2018/09/19 19:00

原恵一監督と橋口亮輔監督が語る「天才・木下惠介」

原恵一監督(左)、橋口亮輔監督(右)

文=平辻哲也/Avanti Press

日本最大の自主映画の祭典「第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」(9月22日まで)の招待作品部門「映画のコツ」で、アニメ『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年)の原恵一監督と『恋人たち』(2015年)の橋口亮輔監督が登壇する特別企画「天才・木下惠介は知っている:その2」が9月15日、東京・京橋の国立映画アーカイブで行われた。

木下惠介監督とは?

木下監督は、国産初のカラー映画『カルメン故郷に帰る』(1951年)や名作『二十四の瞳』(1954年)などで知られる巨匠。1964年の松竹退社後は「株式会社木下プロダクション」(現ドリマックス・テレビジョン)を設立し、TBS系「木下惠介アワー」でテレビドラマの基礎を作った。

生誕100年にあたる2013年に、若き日の木下監督の実話を基に映画化した『はじまりのみち』で実写映画の初メガホンを取った原監督が「黒澤明監督、小津安二郎監督に比べて、木下監督は過小評価されている。もっと素晴らしさを知って欲しい」と企画し、橋口監督も賛同した。

木下監督に映画ファンが持つ“偏見”

『永遠の人』(1961年)を上映した昨年に続く第2弾となる今年は、15歳の少年・政夫と2歳年上の従姉・民子との悲恋を描く『野菊の如き君なりき』(1955年)と、武田信玄と上杉謙信の合戦に巻き込まれる百姓一家を三世代に渡って描く『笛吹川』(1960年)の2本を上映。

『野菊の如き君なりき』

『野菊の如き君なりき』は楕円形に切り取った和紙をレンズに装着し撮影、『笛吹川』はモノクロに着色を施すといった大胆な試みを行った作品だ。

『笛吹川』

「木下監督は映画ファンに偏見を持たれている監督ではないかという思いがありました。『二十四の瞳』、『喜びも悲しみも幾歳月』(1957年)が有名ですが、“市井の人もの”の監督というところで止まってしまっている人が多いような気がしたので、そうではない作品もあるということを知って欲しかった。2作には実験性もありますし、残酷な部分もあります」と原監督。

2作を久々にスクリーンで観たそうで、「改めてすごいと思いました。絵作りが素晴らしい。楠田浩之(ひろし)カメラマンのすごさもあります」と話す。

木下監督の「重い言葉」

トークショーでは、作品論にとどまらず、人間・木下惠介に迫った。原監督は『はじまりのみち』を制作するにあたって、評伝、記事、映像を数多く観たという。

「木下監督は生涯、尊敬するのは両親だと言うんです。『徹子の部屋』に出た時には、親にどんなに愛されたかという話をしていました。黒柳徹子さんが『本当に好きだったんですね。亡くなった今でも、お会いしたいですか?』と聞くと、『お化けでもいいから会いたい』と言うんです。びっくりした。俺には言えないなと思った」と笑い。

原恵一監督(撮影=平辻哲也)

「木下監督は『親に見せられない映画は1本もない』と言うんです。これはかなり重い言葉ですね。俺は『クレヨンしんちゃん』でお尻を出したりして、親はどう思っていたのだろうか?」と話した。

また、ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品された代表作の一つ『楢山節考』(1954年)についても言及した。

「木下監督は、姥捨ての辛さが一番分かるのは自分だと思ったはず。作品には自信があったと思いますが、子どもが親を捨てる話がグランプリでは恥ずかしいと、松竹の人がロビー活動をしなかったそうで、受賞(『無法松の一生』がグランプリ)にはならなかった。ものすごく失望したと思います」と巨匠の気持ちを慮った。

木下映画は単なる「お涙頂戴」ではない

一方の橋口監督は通り魔事件で一人息子(田中健)を失った父親(若山富三郎)が、国に対して被害者家族の救済を求めた実話を基にした『衝動殺人 息子よ』(1979年)を映画館で観たのが、木下映画の初体験。

橋口亮輔監督

「映画を観て、『泣いた!』と言うと、周りからは女々しいとか言われたり、理不尽なけなし方をされるんです。可愛そうな人が出てきて、泣くみたいな作品は一段低く見られていた気がします。

生誕100年の時に監督作品の半分くらいを観ました。改めて『二十四の瞳』を観た時に、単なるお涙頂戴の話ではないと分かったんです。人生とは、美しいけれども、残酷であるということを、はらわたに染み込んで分かっていらっしゃる方だと思いました。

木下さんは映画監督の中の映画監督。一つ一つの作品の中に、映画を作る根拠をお持ちだったんだと思いますね」と木下映画への愛を語った。

原監督は来年以降も企画「天才・木下惠介は知っている」を続けていく考え。

PFFディレクターの荒木啓子氏からは「来年は『楢山節考』を」という声も上がったが、原監督は「まだ作品は決めていません。もっとサプライズを持った作品があると思っているので、正式なオファーがあってから、じっくり考えたい」と話していた。

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