2018/08/14 11:00

懐かしいのに現代的。森見登美彦原作『ペンギン・ハイウェイ』の魅力

(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

「四畳半神話大系」(2010年)、「有頂天家族」(2013年〜)、『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)など、アニメ化が続く森見登美彦作品。8月17日には、日本SF大賞を受賞した『ペンギン・ハイウェイ』のアニメ映画が公開を控えています。ここでは、どこか懐かしい風情を漂わせつつ、現代的な香りも併せ持つ本作の魅力についてご紹介します。

お姉さんとペンギンの謎とは…?森見登美彦原作の青春ファンタジー

(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

主人公のアオヤマくんは、小学4年生。利口で研究者気質で、学んだことをノートに記録しては分析する日々を送っていました。そんな彼が今もっとも興味を持っているのが、ミステリアスで無邪気で、大きなおっぱいを持つ歯科医院の“お姉さん”。アオヤマくんは、お姉さんについての研究を独自に始めます。

ある日、アオヤマくんの住む街に大量のペンギンが出没します。海のない住宅街に突如現れ、忽然と姿を消した不思議なペンギンたち。彼らはどこから来てどこへ行ったのか……。早速アオヤマくんは、クラスメイトとペンギンの研究に取り掛かります。すると、お姉さんが深く関わっていることが判明。さらに、お姉さんの体に異変が起こりはじめ、街も異常現象に見舞われてしまうのです。

現代っ子のようでいて研究熱心な主人公・アオヤマくん

(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

本作の魅力としてまず挙げられるのが、主人公・アオヤマくんのキャラクター。「たいへん忙しい」「たいへん興味深い」といった大人びた口調が持ち味で、いじめっ子のひどい仕打ちにも怒ることなく淡々と対応します。

一見、冷静な現代っ子のようにも思えますが、彼は自身の研究に夢中で、目の前のことにコツコツ勤しむ努力型。落ち着いて判断する力と、まわりに振り回されない姿勢、追求し続ける熱心さ……こうした研究者としての素質が、すでに備わっているのです。

一方で、アオヤマくんには年相応の子どもらしさもあります。クラスメイトが好きな子に意地悪してしまうのを見ては「親しくしたいのに、なぜそんな非合理的なことをするのかわからない」と首をかしげ、お姉さんのおっぱいに惹かれる理由が自分でもよく理解できずにいます。だからこそアオヤマくんはお姉さんを研究するのですが、彼が抱く名もなき感情は、決して特別なものではないはず。遠い日の甘酸っぱい記憶が蘇る人も少なくないでしょう。

アオヤマくんが持つ大人顔負けの研究者精神と、子どもならではの淀みないまなざしで見つめる世界のまぶしさ。これらの要素が彼の魅力となって終始物語をリードし、鑑賞後には爽やかな余韻をもたらしてくれます。

夏の風景を巧みに切り取ったアニメーションの手腕

(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

本作では、映像の美しさ、とりわけ“光”の描き方に息を呑むシーンがいくつもあります。部屋にすっと差し込む夏の光、いじめっ子たちが去った後に、一人残されたアオヤマくんの足もとを照らす傾き始めた太陽の光、水面に映る夏祭りの提灯の光……。それぞれの光が異なる情緒を持ち、現代の風景を描きつつも郷愁を誘います。

アニメーションを担当したのは、気鋭のアニメーションスタジオ、スタジオコロリドです。ショートアニメ「フミコの告白」(2009年)で文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞し、『陽なたのアオシグレ』(2013年)で劇場デビューを果たした石田祐康が監督を、スタジオジブリを経て『台風のノルダ』(2015年)で劇場デビューした新井陽次郎がキャラクターデザインを担当。「四畳半神話大系」、『夜は短し歩けよ乙女』といった森見作品の映像化を手がけてきた上田誠を脚本に迎え、“森見節”とも呼ばれる原作の世界観を残しつつ、若き製作陣ならではのみずみずしいビジュアル表現で、新たな作品へと生まれ変わらせました。

実力派キャストによって実現した、子どもを見つめる優しいまなざし

(C) 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

アオヤマくんを信じ続けるお姉さん、息子の研究に真摯に付き合うアオヤマくんのお父さん、研究熱心な子どもたちを見守るクラスメイトのお父さんなど、本作では大人のキャラクターたちの優しい目線が全体を包んでいるのも印象的。

お姉さんを演じた蒼井優は、「小さい子を引っ張っていく役はやったことがなかったので、声優として新しいチャレンジをさせていただきました」と語り、『鉄コン筋クリート』(2006年)や『花とアリス殺人事件』(2015年)の時とは異なるあどけなさ、包容力を体現。アオヤマくんのお父さんには西島秀俊、クラスメイトのお父さんには竹中直人といった実力派のキャストが揃い、子どもたちの冒険を見届けます。

また、主演のアオヤマくんを演じた北香那は、本作が声優初挑戦ですが、アオヤマくんのスマートさ、ウブさを見事に表現しました。お姉さんとのやりとりからは、2人のあたたかい関係性が伝わってきます。

子どもの頃を思い出して観ることも、大人になった今、子どもを思いながら観ることもできる本作。それこそが、懐かしさと現代らしさを同時に感じさせる要因となっているのでしょう。アオヤマくんの不思議な夏の日々を、あなたは誰の視点で見つめるでしょうか。

『ペンギン・ハイウェイ』は8月17日より全国公開。

鈴木春菜@YOSCA

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