2018/11/23 10:00

国際派大作請負人・佐藤純彌監督の「6割の美学」

『映画(シネマ)よ憤怒(ふんど)の河を渉(わた)れ』書影

映画監督・佐藤純彌。たとえその名を知らなくても、彼が監督した映画のタイトルを1本も知らない日本人は極めて少数ではないかと思われる。

『新幹線大爆破』(1975年)、『人間の証明』(1977年)、『野性の証明』(1978年)、『未完の対局』(1982年)、『敦煌』(1988年)、『男たちの大和/YAMATO』(2005年)などなど、どれもその時折々の日本映画界の超大作であり、大ヒットしたものも数多い。

そんな佐藤監督の半世紀以上の長きにわたる映画人生を本人自らの口で語った『キネマ旬報』誌の人気インタビュー連載を書籍化した『映画監督・佐藤純彌 映画(シネマ)よ憤怒(ふんど)の河を渉れ』が11月23日にDU BOOKSより刊行された(本体価格2800円+税/聞き手・野村正昭&増當竜也)。

また刊行に合わせて特集上映やイベント、作品のソフト化なども一斉になされる。

今なぜ佐藤純彌なのか? 少しばかり紐解いてみたい。

世界中をまたにかけた国際派大作の達人!

佐藤純彌監督作品の中でもっとも人気が高いのは『新幹線大爆破』であろう。走行する新幹線の速度が時速80キロ以下になると爆発する爆弾を仕掛けられた新幹線をめぐり、犯人グループと警察の攻防を描いたパニック映画超大作。これは日本よりもフランスで大ヒットし、後にアメリカ映画『スピード』(1994年)の元ネタにもなったほどの、いわゆる日本映画離れした面白さなのだ。

実は佐藤監督、『荒野の渡世人』(1968年)のオーストラリア・ロケをはじめ、『旅に出た極道』(1969年)の香港、『ゴルゴ13』(1973年)のイラン、『人間の証明』『野性の証明』のアメリカ、『蘇れ魔女』(1980年)『おろしや国酔夢譚』(1992年)のロシア、『未完の対局』(戦後初の日中合作映画!)『空海』(1984年)『敦煌』『北京原人Who are you?』(1997年)の中国、そして『植村直己物語』(1986年)の北極その他(植村氏が実際に冒険した足跡をたどりながらの長期極地ロケ!)など、およそ半世紀にわたって世界中をまたにかけた映画撮影を敢行してきた国際派監督であり、だからこそ日本映画離れしたタッチを具現化させることも可能だったのかもしれない。

こうした姿勢が映画に反映されているのだろう、1976年に発表した『君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ』は日本では荒唐無稽なアクション大作といった扱いだが、中国では何と10億人が観たというウルトラ大ヒットを記録し、今年ジョン・ウー監督によるリメイク『マンハント』が作られたほどだ。

無実の罪で追われながらも真相を突き止めようとする検事の姿が、文化大革命が終わったばかりの中国の国民にとっては他人事ではなく、主演の高倉健や中野良子は日中の架け橋たる存在として、今も語り草になって久しいのだ。

終生のテーマは「組織暴力と個人との対峙」

『君よ憤怒の河を渉れ』における体制と個人の戦いは、実は佐藤監督のデビュー作『陸軍残虐物語』(1963年)に始まる「組織がもたらす暴力と個人の対峙」というモチーフに沿ったもので、この後も『最後の特攻隊』(1970年)『ルバング島の奇跡 陸軍中野学校』(1974年)『未完の対局』『男たちの大和/YAMATO』といった戦争映画はすべて軍隊という名の組織暴力と個人の関係性に言及したものばかり。遊郭を舞台にした『廓育ち』(1964年)も廓という、まさに女たちにとっての組織暴力といったスタンスが貫かれている。

その意味では警察もヤクザも所詮は同じ『組織暴力』(1967年)であるといった実録ヤクザ映画路線の先駆けも佐藤監督の代表作で、彼の撮ったヤクザ映画は『暴力団再武装』(1971年)にしろ『博徒斬り込み隊』(1971年)にしろ『やくざと抗争』(1972年)にしろ、観終わって肩で風切って歩く気に絶対させられないようなものばかり。

また戦後の闇市の混沌に惹かれたという彼は、私設銀座警察をモチーフにしたヤクザ映画を何本も撮っているが、中でも『実録・私設銀座警察』(1973年)は戦後の闇を忘れるなと言わんばかりにアナーキーなタッチで綴ったカルト映画の傑作と謳われている。

一方で佐藤監督は徹底したリサーチの鬼として知られており、中でも実在の超能力者をモデルにしたジャンル分け不可能な怪、いや快作『超能力者・未知への旅人』(1994年)では自らスプーン曲げができるようになったほど(劇中、主演の三浦友和が見せるスプーン曲げも三浦自身によるもの)。

もっとも、こういった生真面目な探求心が災いして、時に『北京原人』のような作品も生まれてしまうが、それでも「北京原人がいた時代には国境なんてなかった」という、国家体制の暴力がもたらす惨禍などありえなかった太古の時代に想いを馳せる、国際派の彼ならではのメッセージくらいは汲んでいただいてもいいのではないだろうか。

こうした組織暴力への恐れの原点は、彼が幼い頃、戦争で田舎に疎開したときの子供たちの鮮烈なイジメ体験にあったようだが、そのあたりの具体的エピソードもぜひ本を読んで驚愕していただきたいと思う。

しかし映画もある程度の集団=組織をもって作られるべき運命にはあるわけで、それが超大作になればなるほど船頭の数は多くなっていく。

そこで佐藤監督は作品のオファーが来た際、「自分のやりたいことが6割できるかどうか」を自分なりに判断して受けるかどうかを決めていったのだという。

もちろんクリエイターとしての理想は100%ではあるのだろうが、そこに囚われるあまり結果としてボロボロになってしまった大作が数ある中、佐藤監督は製作サイドの意向を6割の範囲内で汲みながら、しかもスタッフの生活(つまり、その作品がヒットすれば、彼らに次の仕事も入る)のことまで考慮しながら現場の任に就いていた。

こうした「6割の美学」は、映画製作のみならず、実はどのプロジェクトにも当てはめることが可能ではないだろうか?

とかく閉塞的な現代社会において、この「6割の美学」は安易なプラス思考を凌駕するものとして非常に有効ではないかと思えるのだが……。

さて、そんな佐藤監督の特集上映《映画の職人(アルチザン)佐藤純彌 プログラムピクチャーから大作映画まで》が11月24日から12月2日まで東京・池袋の新文芸坐にて開催。

また11月3日には東映ビデオより『組織暴力』3部作DVDが(および他の佐藤監督作品も廉価版化)、12月21日にはKADOKAWAより『未完の対局』Blu-ray&DVDと『君よ憤怒の河を渉れ』Blu-rayがリリースされる。

この機会にぜひ、佐藤監督作品の真髄に触れていただきたい。

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