2019/01/02 11:00

寅さんは失恋パンチドランカーではなく、傷心ボヘミアンだ

キャプテンフック / PIXTA

通称「寅さん」。1969年から1995年まで、四半世紀以上にわたって全48作が製作された『男はつらいよ』シリーズは、文字通り国民的な人気映画だった。盆と暮れにコンスタントに公開されることもあり、観客に「もう、そんな時期か」と感じさせる風物詩的な存在にもなっていた。

たとえるなら、おじいちゃん、おばあちゃんの家で、たまにしか会わない親戚と話をしたり、あるいは、親からお年玉をもらったりといったことに近かった。リアルタイムで接していた人にとっては、あって当たり前、なくなるなんてことは想像できなかった(したくなかった)に違いない。

だが、残念ながら、主演を務めた渥美清の逝去によって、シリーズは終結した。1995年。昭和のイメージで語られることが多いが、平成はもうとっくに始まっていた。最終作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』は、その年の日本に襲いかかった阪神淡路大震災も描写しながら、フィナーレを迎えた。『男はつらいよ』は紛れもなく、ある時期の日本人の拠りどころとなったシリーズである。

なぜ、寅さんはモテるのか

主人公、車寅次郎はテキ屋として日本全国のお祭りを転々としている。実家、葛飾柴又にふらりと帰ってはひと騒動起こす。その終わらない(ように映る)エンドレスなループが魅力の喜劇だった。

ループ、すなわち、反復。そこには、寅次郎が旅先で出逢った女性に恋をして、必ず実らない、という定型が大きな位置を占めていた。なんとなく日常の延長線上でこの映画と接していた人々にとっても、「寅さん=失恋」の印象は強かったのではないか。それがパブリックイメージと化している一面もあったように思う。

だが、はたして、寅さんは毎回、失恋していたのだろうか? 観るひとによって見解は異なるかもしれないが、あれは失恋ではなかったのではないか。身を引く。あるいは、別な男性に意中の女性を託す。そういう所作であり、恋愛マナーだったように思うのだ。

身内に対しては喧嘩っ早いところもあるが、そのやや荒っぽい口調に反して、社交性に長けたスマートな性質である車寅次郎は、俗に言う「情が厚い」で済まされるようなキャラクターではなかった。とりわけ女性に対してはそのスマートさが発揮され、ついつい面倒を見てしまう。だが、押し付けがましさは皆無だから、女性たちも好感を抱く。江戸っ子ならではの気質もあるが、ウザいところがないから、お節介もお節介に映らない。

つまり、寅さんは不器用なタイプではない。むしろ、かなり、こなれている。恋愛下手は、参考にしたほうがいいくらいだ。

John S Lander/GettyImages

寅さん流ダンディズムとは何か

惚れっぽいのかもしれない。だが、惚れたからと言って、相手に何かを要求することはないし、ただ親切にするだけなのだ。親切にしたいから親切にする。親切にできるポジショニングをいち早く獲得する器用さがあると言ってもいい。

女性はそんな寅さんに安心して、相談などもしたりする。その相談には恋愛なども含まれる。だが、そうした距離感のままで女性がいてくれればいいが、それ以上、距離が縮まりそうになると、寅さんは必ずと言っていいほど、すっと退く。それ以上近づいたら駄目だよ、と言わんばかりに。

車寅次郎のダンディズムは、自ら退いておきながら、それをあたかも失恋のように見せてしまう(周囲のキャラクターだけではなく、映画を観ている観客にも勘違いさせる)点にこそある。つまり、女に恥をかかせない、ということだ。

こうした態度は、単に恋に臆病なだけなのではないかとの憶測も呼ぶ。幼少期、母親に棄てられた記憶が、彼の女性観に与えた影響は少なくないだろう。女はいつか自分を棄てる。だから、本気になってはいけないのだ。そんな自嘲と戒めがないこともない。

ただ、単に「臆病」と言うには、あまりにも恋の数が多すぎやしないか(もちろん、シリーズだから仕方がないけれど)。彼は女性に対して決して奥手ではない。拒否しているわけでもない。そこには憧憬がある。母親を経由しているから、多少屈折しているかもしれないが、女性への憧れは間違いなくある。車寅次郎の恋は、失恋というより、自ら退くことでもたらされる傷心である。

恋を決して成就させない「傷心ボヘミアン」としてのありようは、第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』に顕著にあらわれている。シリーズ4作に登板した浅丘ルリ子扮するリリーは、寅さんと相思相愛の関係である。お互い、そのことも理解している。だが、寅次郎はリリーと添い遂げようとはしなかった。その幕切れが、結果的にはシリーズそのものの幕切れとなった。

シリーズ未体験の方は、最終作からさかのぼるように車寅次郎の足跡を辿っていっても面白いかもしれない。国民的人気シリーズの主人公がかくも複雑な内面を有していることにきっと驚くはずだ。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)



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