2018/12/21 17:00

本当にあった凄惨な事件と幻想が溶け合う、あまりに美しい初恋物語

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
12月22日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C) 2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM

文=赤尾美香/Avanti Press

赤いコートを着た少年と赤いセーターを着た少女が体を寄せ合い、鼻先が触れるくらいの距離で横たわっている、そんなシンプルなヴィジュアルに強く惹かれた。少女は目を閉じ、少年は少女を見つめている。可愛らしい、けれど、それだけではない。二人の物語に俄然興味がわいた。

2017年カンヌ国際映画祭批評家週間オープニング作品で、本国イタリアをはじめとする各国の映画賞では多くの受賞やノミネートを受けた『シシリアン・ゴースト・ストーリー』(12月22日全国公開)は、アメリカの映画批評サイト、ロッテントマトでも94%の高評価を得ている。

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
12月22日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C) 2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM

凄惨な誘拐事件に基づいて創造されたキャラクター

物語は、1993年にシチリアで起きた実際の誘拐事件に基づいている。マフィアの密告者である父親の口封じのために誘拐された13歳のジュゼッペ・マッテオ少年(誘拐時は12歳)が、779日間の監禁の後に殺害され、硝酸で溶かされたという凄惨な事件だ。

脚本および監督を務めたファビオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァは、その事件に着想を得てジュゼッペを創造し、架空の人物ルナを登場させた。

ジュゼッペに恋する同級生のルナは、ある日、森に入っていく彼にラブレターを渡そうと追いかける。ジュゼッペにはルナの気持ちがわかっているし、彼の思いもきっとルナと同じだ。ルナをからかうジュゼッペはしかし、凶暴な野犬からルナを救い出す王子様でもある。

ジュゼッペはルナを馬小屋に誘った。颯爽と馬を乗りこなすジュゼッペにルナの恋心は高まっていく。そして、ようやく渡せたラブレター。想いを通わせた二人は、初めてのキス。しかし、その直後にジュゼッペは姿を消してしまう。

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
12月22日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C) 2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM

初々しい初恋物語と、緊張感あふれるドラマのせめぎ合い

物語は初々しい初恋ストーリーから一転、ピンと張った緊張の糸を辿るように静かに進む。ジュゼッペの失踪に関して口を紡ぐ家族。ルナの両親や周囲の大人たちも、それには触れまいとしているのがルナにはわかるし、納得がいかない。

なぜ誰も彼を探さないの? 友人とふたりでビラを作ってジュゼッペを探すルナ。彼がマフィアに囚われたとわかってからも、探すことをやめられるわけがない。

そんなルナを応援しながらも心配になってくる友人たち。執拗にルナを止める母親との関係は思春期特有の複雑さを伴っており、青春物語の一端も見え隠れする。

一方、囚われの身となったジュゼッペにとって唯一の心の拠り所はルナからの手紙だ。そこに息づくルナを想うことで、なんとか自分を保とうと必死なのだ。

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
12月22日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C) 2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM

ファンタジックな要素が浮き彫りにする、過酷な現実

グラッサドニア&ピアッツァ監督は言う。「私たちはこの二つの物語を、一方から他方へと切り替えるようにして語っている。一方に事実に基づき、生身の人間と史実を組み込んだ物語があり、他方にフィクションとして主人公ふたりの強い絆を描く物語がある。愛があれば奇跡を起こし、死をも乗り越え、人間らしさを失わずにいられるかもしれない」と。

幻想的な美しさをたたえたシチリアの風景や水の描写は、本作が持つファンタジックな要素を一層強めると同時に、過酷な現実を浮き彫りにする。さらには、架空の存在(ルナ)が現実の闇を私たちの目前にさらす。

事件と、事件を見て見ぬ振りをする大人たちに憤るルナの眼差しは、私たちにも向けられているのではないか? 悪事から目をそらし“ことなかれ”を貫く大人には、真実も見えない。ルナの無垢な恋心と正義が胸を突く。

『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
12月22日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開
(C) 2017 INDIGO FILM CRISTALDI PICS MACT PRODUCTIONS JPG FILMS VENTURA FILM

世界から絶賛された新星2人の、瑞々しくも繊細な演技

ルナを演じたユリア・イェドリコヴスカも、ジュゼッペを演じたガエターノ・フェルナンデスも、本作が映画初出演だというが、本作は、このふたりの瑞々しくも繊細な演技なくしては成立しなかったと思える。

キリッと意志の強そうな目で相手を見据えるルナ役のユリアは、すらりと伸びた脚までもが、歪みや淀みのないまっすぐな彼女の心を映しているようで、目を奪われる。

ガエターノもまた、監禁中の身であり、しかも父がマフィアの密告をやめる兆しはない(=自分は助けてもらえない)という絶望の中にあって、ルナを見守る強くてやさしい王子様であり続けるジュゼッペという難役を、見事に演じきっている。

ルナとジュゼッペ。二人が再会を果たすのは、現実の世界ではない。けれど二人の想いの深さは、現実を超越した世界にふたりを誘い、“夢”を見せ“魂”を救う。

現実の世界で命を落としたジュゼッペ少年の魂もまた、この映画によって救われた、と思いたい。



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