2018/08/26 09:00

肯定派? 許せない派?『寝ても覚めても』“問題”のヒロイン、その魅力

『寝ても覚めても』9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
(c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

文=新田理恵/Avanti Press

恋愛映画の最強ヒロインを見つけた。『寝ても覚めても』(9月1日公開)のヒロイン、朝子だ。この作品がその人にとっての傑作恋愛映画となるかどうかは、彼女を受け入れられるかどうかにかかっている。

ヒロインの特徴1.異性が放っておかない小動物系

自分の心に真っ直ぐで、周りを振り回しても悪びれない、黒目がちで異性が放っておかなそうな小動物系の美女だが、ぶっちゃけ同性からの人気はいまひとつかもしれない。

『寝ても覚めても』9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
(c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

東京でカフェの店員をしている朝子(唐田えりか)は、コーヒーのデリバリーに行った会社で亮平(東出昌大)と出会う。亮平の姿を見て、戸惑いを隠せない朝子。8年前、大阪で暮らしていた時に運命的な恋をして、そして突如姿を消してしまった相手・麦(東出の二役)とそっくりな顔をしていたからだ。

次第に距離を縮めていく朝子と亮平。朝子は亮平との関係を深めながらも、ずっと麦を忘れられないでいる。朝子にとって、亮平は何なのか? 亮平がいい奴だと分かれば分かるほど、映画を観ているほうまで朝子が何かやらかすのではないかと心がざわつく。やがて、穏やかな二人の生活のなかに、突然、麦が現れる。

ヒロインの特徴2.思考プロセスが分からない

今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された際、批判的な評価をする人の中に、朝子の行動が理解できないという声が多かったようだ。とにかく、朝子は行動が突発的で、行動1から行動2に移るときの思考プロセスが分からない。ただ、いわゆる小悪魔系でも、悪い女でもない。自分が間違っていたと気づけば、素直に謝る。「何も分かってなかった」と謝る。自分の心に真っ直ぐすぎて、「分かる」「見える」より前に行動してしまうのだ。

『寝ても覚めても』9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
(c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

移り気、浮気性、優柔不断、冷酷非道。いろんな言葉で罵倒されても仕方ない行動に出る朝子だが、リアルで「自分は悪いことをしている」と“認識”はしても、“実感”しながら行動に移す人はどれくらいいるだろう。そう思うと、突拍子もなく思えるこの映画の展開が、非常に現実的なものに見える。

小説を大胆に換骨奪胎した濱口監督の手腕

本作は、芥川賞作家・柴崎友香が2010年に発表した同名小説をもとに、『ハッピーアワー』(2015年)などの作品で国内外で高い評価を得ている新鋭、濱口竜介監督が映画化した。

大筋の展開は小説そのままだが、登場人物の設定やエピソードは大きく変えている。なのに、場所や時間の移動が人物に作用するという、小説の特徴を失わない。その“翻案”は見事。

とりわけ素晴らしいのは、小説発表後に発生した東日本大震災を、映画に組み込み、大胆な換骨奪胎をやってのけたところ。その震災に関わる描写は、朝子の最強ヒロインぶりを増幅し、朝子と亮平の物語を動かす装置ともなっている。

『寝ても覚めても』9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
(c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

映画では、震災の日、交通機関がマヒした東京で、徒歩で家路を急ぐ亮平と、そこに現れる朝子が対峙する。あの日、あの時、たまたま東北ではなく東京で生きていて、不安と混乱の中でたまたま引き合わされた二人。そのとき、亮平に対して朝子の中の何かが動く。

感情のトリセツのない獸のようなヒロインを通して

亮平と住み始めた朝子は、足繁く東北の被災地の復興ボランティアに通う。いつも何を考えているのか読めない朝子に、明確な意思が見える数少ない描写。朝子はそうすることで、麦を待たずに亮平といることの正当性と、「たまたま自分が幸せになった」ことの意義づけを求めているようにも見える。ただし、本人がそう自覚しているかどうかは分からない。

『寝ても覚めても』9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開
(c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

朝子は、感情のトリセツのない獸のようなヒロインだ。彼女に魅了された亮平がとる行動もまた、はっきり説明できる類いのものではない。ラストシーンの掛け合いなんて、噛みあっていなくて笑ってしまうくらい不穏だ。

同じ景色を見ているのに、吐露される感情の温度差にゾクゾクする。許せないけど、好き。理屈より、刹那の感情。朝子というヒロインを通して、この映画は、恋愛が孕む狂気を、不可解なまま、不可解なものとして提示してくれる誠実さがある。

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