2018/09/24 11:00

米映画界を揺さぶるアジアン・ロマコメの真価とは?

LA市内の映画館で、大作映画と肩を並べる『クレイジー・リッチ!』のサイン
撮影:町田 雪
【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯17】
「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

『カメラを止めるな!』なくして、2018年の日本映画界を語れないとしたら、コレを観ずして今年のハリウッドは語れない。

それぐらいの起爆力と持久力で米映画界に旋風を巻き起こしているのが、9月28日(金)に日本公開となるオール・アジア系キャストのロマコメ映画『クレイジー・リッチ!』だ。

クレイジー・リッチとは?

「ムービーではなく、ムーブメント」「25年ぶりのゲーム・チェンジャー」「ロマコメの救世主」。米国で8月中旬に公開されて以来、同作にまつわるヘッドラインや反響が次々と飛び込んでくる。一体、『クレイジー・リッチ!』とは何者なのか?

『クレイジー・リッチ!』9月28日(金) より新宿ピカデリーほか ロードショー
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND SK GLOBAL ENTERTAINMENT
配給:ワーナー・ブラザース映画

英語のタイトルは“Crazy Rich Asians(クレイジー・リッチ・アジアンズ!)”で、原作は、シンガポール出身の作家ケビン・クワンによる国際的なベストセラー小説。

ニューヨーク出身の中国系アメリカ人のレイチェル(コンスタン・ウー)が、長年の恋人ニック(ヘンリー・ゴールディング)のシンガポールへの帰郷に同行したところ、実は彼が東南アジア諸国を股にかける超セレブな一家の御曹司であることが発覚。

彼の母親や元彼女たちの厳しい目にさらされるなか、レイチェルは無事、ニックとゴールインできるのか? という物語。「愛は、身分やお金や文化の壁を越えられるのか?」という、いたってクラシック&ユニバーサルなテーマで、舞台裏の情報やハリウッド事情を抜きにしても、普通のロマコメとして十分に面白く堪能できるクオリティだ。

作品に込められた“アジアンズ”の信念と想い

ただ、同作の本当の重みは、日本のタイトルには表れていない「アジアンズ」の部分に込められている。映画化権売買の時点から、公開後のメディア露出にいたるまで、キャストやクルー、アジア系コミュニティの信念と想いがほとばしっているのだ。

『クレイジー・リッチ!』9月28日(金) より新宿ピカデリーほか ロードショー
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND SK GLOBAL ENTERTAINMENT
配給:ワーナー・ブラザース映画

まず、原作者のケビン・クワンは、数々の魅力的な映画化オファーを受けながらも、アジア色が失われないよう、自分が企画開発プロセスに参加することを条件に、映画化権をたった1ドルに設定。

キャスティングにあたっては、ジョン・M・チュウ監督が昨年頭にソーシャルメディアを通じて、全世界のアジア系俳優に出演希望の応募を呼びかけた。

ハリウッド映画やテレビ・シリーズにおけるアジア人の典型モデルといえば、「超天才科学者系」「自虐的な奇天烈系」「武芸の達人」などがあげられるが、同作に登場するキャラクターは、性格も外見も、得意技も英語のアクセントも色とりどり。

「役を得ることが困難であるために、発掘されていないアジア人俳優が世界中にいるはず」とのチュウ監督の呼びかけに共感した人は多いだろう。

映画史に貢献できることは何か

自身もアジア系アメリカ人として育ち、『ステップ・アップ』シリーズ(2007年〜2014年)、『G.I.ジョー バック2リベンジ』(2013年)、ジャスティン・ビーバーのドキュメンタリー映画などの話題作でキャリアを築く一方で、「自分が映画史に貢献できることは何かと考え抜いた」というチュウ監督。

『クレイジー・リッチ!』9月28日(金) より新宿ピカデリーほか ロードショー
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND SK GLOBAL ENTERTAINMENT
配給:ワーナー・ブラザース映画

クライマックス・シーンに流れるコールドプレイの楽曲「Yellow」においては、チュウ自らがバンド宛にレターを送り、使用許可を得たという秘話がメディアに紹介された。

「イエローという言葉には(アジア人を侮辱するものとして)複雑な気持ちを抱いてきたが、この色をとても美しく、マジカルに描くこの曲に出会い、その感覚と自分への意識が変わった」。カラフルなロマコメのなかに詰まった、珠玉のエピソードだ。

さらに配給においては、クワンとチュウが、配信大手のNetflixから「一生働かなくてもいいぐらいの」巨額オファーを受けたものの、伝統的な劇場公開を求めて米ワーナー・ブラザースと契約。

主な理由は、大スクリーンにアジア人キャストの顔を映したい。そして、配信サービス主導では視聴者数は明かされないが、劇場公開であれば興行成績が公表されるためだったという。

フィルムメイカーが、ハリウッドのスタジオやプロデューサーに企画をプレゼンする際には、最近ヒットした類似作品を例に挙げて「あの映画のように」と枕詞にするものだが、アジア系コンテンツやキャストにおいては、そうした例がほとんどなかった。同作の成功を数字で証明し、未来のアジア系映画の企画の布石としたい、という想いが、異例の決断につながった。

アジア系映画をハリウッドでヒットさせるという使命

かくして、ハリウッド史上25年ぶり(1993年の『ジョイ・ラック・クラブ』以来)となる、オール・アジア系キャストのスタジオ映画として羽ばたく準備ができた同作。とはいえ、興行で失敗すれば「やっぱりアジア系映画は稼げないね」となるのだから、そのプレッシャーは重い。

ロサンゼルス市内のバス停に貼られたポスター。
撮影:町田 雪

宣伝&マーケティングへの気合いは、はた目からも感じられた。公開数カ月前から各地の劇場内にポスターが貼られ、予告編が流され、数週間前からは街中にビルボード広告やポスターが登場。「クレイジー」「リッチ」「アジアンズ」の言葉と、色鮮やかなビジュアルは、素通りできないインパクトを放っていた。

口コミのために、公開前の試写会イベントを何度も開催。全米中に散らばるアジア系ジャーナリストが中心となり、主要メディアでさまざまな角度の記事を展開した。アジア系として米国で生まれ育った自身の体験や葛藤を交えて、同作を紹介する記事の数々は、説得力のあるものばかりだった。

“ロマコメの救世主”と評価されるほどに…

そして、いざ公開。公開前には週末興収1,800万~2,400万ドルと見積もられていたが、蓋を開けてみれば3,000万ドル。ロマコメとしては、2015年以来、最高のスタート。『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』、『ブラックパンサー』、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に次いで今年4本目となる3週連続の興収トップ。米映画批評サイト「ロッテン・トマト」の評価は93%(9月7日現在)……と存在感を見せつけたのだ。

『クレイジー・リッチ!』9月28日(金) より新宿ピカデリーほか ロードショー
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND SK GLOBAL ENTERTAINMENT
配給:ワーナー・ブラザース映画

特定の人種や文化を描いた映画の主要ターゲットは、その人種・文化層に限られることが多い。『クレイジー・リッチ!』については、公開時こそ40%がアジア系観客だったと報じられているが、筆者がモールの映画館に足を運んだときには、複数スクリーンが30分おきに同作を上映。

小さめの劇場は満席、大きめの劇場もかなり埋まっており、アジア系以外の観客の姿も多かった。そして、公開4週目で米国内収入1億2,200万ドルという数字は、“アジア系”で括られる映画の枠を超え、不振が続いた“ロマコメ”というジャンルそのものの救世主としても称賛されている。

『クレイジー・リッチ』の真価

こうして、キャストやスタッフ、アジア系コミュニティが総出で盛り上げたムーブメントの結果は、少しずつ、確実に出始めている。ワーナーは同作の続編を始動し、Amazonはクワンに、香港の富豪家族とそのビジネスをめぐるオンライン・シリーズを発注。

『クレイジー・リッチ!』9月28日(金) より新宿ピカデリーほか ロードショー
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND SK GLOBAL ENTERTAINMENT
配給:ワーナー・ブラザース映画

レイチェル役のウーが主演するABCのシットコム(シチュエーション・コメディ)「Fresh Off the Boat」は、まもなく第5シーズンに突入。ニック役のゴールディングは、ブレイク・ライヴリーらと共演する新作映画“A Simple Favor”が、まもなく公開される。

そして、監督チュウは、今夏のタイ洞窟救出劇を描く映画でメガホンをとることが報じられ、「ハリウッドにホワイトウォッシング(白人主導の作品にすること)させるわけにはいかない」とツイートしている。

もちろん、ヒット作には逆風もつきものだ。同作についても、「アジアのすべてが正しく描写されているわけではない」という批判が出た。それもそのはず。これだけカラフルな文化、習慣、外見の人々が集まり、歴史的にも経済的にもさまざまな深みのある“アジア”を2時間で語れるわけがないのだから。日本人の描写だって、ごくわずかだ。

でも、『クレイジー・リッチ!』の真の価値は、この批判のなかにこそあるのかもしれない。日系アメリカ人として、米国で生まれ育った筆者の友人の言葉が胸に響く。「この映画を観て、『これは自分の知るアジアじゃない、自分の物語は別にあるんだ』と奮い立つアジア系フィルムメイカーたちが、それぞれの映画を作ること。そのための種を蒔いたこと。それこそが、同作の一番の貢献なのだと思う」

『クレイジー・リッチ!』は、9月28日(金)に日本公開される。

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