2018/09/25 17:00

『旅猫リポート』には史上最高の福士蒼汰がいる

(C)2018「旅猫リポート」製作委員会 (C)有川浩/講談社

有川浩の同名小説を、有川自身も脚本に参加した上で映画化した『旅猫リポート』(10月26日より公開)。同作で、福士蒼汰はキャリア最良の芝居を見せている。猫とふたり旅という特異な構造の作品だからこそ、俳優・福士蒼汰の見たことのない表情がいくつもある。彼は、これほどまでのポテンシャルとスキルを隠し持っていたのか。ネタバレしない範囲内で、本作の「福士蒼汰リポート」をお届けする。

アクションなし、恋愛なし

近年の福士は、アクションの印象が強いかもしれない。今年公開の主演作2本『曇天に笑う』、『BLEACH』はいずれもバリバリの活劇だったし、昨年の『無限の住人』では、ラスボス役で存在感を発揮した。

その一方で、恋愛映画の王子様役だというイメージも根強いと思う。『好きっていいなよ。』(2014年)、『ストロボ・エッジ』(2015年)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)などで見せた「ときめきの純化形」は忘れがたい。

ところが、『旅猫リポート』には、アクションもなければ、恋愛要素も(ほぼ)ない。基本的には、福士扮する主人公の悟が、自分では飼えなくなった猫を、新しい飼い主候補たちのもとに送り届けようとする旅の道中が綴られるだけである。言ってみればこれは、猫と青年のロードムービーなのだ。 

ひとり芝居とは違う。だが、人間相手の演技とは明らかに違う。福士蒼汰は本作で、これまでとは別次元の優しさを見せている。

(C)2018「旅猫リポート」製作委員会 (C)有川浩/講談社

人はなぜ笑うのか、その答え

かつてインタビューしたとき、彼が教えてくれたことがある。

「笑顔は自分の武器だと思っています」

衒(てら)いなく、そう語る姿には、誇示がまるでなかった。ナルシシズムでもない。むしろ自身の表現を冷静に見つめる目があった。

福士蒼汰の笑顔は、だれにも似ていない。さわやかだが、はかない。どこか潤んでいる。だから、理由もなくせつなくなることがある。どんなに明るい映画でも、彼が笑うと、時間というものは永遠ではないと感じてしまう。刹那と憂いが、笑顔の輪郭のどこかに仕舞い込まれている。そんな気がしていた。

『旅猫リポート』で福士は、彼オリジナルの笑顔の本質をいよいよ本格的に垣間見せている。

わたしは、何度か息を呑んだ。なぜなら、彼の表情には「人はなぜ笑うのか?」という究極の問いの答えが、映し出されていたからである。

詳細は差し控えるが、これはひとりの青年が愛猫を手放す旅の物語であり、なぜ手放すかという秘密をめぐる物語である。主人公は、その悲しみをそっと抱きしめるように笑う。ぎゅっと抱きしめるように笑う。笑うことで瀬戸際の自分をぎりぎりキープするために笑う。誰かに大切なことを伝えるために笑う。 

だから、笑顔は悲しみのすぐ隣にいる。悲しみの背中をそっと撫でるように笑顔がある。悲しみの“小指”と、笑顔の“小指”とがそっとふれあい、束の間の約束をする。

福士蒼汰の笑顔は、淡い水彩画のようにデリケートだ。デリカシーだけで創り上げられているその笑顔は、たとえアップにならなくても、わたしたちの心を満たす。豊かな、ほんとうに豊かな笑顔だ。

人は、誰かのために笑うのだ。人は、何かのために笑うのだ。そんな「当たり前」を、福士蒼汰の笑顔は言葉を超えた実感そのものとして送り届ける。 

笑うと誰かが救われる。笑うと世界が救われる。誰かが救われ、世界が救われると、自分も救われる。とてもシンプルな真実を、『旅猫リポート』の福士蒼汰は伝えている。

(C)2018「旅猫リポート」製作委員会 (C)有川浩/講談社

本作では、悟の叔母を演じる竹内結子も素晴らしい。また、愛猫ナナの独白を体現する、高畑充希も声が素晴らしい。だが、それらの素晴らしさをうっかり忘れてしまうほど、福士の孤独な笑顔は素晴らしい。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)

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