2018/12/19 07:00

“ガガ様”が演じるアリーは、なぜ私をイラッとさせるのか

『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)全国ロードショー(配給:ワーナー・ブラザース映画)
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

文=赤尾美香(音楽ライター)/Avanti Press

我が愛しのブラッドリー・クーパーが、理想の“ダメ男シンガー・ソングライター”ジャクソン・メイン(ジャック)を完璧に演じてくれたというだけで100点満点をあげたいところなのだが、レディー・ガガ演じるアリーの心情にはどうにも腑に落ちない部分がある、と音楽ライター仲間に話したら、どれだけジャック寄りの気持ちなんだと笑われた。

『アリー/ スター誕生』は、2018年10月5日に全米公開されるや予想通りの大ヒット。11月下旬までに2億ドル近くの興収をあげている。映画ファンならご存知の通り、今回で4度目の映画化となる。

『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)全国ロードショー(配給:ワーナー・ブラザース映画)
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

これまで三度映画化されたハリウッドの古典的物語

最初は1937年公開の『スタア誕生』(ウィリアム・A・ウェルマン監督)。映画スターに憧れる主人公エスターは、大スター=ノーマンの助けによって女優として成功していく。一方、ノーマンの人気は廃れ、彼は酒に溺れて……。1954年のリメイク『スタア誕生』(ジョージ・キューカー監督)はミュージカル映画で、劇中のエスターはアカデミー賞を受賞するが、エスターを演じたジュディ・ガーランドもゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞。アカデミー賞では主演女優賞を含む6部門でノミネートされた。

3度目のリメイクとなったのは1976年の『スター誕生』(フランク・ピアソン監督)で、舞台は映画界から音楽界に。主演はこのときすでに歌手、女優、作曲家として成功を得ていたバーブラ・ストライサンドで、彼女とポール・ウィリアムスによる「スター誕生の愛のテーマ」がアカデミー賞歌曲賞、グラミー賞最優秀楽曲賞を受賞したほか、ゴールデングローブ賞では5部門を受賞した。

というわけで、今回で4度目の映画化。「どれだけこの話が好きなんだ、アメリカ人!!」と思うと同時に、どのリメイクも高評価を得ている作品に今さら手を出そうとは、大した勇気ではないかとも思うわけだ。ちなみに本作のプロデューサーには76年版でプロデュースを手掛けた(当時バーブラと恋仲だった)ジョン・ピーターズが名を連ねている。

『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)全国ロードショー(配給:ワーナー・ブラザース映画)
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

実現しなかった「イーストウッド監督×ビヨンセ」版

当初、メガホンをとるといわれていたのはクリント・イーストウッドで、主演はビヨンセにほぼ決定。その相手役にはレオナルド・ディカプリオ、ジョニー・デップ、トム・クルーズとそうそうたる名前が挙がっては消えた。その後も紆余曲折があり、最終的に主演はレディー・ガガ、監督兼相手役としてブラッドリー・クーパーが参加することになった。

個人的にはイーストウッドがビヨンセ降板後に推したジャズ・シンガー/マルチ奏者のエスペランサ・スポルディングの起用に期待したが、本作を観てしまった後にはレディー・ガガでよかったと思えるし、初監督作にしてミュージシャンの役作りをもこなし(手本にしたのはパール・ジャムのエディ・ヴェダーだそうだ。たしかに外見も少し似ている)素晴らしい歌唱力を披露したクーパーは本当に見事で、心からの賛辞を送りたい。

『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)全国ロードショー(配給:ワーナー・ブラザース映画)
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

レディー・ガガ本人とも重なる劇中のポップスター像

『アリー/ スター誕生』の脚本は、そのクーパー監督が中心となって改訂されている。舞台は76年版と同じ音楽界。ただし、過去作で一貫していた主人公ふたりの名前はエスターがアリーに、ノーマンがジャクソン(ジャック)に変更。さらには登場人物の設定にもひねりが加えられ、ジャックのマネージャーのボビーは、ジャックの実兄とされた。

さらに、アリーは成功の階段を昇っていく上でその音楽スタイルを変え、いまどきの“ポップスター”になっていく。そんな彼女をジャックはどんな思いで見ることになったか。そこは、ジャックとボビーの兄弟関係の描き方と共に、本作における“肝”ではないだろうか。

劇中、ジャックに見出されたアリーはシンガーとして脚光を浴び、洗練されていく。ジャックと共に曲を書き、歌った彼女はもういない。きらびやかなステージでバック・ダンサーを従えてダンスを踊るポップスターになっていくアリーを見ながらジャックは、彼女がスターになるきっかけを与えた喜びに浸るよりも、彼女にとって本望ではないことをさせるきっかけを作ってしまった、と感じていたのかもしれない。彼の目にアリーは、持ち前の才能を発揮できているようには見えていない。私の目にもそう映った。アリー、あなたが本当にやりたかったことは、それなの?

しかし、アリーを演じたガガにはこのアリーの変化が理解できるという。自分の周囲が大きくなっていくのを実感し始めた時、ガガ自身も変わったのだ、と。「私はもうピアノの前には座らないと言ったの。バック・ダンサーをつけることを決め、自分で衣装やステージ・セットのデザインを手掛け、コンサートのスケールは大きくなっていった。けれど私の本質は、駆け出しの頃、自分とピアノだけだった時の私なのよ」

『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)全国ロードショー(配給:ワーナー・ブラザース映画)
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

前へ進む女と、孤独を抱え込む男。その愛し方の違い

アリーは自ら選択した道を歩いている。一度は諦めた夢を再び見ることを促し、実現させるチャンスをくれたジャックのためにも、アリーは前へ前へと進んでいく。それが彼女の愛し方なのだ。

けれどもジャックの愛し方は違った。すでに手にした成功や名声への興味を失っているジャックは、アリーと共に曲を書き、一緒に歌っていられれば幸せだったのだ。もちろん、彼女の成功を心から望んではいたけれど、いざその時が来たら受け入れがたい孤独感に苛まれ、ミュージシャンとして、そして、男性としてのアイデンティティまでを喪失してしまう。

ここで彼が、ダメで弱い自分と向きあい、抱え込んでしまった孤独を燃料に、涙を拭わず、傷ついた心から溢れ出る血に酔いしれながら、その思いを音楽に昇華できたなら……と思わずにはいられない。私は、そういうタイプの男性シンガー・ソングライターを愛してやまない。

『アリー/ スター誕生』
12月21日(金)全国ロードショー(配給:ワーナー・ブラザース映画)
(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

私を“イラッ”とさせる、アリーの決定的なひと言

冒頭に「我が愛しのブラッドリー・クーパーが、理想の“ダメ男シンガー・ソングライター”、ジャクソン・メイン(ジャック)を完璧に演じてくれた」と書いたが、少し訂正。「理想の」ではなく「限りなく理想に近い」に。しかし、ミュージシャンであることよりも、最後の力を振り絞って、“愛する女性の男”でいるためのアイデンティティを取り戻すことを選んだ彼だったからこそ、この物語は観る者の心を大きく揺さぶるのだ。

アリーはアリーで必死だった。ジャックのために自分ができることを考え、やろうとした。が、彼によかれと思うことばかりに気持ちを巡らせるなか、一瞬の隙に頭をよぎった不安や困惑を隠しきることはできなかった、ということか。

終盤、とあるシーンでのアリーとジャックの会話。アルコールやドラッグの依存からなんとか抜け出し、アリーとの穏やかな日々を望むジャックに向けて発せられたアリーの一言が、今も私の頭の片隅から離れない。アリーが自身の音楽スタイルを変えたことへの“イラッ”は、どうにか消化できた。けれど、この一言にもたらされた“イラッ”は未だ消化不良だ。

なぜ、アリーはあんなことを言ったのか。言われたジャックの困惑同様、私も困惑。あの一言がなければ、とすら思ってしまうが、魔がさすとはまさにこういうことなのかもしれない。あの一言に対する答が欲しくて、私はまた劇場に足を運ぶだろう。



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