2019/01/06 06:30

60年代ロンドンのストリート・ムーブメントが起こした、若者たちの“革命”

『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』
2019年1月5日(土)より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
(c)Raymi Hero Productions 2017

文=油納将志(ゆのう まさし)/Avanti Press

ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フー、キンクス、マリアンヌ・フェイスフル、ツイッギー……彼ら彼女たちが当時の若者たちと60年代のロンドンで作り上げた音楽、映画、ファッション、アートを巻き込んだムーヴメント、“スウィンギング・ロンドン”。

そのカラフルでヒップ、スタイリッシュなカルチャーを『ハンナとその姉妹』『サイダーハウス・ルール』で2度にわたるアカデミー賞に輝いた名優マイケル・ケインがナビゲートして紹介するのが、この1月5日(土)に公開される『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』だ。

『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』
2019年1月5日(土)より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
モデル、女優、歌手のツイッギー (c)Paul Popper Popperfoto Getty Images

英国を代表する名優は、労働者階級の出身だった

近年では『バットマン』シリーズのアルフレッド・ペニーワース役として知られるケインと“スウィンギング・ロンドン”がどう結びつくのか? 意外に思われる方も多いと思うが、ケインは60年代半ばに30代になったところであり、ムーヴメントに共感して見守る兄貴格のような存在だった。

50年代から俳優としてのキャリアをスタートさせたケインだが、父は魚市場の運搬人、母は掃除婦という典型的な労働者階級の家庭、街で育ち、その階級の人たち特有のコックニー訛りで話していた。しかし、当時スクリーン上の会話はすべてクイーンズイングリッシュであり、うまく話せないケインに良い役は回ってこなかったと当時を振り返って語っている。

支配者階級にとって、労働者階級は自分たちに労働力を提供するだけの存在であり、一人前の人間として扱われてこなかったが、それは映画でも同様で、コックニー訛りの主役は考えられなかった。

しかし、そんな背景や事情を理解しないアメリカ人が監督した1964年公開の映画『ズール戦争』で、ケインは準主役である上流階級の将校役に抜擢される。まさに古い因習が終わりを告げた瞬間だった。

『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』
2019年1月5日(土)より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
若き日のマイケル・ケイン (c)Photo by Stephan C ArchettiKeystone FeaturesHulton ArchiveGetty Images

ロンドンのストリート・ムーブメントが起こした“革命”

その頃、労働者階級のティーンエイジャーたちはイタリアンルックのスマートなスーツをまとい、アメリカのR&Bやブルースで踊り、スクーターを乗り回していた。モダーンズ(Moderns)を略したモッズ(Mods)と呼ばれた若者たちで、冒頭に挙げたバンドやモデルたちもモッズに強く影響された音楽やファッションでステージやTV、雑誌に登場した。

支配者階級が我が物顔で歩いていたロンドンのストリートは労働者階級の若者たちのものとなり、彼らが興したムーヴメントによって“革命”が起こったのだった。

その過程やディテールを当時の映像をバックに、ケインがカメラに向かってロンドンっ子らしいウィットに富んだ語りで伝えていく。その手法はケインの出世作となった1966年公開の『アルフィー』を思い出させ、同時に当時のイギリスの労働者階級の若者たちは歴史上初めて、自分というものを手に入れたのだということにあらためて気付かせてくれる。

ビートルズの解散と“スウィンギング・ロンドン”の終焉

月曜日から土曜日まで身を粉にして働き、土曜日の夜だけ羽目を外し、日曜日はまた始まる月曜日のことを思って憂鬱になる。そんな変わらぬ日々をずっと繰り返して年老いていき、やがて息を引き取る。労働者階級は決められたレールから外れることを許されずにいたが、60年代になって初めてファッションや音楽、アート、映画によって自己主張を始め、“個”というものを手に入れたのだった。

若者たちの晴れやかで自信に満ちた表情はまさに未来があると信じてのものであり、50年が経った現在もまばゆいばかりに光り輝いている。その象徴であり代弁者だったのがザ・ビートルズであり、ザ・ローリング・ストーンズであり、ザ・フーであった。その盛り上がりは海を越えてアメリカ本土にも達し、ブリティッシュ・インヴェイジョン(英国の侵略)という名のムーヴメントとしてアメリカの若者たちも熱狂の渦に巻き込んでいった。

やがてサイケデリックの時代へと移ろっていき、さらにカラフルとなっていくが、同時にドラッグが若者たちを蝕んでいく。光あるところ影あり。ベトナム戦争に反対するヒッピー・ムーヴメントとともリンクするようになっていき、スウィンギング・ロンドンの時代は幕を閉じる。そう、ザ・ビートルズの解散と共に。

『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』
2019年1月5日(土)より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
ビートルズのポール・マッカートニー (c)David Redfern Redferns Getty Images

「若さとは年齢じゃない、心のあり方なんだ」

たった5年ほどの時間に若者たちの膨大なエネルギーが放出され、あらゆるカルチャーを生み出しては変化させていった。90年代のブリット・ポップ・ムーヴメントにおけるオアシス、ブラーはまさにスウィンギング・ロンドンの時代が産んだ申し子たちによって起こされた。

スウィンギング・ロンドンが今も一度として古びることなく刺激的であり続けるのは、まさに若者たちの何者かになりたいという人間本来の純粋な動機が投影されているからにちがいない。

「まちがいなく私たちの時代だった。人生最良の時だった。若さとは年齢じゃない。心のあり方なんだ」

現在85歳となったケインは誇りを持ってそう語る。その彼の後ろに、あの『アルフィー』でのケインが見えたのは錯覚じゃないはずだ。



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