と繊細さを、『Playback』(2012年)、『THE COCKPIT』(2015年)で話題を集めた新鋭・三宅唱監督が最大限引き出した「生々しい」青春讃歌だ。

 夏の函館を舞台に紡がれる、他愛もない若者たちの日常

見ず知らずの誰かの日常をスクリーンで目の当たりにしながら、かつての我が身とダブらせ、映画館の片隅でジリジリとした気持ちを持て余すのは、年を重ねた者たちの特権だ。あの時は確かに存在していたのに、もう同じ場所には二度と戻れないことを痛感しながら、暗闇に身を浸し、束の間現実逃避するのだ。

三宅唱監督はこれまでにも、『やくたたず』(2010年)では雪原を学ラン姿の学生がつるんでうろつく姿を、そして『Playback』では村上淳扮する40代の男がスケートボードで疾走する姿を、いずれもモノクロームの陰影で捉えてきた。『きみの鳥はうたえる』で描くのは、まだ何者でもないモラトリアム真っ只中の若者たちのひと夏の姿。

ぶっきらぼうな「僕」を語り手に、同居人の静雄と、ひょんなことから仲良くなったバイト仲間の佐知子の3人が、毎晩のように酒を飲み、クラブで踊り、ビリヤードで遊び、くっついたり離れたりする。そんな他愛もない日常が切り取られているだけなのに、いつまでも見ていたいと感じるのは、この瞬間がそう長くは続かないことを知っているからかもしれない。

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

石橋静河に釘付け!浮遊感漂うエモーショナルな真夜中のクラブシーン

瑞々しいのにどこか猥雑で、人間の体温がしっかりと感じられる作品に仕上がったのは、まさしく三宅監督の手腕だろう。そして、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年)で若かりし頃の末井昭に扮した柄本佑と、小柄な体躯ながら怪物的な存在感を放つ染谷将太、そして『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)で一躍注目を集めた石橋静河3人で演じていることも大きい。

何よりそれを実感できるのが、浮遊感漂うエモーショナルな真夜中のクラブシーンだ。

かつて、ヒップホップ系のアーティストらが、新曲を完成させる過程に迫ったドキュメンタリー『THE COCKPIT』を手がけるなど、音楽シーンともゆかりの深い三宅監督。そんな彼の真骨頂とも言うべきこのシーンは、記憶に残る数々の青春映画の名場面にまったく引けを取らない強度を持って、観る者に迫ってくる。

意外にも長身で身体バランスの良い柄本と、リズムにすんなりと身体を委ねる染谷、そしてなによりコンテンポラリーダンサーとしても活躍してきた石橋の全身から放たれる抜群の表現力と弾けるような笑顔に、すっかり目を奪われてしまうのだ。

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

どうしようもないほど閉塞感が漂う人生に差し込む、かすかな希望

本作の舞台である函館は、寂しさと美しいきらめきを併せ持つ街。終わりなき日常を生きる人々の鬱屈と、ふとその緊張がほどけて弛緩する姿を交互に目にするたび、どの時代のどの場所に生きる人々も、いまの我々と同じように哀しみを抱えながら、ほんの少しの歓びを糧に日々を生きているのだ、ということが痛いほど伝わってくる。

(C)HAKODATE CINEMA IRIS

ベテランの渡辺真起子演じる静雄の母・直子や、萩原聖人扮する佐知子の不倫相手など、静雄たちを取り巻く“大人”が、圧倒的な存在感を持ってさらけ出すみっともなさと切実さは、やがて訪れる「僕たち」のその後の姿と重なるかもしれない。だが、それと同時に「彼らなら、もしかすると全く別の人生を歩めるかもしれない」というかすかな希望も、この映画は感じさせてくれるのだ。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)

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