2018/09/01 07:00

綾野剛、柄本佑ら演技者を輝かせる「佐藤泰志ワールド」とは?

『きみの鳥はうたえる』公開中 (c)HAKODATE CINEMA IRIS

5度も芥川賞候補に挙げられながらも受賞には至らず、41歳で自ら命を絶った不遇の小説家・佐藤泰志。彼の原作を映画化した“函館三部作”と呼ばれる作品群では、これまで加瀬亮、綾野剛、オダギリジョー、蒼井優らが新境地を見出し、役者としてステップアップを遂げてきました。

佐藤泰志作品のキャラクターは、なぜ役者たちを輝かせるのでしょうか? 彼の4作目の映画化作品にして最新作『きみの鳥はうたえる』が公開した今、改めてその魅力をひも解きます。

孤高の作家・佐藤泰志文学のキャラクターたち

1949年に北海道函館市で生まれた佐藤は、高校在学中から北海道新聞社主催の文芸賞を受賞するなど、早くから才能の片鱗を見せます。国学院大学に進学、そして卒業後も、アルバイト生活を続けながら、数々の同人誌や文芸誌に小説を発表し続けてきた彼が、初めて芥川賞候補になった代表作が、1981年の「文藝」で発表した「きみの鳥はうたえる」でした。

佐藤はよく“不遇の小説家”と紹介されますが、作品世界もどこか閉塞感に満ちています。描かれる登場人物たちは街の片隅で焦りや孤独、悲しみを抱える市井の人々です。ありふれた都市のありふれた日常に耐えながら、そこでもがく人たち。疲弊し、病み、闇を抱えながらも、懸命に生きようと何かを成し遂げ、その瞬間だけ輝く“生”を肯定してきました。

佐藤の担当編集者だった阿部晴政氏(河出書房新社編集部)は、佐藤作品に何度も登場する「暴力」について、「佐藤にとって『暴力』は生きることの苦しみの表現」と指摘しています(公式プレス資料より)。苦しみながら生きる——。そんなキャラクターたちに真摯に向き合うストイックな筆致で、佐藤は物語を綴ってきたのです。

佐藤作品のエッセンスを継承した函館三部作

佐藤の死後、佐藤文学のファンを中心に再評価の機運が高まり、『海炭市叙景』(2010年)を皮切りに次々と作品が映画化されました。続く『そこのみにて光輝く』(2014年)、『オーバー・フェンス』(2016年)を含めて“函館三部作”と位置付けられる作品群に結実します。

映画で描かれたキャラクターたちもまた、現実にもがき苦しみながらも懸命に生きている人物像ばかり。そこには、作家の道を一度は諦めかけて、故郷の函館に帰ったことがある佐藤本人の実体験や想いも如実に反映されています。そうした佐藤作品のエッセンスを継承した役柄に、役者たちも“覚悟”を持って演じ切っているのです。

佐藤の遺作であり未完の連作短編小説である『海炭市叙景』は、函館市を模した架空の都市“海炭市”を舞台に、さまざまな事情を抱えながら暮らす人々を描きます。その中の一編“裂けた爪”には、初の父親役にも挑戦した加瀬亮が出演。父親から代々続くガス会社を継いだ若社長・晴夫を演じた彼は、経営の不備や、再婚した妻との家庭不和などを抱え、日々つのっていく苛立ちや焦りを、見事に体現しました。

『そこのみにて光輝く』では、仕事を辞めて無為な日々を追っている主人公・達夫を綾野剛が演じ、昼は水産加工場、夜は水商売で家族を支えるヒロインの千夏を池脇千鶴が扮しています。綾野は役づくりとして撮影期間中にあえて函館の街で毎晩飲み明かし、むくんだ顔で撮影に挑むことで退廃的な生活を送る達夫になりきりました。池脇は体当たりのラブシーンに挑み、文字通り体を張って家族を支える千夏を抜群の説得力で演じました。

『オーバー・フェンス』の主人公・白岩(オダギリジョー)は、妻に見限られ、東京から故郷の函館に戻って職業訓練校に通いながら失業保険で暮らしています。彼はある日、鳥の動きを真似るホステス・聡(蒼井優)と出会います。オダギリジョーが朴訥とした佇まいと寂寥感あふれる表情を見せれば、蒼井優が男の愛を求め続ける風変わりなホステスを演じ、これまでのイメージを打ち破るような強烈な存在感を発揮したのです。

(c)HAKODATE CINEMA IRIS

初期の代表作『きみの鳥はうたえる』で描かれる“生の輝き”

最新作『きみの鳥はうたえる』は、物語の舞台を原作にある“70年代の東京”から“現代の函館”へと移し、北海道出身の気鋭監督・三宅唱監督が映像化した作品です。

主人公は函館郊外の書店で働く“僕”(柄本佑)。失業中の静雄(染谷将太)と小さなアパートで共同生活を送っていましたが、ふとしたきっかけで僕と関係を持った佐知子(石橋静河)が毎日のようにアパートに遊びに来るようになります。佐知子と恋人同士のように振舞いながら、決して束縛はせず、彼女と静雄を近づけようとする僕。3人の恋愛とも友情とも少し違う不思議なバランスは、夏の終わりと共に変化を迎えることになります。

(c)HAKODATE CINEMA IRIS

函館三部作に登場したキャラクターたちよりも若く、彼らの不遇の状況よりも一歩手前で“青春”という時間に身を委ねている3人。演じた柄本、石橋、染谷は函館三部作の役者たちと遜色ない存在感を披露しています。

これまでの函館三部作と同様、本作の企画・製作を務めている菅原和博(函館シネマアイリス支配人)は「ありふれた地方の町で暮らす若者たちの、リアルな今の物語にしたかった」と語っていますが、この言葉が示すように、3人は地方都市の若者をリアルに体現してみせました。

(c)HAKODATE CINEMA IRIS

メガホンを取った三宅唱監督は、函館での濃密な撮影を振り返って以下のようにコメントしています。

「佐藤泰志が小説で描いた『生の輝き』を映画で表現しようというのがこの映画の挑戦でした。いま振り返ると自分がちょっと恥ずかしくなってしまうぐらい、とにかく無我夢中でつくることができました。映画館の暗闇で、美しい夏の光や音を感じながら、この映画のなかで生きるかれらとともに、かけがえのない時間を過ごしてほしいと思っています」(公式プレス資料より)

事実、『きみの鳥はうたえる』で見せる柄本佑、石橋静河、染谷将太の表情は、どこまでも自然体で、キラキラと輝いています。佐藤泰志作品の世界で輝く彼らの演技に、ぜひ注目してみてください。

(文/スズキヒロシ・サンクレイオ翼)

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