2018/12/18 11:00

イ・ビョンホン、ハ・ジョンウ――問答無用のスターが演じる底辺に生きる中年男性の悲哀

『それだけが、僕の世界』12月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー (C)2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

文=新田理恵/Avanti Press

人気、実力を兼ね備え、“ザ・漢”な魅力全開で韓国映画界に君臨するハ・ジョンウとイ・ビョンホン。この2人がオーラを封印し、家族のために奔走する男を演じるハートウォーミングな映画が公開される。ハ・ジョンウが監督も務める『いつか家族に』(12月22日公開)と、イ・ビョンホン主演の『それだけが、僕の世界』(12月28日公開)だ。

監督たちはどれだけギリギリのハ・ジョンウを愛でたいのか?

『いつか家族に』は、中国の作家・余華の大ベストセラー小説「血を売る男」(河出書房新社)の映画化だ。舞台を政策の失敗や大飢饉で庶民が苦しんだ20世紀半ばの中国から、朝鮮戦争直後の混乱の韓国に移し、貧しい暮らしの中で、家族を救い、食べさせるために売血を繰り返す主人公サムグァンをハ・ジョンウが演じている。

『いつか家族に』12月22日(土)より シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開
(C)2015 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & DHUTA. All Rights Reserved

肉体労働で生計をたてるサムグァンは、ポップコーンを売る美しいオンナン(ハ・ジウォン)に一目惚れする。プロポーズを決意するが、オンナンには金持ちの恋人がいた。そこで血を売って稼いだ金で彼女をデートに誘い、気を引くことに成功。なんとかオンナンの父親も説得し、晴れて夫婦となる。2人は3人の息子にも恵まれ、貧しいながらも幸せに暮らしていた。しかし、11年間育ててきた長男が、実はオンナンと元恋人の子どもだったことが判明し……。

『チェイサー』(2009年)、『哀しき獸』(2012年)、『ベルリンファイル』(2013年)、『テロ,ライブ』(2014年)など、ハ・ジョンウのはまり役には、なぜか追い詰められる男が多い。監督たちはどれだけギリギリのハ・ジョンウを愛でたいのだ(観客も)。

『いつか家族に』12月22日(土)より シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開
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確かに、どこか飄飄とした風情のハ・ジョンウが切羽詰まった表情に変わっていく過程にはただ事ではない緊迫感が生じ、非常に効果的。本作のサムグァンも、貧しく、無知であるがゆえに追い詰められていく。

サムグァンは、長男が別の男との子だと知るや、11年も可愛がってきたというのに、損得勘定で食べさせてやるのも損だと考えるような「どうしようもない小物」だ。あくせく働き家を切り盛りする妻を尻目に、昼間から縁側で寝そべっているようなぐうたらな旦那でもあり、物語の主人公にしては共感しにくいところが妙にリアルだ。

『いつか家族に』12月22日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国公開
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だが、サムグァンにも彼なりの家族に対する大きな愛があり、ごく普通の人間の複雑かつ生々しい感情をあぶり出す余華の作品の面白さが生きている。生きることの過酷さを容赦なく描き切った原作に比べ、かなりほっこりした味わいに仕上がっているのは、監督デビュー作『ローラーコースター!』(2013年)からコメディを撮っているハ・ジョンウの好みなのかもしれない。

心に触れるイ・ビョンホンの繊細な演技

『それだけが、僕の世界』でイ・ビョンホンが演じた男もまた、社会的には敗者だ。

かつて東洋チャンピオンにまで上りつめながらも、今は金も仕事もない40歳を過ぎた元プロボクサーのジョハ。家族もおらず、孤独に生きてきた彼は、ある日偶然入った食堂で、生き別れになっていた母親と再会する。だが、母は知らぬ間に再婚しており、今は義理の弟ジンテと2人暮らしをしている。住む家もなかったジョハは、母とジンテと3人で一つ屋根の下に暮らすことに。サヴァン症候群のジンテに最初は戸惑うジョハだが、弟の天才的なピアノの才能を目の当たりにし、なんとか花開かせてやりたいと願うようになる。

『それだけが、僕の世界』12月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
(C)2018 CJ E&M CORPORATION, JK Film ALL RIGHTS RESERVED

これまで演じてきた数多のクールなキャラクターや、バッキバキに鍛え上げた肉体でカモフラージュされているが、イ・ビョンホンはもともとやんちゃな子どものような面持ちが魅力的な俳優でもある。そのピュアな魅力が存分に発揮されるのが、かつて自分を置いて出ていった母親に心情を吐露するシーン。柔らかな心を覆っている固い殻が剥かれていくような繊細な演技は、観る者の心の琴線に触れる。

未来が見えない孤独な兄、世間のことが分からない弟。そこに、事故で体の一部と希望を失った女性ピアニストも加わり、「普通ではない」生き方をしている者が肩を寄せ合っていく。『いつか家族に』でも、「普通ではない」家族が彼らなりの幸せを模索する。この世は強い人間、成功者ばかりではない。100人いれば100通りの物差しで各々の幸せをはかればいいことを、この2作品は教えてくれる。

ギャップと確かな演技力

ファンが持つイメージとのギャップが大きい役を演じて評価を上げるスターは多い。

韓国では、ただただハンサムな俳優という印象だったチョン・ウソンが『アシュラ』(2016年)のガラスのコップを喰らう大熱演で大化けして以来、強烈な存在感を放ち続けているし、人気者のコン・ユも、刹那的に関係を持った女性の職場をこっそり突き止めるような愛に溺れる男(2016年公開『男と女』)、娘にも呆れられる利己的な父親(2016年公開『新感染 ファイナル・エクスプレス』)などちょっと情けない役を魅力的に演じて幅の広さを見せている。

『それだけが、僕の世界』12月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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ハ・ジョンウもイ・ビョンホンも、華やかな場では無敵のフェロモンでファンを魅了する。年末年始に家族で観たい心温まるストーリーもさることながら、問答無用のスターの2人が、社会の底辺で生きる中年男性の悲哀を違和感なく表現し、そのギャップと演技力を堪能させてくれる2本でもある。

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