2018/12/22 11:00

バンクシーに影響を与えた男「バスキア」天才が生まれた理由

『バスキア、10代最後のとき』
12月22日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
(c) 2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved.
LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED
Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

文=圷 滋夫(あくつ しげお)/Avanti Press

1987年の2月、ニューヨークに約2週間の旅行に行った。自分にとってのニューヨークのイメージは、華やかな五番街のショーウィンドウでもタイムズ・スクエアのきらびやかな電飾看板でもなく、落書きされた地下鉄車両が象徴する、猥雑で妖しい空気をまとった創造の街というものだった。そしてそれは、まさに本作『バスキア、10代最後のとき』(12月22日公開)で描かれる70年代末から80年代初頭に形作られたイメージなのだ。

『バスキア、10代最後のとき』
12月22日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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バンクシーの先駆でもある、神出鬼没のストリート表現

本作の主人公ジャン=ミシェル・バスキアの作品は、ストリートで雑草のように生み出された。過去の評価には、その作品を一過性の流行と見なすものも一部にはあったが、今では美術史の中でも20世紀を代表するアーティストとして評価が定まり、昨年からは大規模な回顧展が世界を巡回中だ。

回顧展の皮切りのロンドンでは、初日の数日前に会場へと通じる道の壁に、覆面グラフィティ・アーティストのバンクシーによる、バスキアの著名な作品と自作をミックスした非公式コラボ作品が出現し、大きな話題を呼んだ。

バンクシーは今年10月にも、約1億5千万円で落札された自作を遠隔操作によってその場でシュレッダーにかけ、その騒動のニュースが世界を駆け巡った。今や時代の寵児となったバンクシーの神出鬼没にストリートで表現するスタイルは、バスキアがその先駆者の一人でもあるのだ。

『バスキア、10代最後のとき』
12月22日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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秘蔵のアーカイブで、天才アーティスト誕生の秘密に迫る

これまでもバスキアをテーマにした映画は、劇映画やドキュメンタリーを問わず作られてきた。しかしこのドキュメンタリーはそれらの作品とは一線を画している。

まずタイトルが示す通り、バスキアがまだ有名になる前の10代の頃、1978年から81年の短い期間に焦点を当て、天才アーティストがいかに誕生したかの秘密に迫っているのだ。

そして何より、当時一緒に暮らしていた元ガールフレンドが30年間保管していた秘蔵の作品や関連する品々、写真、映像などがふんだんに使われている。その中にはファンでなくとも垂涎の作品や、何気ない日常の姿と制作の過程も垣間見られるアーカイヴ映像があり、それらが次々とスクリーンに映し出されるのだ。

インタビューで登場する20人以上の全員がバスキアを直接知る友人や仲間、そして元ガールフレンドで、そのリアルなエピソードからは彼の愛すべき人柄や活気に満ちた生き方が浮かび上がってくる。

その人脈にはケニー・シャーフなどのアーティスト仲間の他にもミュージシャン、作家、詩人、ファッション・デザイナー、哲学者、批評家、生物学者、そして映画監督のジム・ジャームッシュと本作の監督サラ・ドライヴァーもいる。

『バスキア、10代最後のとき』
12月22日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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混沌から新たなカルチャーを生みだしていた80年代のNY

当時のニューヨークは経済が破綻寸前で世相が荒廃し、様々な価値観が逆転して、スクラップ&ビルドそのままにあらゆるジャンルで新たな動きが芽生えていた。

それらは「マッド・クラブ」や「クラブ57」など最先端の社交場で出会い、カテゴリーも人種も関係なく異種交配され、さらに新しくて面白いものが生まれていた。まさにニューヨークが最も熱かった時代だ。

本作を観ると、遠く離れた日本では一見まったく別のジャンルだと思っていた作品や人物が実は同じ一つの大きなシーンの共通する根っこを持ち、人脈も繋がって影響し合っていたことが実感できて、とても新鮮な驚きがある。

例えば伝説的なジャズ・ドラマーのマックス・ローチは、ヒップホップを世界に広めた傑作映画『ワイルド・スタイル』(1983年)の最重要人物のファブ・5・フレディ(本作の中でも主要な証言者だ)の名付け親として知られている。だが、そのファブ・5がバスキアにビ・バップ・ジャズとヒップホップを教えてその共通点を語り、バスキアはヴィンセント・ギャロもいたバンドでアッと驚く突飛なパフォーマンスを繰り広げていたなんて、本作を観なければ分からないことだろう。またそんなマルチな活動の先駆者であるアンディ・ウォーホルと、彼をヒーローと仰いでいたバスキアとの出会いも語られる。

『バスキア、10代最後のとき』
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激動のニューヨークで輝いたきら星のごときVIPたち

しかしこれはほんの一例でしかない。それを裏付けるように本作には、実に多彩なジャンルのVIPが、アーカイヴ映像や写真の中に顔を出す。

パティ・スミス、トーキング・ヘッズ、リディア・ランチ、ラモーンズ、ブロンディ、B-52’s、マックス・ローチ、ラウンジ・リザーズ、コントーションズ、クラウス・ノミ、アフリカ・バンバータ、キース・ヘリング、ヨーゼフ・ボイス、サルバドール・ダリ、レオ・カステリ、ジョン・ウォーターズ、マルコムX、ウィリアム・バロウズなどなど。そしてドラッグによるシーンの衰退も語られるのだが……。

音楽も当時のシーンを彩るパンクやニュー・ウェーヴ、ノイズ、新しいジャズなどがBGMだ。バスキアが生前に組んでいたグレイ、ジム・ジャームッシュがメンバーだったデル・ビザンティーンズなどのバンドの貴重な音源も聴くことができる。

本作を観れば、バスキアが関わった多岐にわたるさまざまな才能からの影響をいかに咀嚼して吸収し、あの頃マグマのように激動していたニューヨークのアート界の中で、どのように試行錯誤を繰り返しながらオリジナルなアートを創り上げていったかが見えてくる。まだ何者でもない彼がどんな野心を抱き、いかなる戦略でいびつなアート界に切り込んで行ったかも分かるだろう。

そして多くの証言者が、その言葉の端々にバスキアに対する親しみと愛情をにじませながら話す姿を観ると、まるで本人の作品を見ているように心が洗われる思いがするのだ。

『バスキア、10代最後のとき』
12月22日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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1987年のニューヨークと、時代の終わりを告げる鎮魂歌

さて、1987年のニューヨークだ。1984年から始まったニューヨークの清掃作戦により、落書きされた車両には数本に1回しかお目にかかれず、憧れの時代の空気を味わえたのは、わずかな残り香程度だろうか。

それでも当時もまだ最貧困層と芸術家の卵が住み、観光ガイドには載っていなかった、そして映画の中の証言者も住んでいたロウワー・イースト・サイドのアルファベット・シティを歩けば、突然、斬新なウォール・ペインティングが描かれた崩れかけのビルや、でっかい鉄のオブジェにも遭遇した。

そして2月23日の朝、テレビのニュースでアンディ・ウォーホルの死を知る。そのまま外に出て雪に覆われた真っ白なマンハッタンを歩いていると、地下鉄の入口でストリート・パフォーマンスに出くわした。その若い男が1人エレキ・ギターで奏でるアメリカ国歌が、一つの時代の終りを告げる鎮魂歌のようにも聞こえた。バスキアはその一年後、ドラッグ中毒により27歳で死んでいる。今年はバスキアの没後30年だ。

『バスキア、10代最後のとき』
12月22日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
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