2018/09/20 07:00

なぜ学歴が必要? タイのイケメン監督が語る“史上最大のカンニング”裏事情

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』9月22日(土)公開
(c)GDH 559 CO., LTD. All rights reserved.

文=新田理恵/Avanti Press

中国・台湾・香港・ベトナム・マレーシアなど、アジア各地で大ヒットしたタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』がいよいよ日本にも上陸する(9月22日公開)。

天才女子高生が仕掛ける大規模カンニング

一人の天才少女を中心に、米国の大学へ留学するための統一試験に臨む高校生チームが、海を越えたカンニング大作戦を決行。「カンニング」という身近な行為(やったことなくても)を、まるで『ミッション:インポッシブル』(1996年)のような息もつかせぬ緊迫感と世界を股に掛けたスケールで描く。

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』9月22日(土)公開
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小さい頃から成績はずっとオールAという、抜群の頭脳を持つリン。教師をしている父親との父子家庭で育ち、家計は決して楽ではないが、その成績が認められ、国内有数の進学校に学費免除の特待生として転入する。

新しい学校で友だちになったのは、女優を目指す美少女のグレース。勉強はできないが、明るく人懐こいグレースと仲良くなったリンは、彼女に勉強を教えるようになる。そして中間テスト。いくら教えても問題が解けないグレースを、リンは回答を書いた消しゴムをわたすという古典的な方法で救う。

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』9月22日(土)公開
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この一件をきっかけに、グレースの彼氏で大金持ちの御曹司パットをはじめ、裕福な家庭の子どもたちが報酬をリンに支払い、カンニングで良い成績をとりはじめる。もう一人の天才で、貧しい家庭環境で育ったバンクは、そんな同級生たちの行動が受け入れられない。

父親から米国の大学への進学を命じられたパットは、高額の報酬と引き換えに、世界各国で実施される米国大学の統一試験でのカンニングをリンに持ちかける。リンが考えた方法は、時差を使い、遠隔操作でタイの仲間たちに回答を送るという大胆な方法だった。

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』9月22日(土)公開
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監督が描いた、タイが抱える問題とは?

アジア各地でのヒットの裏には、深刻な学歴社会という共通の社会背景がある。中国では昨年公開され、公開本数が制限される外国映画であるにもかかわらず、約47億円の興行収入を記録。キャスト陣も人気で、本作が映画初出演となったリン役のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンと、バンク役のチャーノン・サンティナトーンクンは、その後それぞれ別の中国映画に出演している。

学歴偏重が激しいタイでも、いい大学に入れるかどうかで、その後の人生で属する社会階層がある程度違ってくる。より一層箔を付けるために欧米の大学を目指す生徒も多い。

来日した本作のナタウット・プーンピリヤ監督は言う。「やはり企業や大きな機関の面接では第一印象で学歴が重視され、面接の出来が悪くても採用されることが多い。保護者も学生も、いい高校、いい大学に入って、いい仕事に就くことが一番の価値だと思っているので、賄賂もある」。本作でも、裕福な子どもたちは軒並み多額の賄賂を使って進学校に通っている。

ナタウット・プーンピリヤ監督 撮影=新田理恵

「タイでもカンニングは問題だけど、昔からあるので特に騒がれることもなく、映画に出てくるような学校への賄賂の問題も、もはや当たり前になっている。親も、間違っていると自覚しないくらい慣れきっている。でも、その理由は子どもを愛してるから。賄賂は子どもに最良の教育を受けさせる道具で、親としてはそれを支払ってでも最高の学校で学ばせたいと思っている」

あらゆる要素を織り込んだ、こだわりの脚本

本作は、中国で実際に起きた米国の大学進学適性試験での不正行為にヒントを得て作られた。とはいえ、「時差を使うという大きな仕掛は取り入れましたが、そのほかの部分は100%脚色」。カンニング方法をあえてアナログにしたのも、監督のこだわりだ。

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』9月22日(土)公開
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「実は、この映画の制作中に、タイで大学が学部閉鎖に追い込まれるカンニング事件がありました。彼らのテクニックはもっとハイテクで、特殊なメガネを使って試験の情報を別の人の時計に送っていたそうです。ハイテクな方法にするアイデアも一瞬浮かんだのですが、アナログのほうがリアルだという結論に。ただ、映画で使ったバーコードやピアノのコードを用いる方法は私たちのアイデアではあるけれども、実際にカンニングが成り立つかどうか、試してから脚本に取り入れました」

この作品が面白いのは、カンニング行為を描きつつ、スパイ映画のようなスリル、青春映画のほろ苦さ、タイの社会事情を語る描写が絶妙に配分されているところ。これらの要素のミックスには、脚本段階から苦労したとか。

「リサーチしていくと社会的な問題をクローズアップしすぎて、最初はすごくシリアスなドラマになってしまった。ワクワクする要素がなくなってしまったので、娯楽的要素も加えつつ、社会的ドラマの重みも残しながら改稿を重ねました。すべての要素は同じ比重にと思っていたので、脚本がしっかり書けた上で、キャラクターの表現、編集のタイミングなど、ジグソーパズルを組み合わせるようにして作っていきました」

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』9月22日(土)公開
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さらに、天才少女のリンが、勉強以外では弱さと葛藤を抱えて揺れ動くところも見どころ。9頭身のプロポーションを誇るクールビューティーだが、天真爛漫で裕福なグレースを見つめるリンの複雑な視線に、家庭環境へのコンプレックスや自信のなさを見え隠れさせる。「脚本チームに女性がいて、女性の視点を取り入れてくれた」そうで、女子の微妙な人間関係もすくいとった少女の成長物語としても秀逸だ。

一連のカンニング作戦の首謀者となったリンが象徴するものは何か? 「この作品は、カンニングをきっかけに、さまざまな悪しきシステムに立ち向かう話」だと監督は言う。リンやバンクは貧しいがゆえに騙されてしまう。だから、騙し返す。要するに、『目には目を、歯には歯を』というフェアゲームを描いた話でもあるのです」

作品に込めたメッセージとは?

映画は冒頭、大胆なカンニング作戦がばれたリンの取り調べシーンから始まる。実話を基にしていることからも分かるように、計画は失敗している。だけどこの映画が残す後味の良さは、リンの成長を通して見せる「結局は自分次第」という潔いメッセージにある。タイにだって、学歴がなくとも、叩き上げで大成功する人はいる。「教育がすべてではない。社会の中でどんなに揉まれても、自分の人生をひっぱっていくのは自分だというメッセージを込めました」

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』9月22日(土)公開
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そのメッセージは、監督のキャリアを見ても説得力がある。大学では演劇と舞台演出を学び、テレビCMやミュージックビデオなどを手がけてきた。「タイには、監督、助監督、編集、撮影など、映画に関わるすべてのポジションについて学べる映画学科のある大学があります。ただ、現在活躍しているタイの映画監督が全員大学を出てるかというとそうではなく、例えば自分はまったく映画を学んでいません。自分にとっての映画の学校は、たくさんの映画を観てきたこと。あらゆる国、あらゆるジャンルの映画を観て、自分で理解してきた。子どものときから観てきたものが蓄積されています。これもまた『教育がすべてじゃない』というメッセージの答えになると思います」

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