2018/12/11 07:00

ドレスと科学から読み解く『フランケンシュタイン』誕生の謎

『メアリーの総て』12月15日(土)よりシネスイッチ銀座、シネマカリテほか全国順次公開/配給:ギャガ(C)Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

今年2018年、怪奇小説の名作『フランケンシュタイン』が生誕200年を迎えますが、原作を読んだことがない人は意外と少なくないかもしれません。イギリス生まれのこの物語が、なぜ当時の社会で重要だったのかーー? ハイファ・アル=マンスール監督作『メアリーの総て』(12月15日公開)では、エル・ファニングが著者のメアリー・シェリーを演じ、フランケンシュタインの誕生秘話が明らかになります。本作に見るドレスと科学から、その謎を読み解いてみたいと思います。

フェミニズムの先駆者を両親にもつメアリー

メアリーの総て あらすじ

舞台は19世紀のロンドン。16歳のメアリー(エル・ファニング)は暇さえあれば空想にふけって書き物をしている作家志望の女の子。父ウィリアム・ゴドウィン(スティーヴン・ディレイン)は、メアリーの生みの母メアリー・ウルストンクラフトの死後、連れ子のいる女性と再婚しました。思想家として有名人ではありましたが、彼が経営する本屋は借金取りが押しかけるような困窮ぶり。メアリーは、継母の連れ子のクレア(ベル・パウリー)とは本当の姉妹のように仲が良いものの、継母とは言い争う毎日。そんなメアリーを見かねた父は彼女をスコットランドの友人バクスターの元へ送り出します。そこで出会ったのはハンサムな詩人、パーシー・シェリー(ダグラス・ブース)。二人はすぐに恋に落ちますが……。

メアリーの総て ネタバレ無し

メアリーが創作活動に勤しんだ理由は、文学界に名声をはせた両親の影響がありました。母は童話を始め『女子教育考』や『女性の権利の擁護』などフェミニズムの本を何冊も出版しており、フランス革命の自由な雰囲気を知りたいと、革命直後のパリへ渡ったこともある自由奔放な女性。

自由主義者として社会改革をとなえる著書『政治的正義』を執筆した父と、フェミニストの母は文壇では著名な夫婦。彼らは伝統的な結婚制度の反対論者でしたが、メアリーを婚外子にしてしまうのがはばかられて、教会で結婚式を上げたのだとか。(※1)

事実、19世紀のイギリス社会ではキリスト教の影響で、未婚の母は非道徳的だと見なされ、精神病院や救貧院(刑務所に似た施設)に監禁されたり、婚外子は牧師から洗礼を受けられなかったりと様々な差別を受けていたそう。また、19世紀中盤頃までは子供の養育権は父親だけに帰属し(※2)、離婚も例外的な場合を除いては認められなかったのです(※3)。

また、離婚は非常にコストが高く、上流階級の人々の間でしか可能ではなかったのだそう。とはいえ、メアリーが生きた19世紀は、宗教的道徳や階級社会が支配する窮屈な社会構造に、変化が訪れ始めた時代でした。

ドレスが物語る社会の変動、貴族文化から大衆文化へ

19世紀における社会変動は、メアリーやクレアが晩餐の場でまとう“エンパイア・ドレス”にも見られます。

これは、バストの下からスカートの裾までゆったりと自然に広がるシルエットのドレスで、1804年から1815年まで続いたフランス第一帝政時代に、古代ギリシア風のファッションがリバイバルしたもの。1789年のフランス革命後、コルセットでウエストをきつく絞りスカートを極端に膨らませたロココ調のファッションが貴族文化を象徴するとされて廃れていったのが原因です。

メアリーの総て ドレス

劇中、メアリーやクレアが著名な詩人、バイロン卿(トム・スターリッジ)の別荘で過ごすときに着ているエンパイア・シルエットの“シュミーズ・ドレス”は当時爆発的な人気を誇りました。肌が透けて見えるほど薄い白の綿モスリンで作られたこのハイウエストのドレスは、女性を窮屈なファッションから解放しました。これには、フランス革命と産業革命によって起こった女性解放思想や大衆文化の芽生えが作用しているのです。

近代科学が生んだ怪奇小説

メアリーの総て レビュー

バイロン卿と付き合っていたクレアに誘われて、メアリー、クレア、パーシーの三人はジュネーブのレマン湖畔にある彼の別荘に訪れます。バイロン卿は高名な詩人ではありましたが、悪名高き人物でもありました。なんと、彼は異母姉との近親相姦騒動でイギリスの社交界から追放されていたのです。

イギリスからジュネーヴまで未婚の女性二人が男性と一緒に旅をする上に、身持ちの悪いバイロン卿と合流するなんて当時は一大スキャンダル。ゴシップを垣間見ようと人々はバイロン邸を望遠鏡で覗いていた、という逸話も残っているほどでした(※4)。

そんなバイロン邸で集まった若者たちは怪談を作って競う遊びに興じ、そこからメアリーの『フランケンシュタイン』が生まれたのだとか。では、なぜ、この怪奇小説が一世風靡したのかーー?

メアリーの総て 感想

この頃のイギリス社会は、産業革命による自然破壊や貧困層の増大に対する“不安”、そして、近代科学の進化に対する“脅威”を感じており、そういった社会の揺れる心に『フランケンシュタイン』の“生命の創造”というテーマがリンクしたという説もあります。

小説の主人公ヴィクター・フランケンシュタインは自然科学を大学で学んでいましたが、生命の神秘に次第にとりつかれて、死体を継ぎ合わせて理想の人間を創り出す研究に没頭します。研究は成功し、誕生した怪物はフランケンシュタインの愛情を得ようとしますが、あまりにも容貌が醜いためフランケンシュタインから拒絶されてしまい、絶望した怪物はフランケンシュタインに復讐します。

この小説のインスピレーションとなったのは、メアリーが実際にバイロン卿から聞いたエラズマス・ダーウィン博士(進化論のチャールズ・ダーウィンの祖父)の実験なのだとか。

なんでも、彼がスパゲティになにかの操作を与えたところ、スパゲティに生命力が生じてひとりでに動き出したのだそう。現代では荒唐無稽な話に聞こえますが、当時の自然科学界では、生命の源を解明しようという動きが活発でした。この不思議な話に感銘を受けたメアリーはその夜、生命創造に挑戦する科学者の悪夢を見て『フランシュタイン』を思いついたと言われています(※5)。

メアリーの総て フランケンシュタイン 原作者

後年、この小説が様々な形で映像化やパロディ化されるなかで、怪物の名前がフランケンシュタインだと誤解している人も多いのですが、フランケンシュタインは実は“人間”のほう。

19世紀の近代化に向かうイギリス社会を取り巻く保守的な社会構造と男女不平等。そこに加わる社会変動を背景に誕生した怪奇小説『フランケンシュタイン』。メアリーが描いた“フランケンシュタイン”や“怪物”は、何を、誰をさすのかーー? この映画で明かされるメアリーの人生から、きっとその答えは見つかるでしょう。

(文・此花さくや)

(C)Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

【参考】
※1…株式会社パピルス『メアリ・シェリーとフランケンシュタイン』モネット・ヴァガン著
※2…Custody rights and domestic violence – www.parliament.uk
※3…Obtaining a divorce – www.parliament.uk
※4…ミネルヴァ書房『フランケンシュタイン』久守和子/中川遼子編著
※5…風塵社『怪獣のいる精神史』原田実著

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