2019/01/07 06:30

贅沢エビフライ!?『南極料理人』の伊勢海老フライを食す!【映画の料理Vol.42】

文=金田裕美子/Avanti Press

寒い。冬に突入したばかりなのに、早くも春が待ち遠しい。でも地球にはニッポンの関東地方なんぞよりもっともっと寒い地域はたくさんある、それに比べれば……と、日々なんとか自分を励ましています。

世界で最も寒い町として知られるロシアのオイミャコンは、1月の平均気温がなんとマイナス50度。人が定住しているわけではありませんが、南極にあるドームふじ基地の平均気温は、それよりもっと低いマイナス54度なんだそうです。

『南極料理人』(2009年)は、そんな極寒の基地に調理担当として赴任した西村くん(堺雅人)と観測隊員計8名のオッサンたち(若者もいます)の物語。実際に第30次と第38次南極地域観測隊に参加した西村淳さんのエッセイ「面白南極料理人」(2004年、新潮文庫)がもとになっています。

『南極料理人』監督:沖田修一
Blu-ray・DVD発売中/各3,800円(税抜)
販売元:バンダイナムコアーツ

ドームふじ基地は、『南極物語』(1983年)で描かれた、タロやジロがいた昭和基地よりさらに1,000キロ南、富士山より高い標高3,810メートルにあります。昭和基地で観測された最低気温記録がマイナス45.3度なのに対し、ドームふじ基地の記録はマイナス79.7度、ということからも環境の厳しさがうかがえます。ま、数字を聞いてもそれがどういうことなのか想像もできませんが、想像を絶する寒さなのでありましょう。

ペンギンやアザラシどころか細菌までもが寒すぎて生存できないこの地では、もちろん食料の現地調達も不可能。8人の食事を任期の1年分持っていかなければなりません。考えたこともありませんでしたが、人が1年間に食べる量は約1トンなんだとか。ということは、食料だけで少なくとも8トンの荷物です。そこに何を持っていくか、これは大変な問題です。

今回は、映画に登場する南極メニューの中でも最もインパクトの強かった“豪華伊勢海老フライ”に挑戦してみます。

「ごく普通」のメニューが嬉しい南極生活

マイナス50度の地ではありますが、もちろん雪上でキャンプをするわけではなく、隊員たちはちゃんと適温に保たれた基地内で生活しています。ここで彼らは毎日何を食べているのでしょうか。

南極のネコ・ハーバーを歩く人々。
南極地域観測隊は毎日こんな中で生活しているんです!
Nori / PIXTA(ピクスタ)(イメージ)

なにせ持っていけるのは、冷凍か乾燥か缶詰の食品のみ。興味津々で見ていると、出てくるのはごく一般的なニッポンの食事メニューばかりです。ご飯と味噌汁、焼き魚、卵焼き、おにぎり、ラーメン、天ぷら、シューマイ、エビチリなどなど。記念日や隊員の誕生日にはごちそうが並びますが、通常はごく普通の家庭的な料理がテーブルに並んでいます。

でもよく考えると、南極でこの「ごく普通」のメニューを毎日3食出すのはものすごく大変なこと。お醤油がなくなったからちょっとそこのスーパーに……なんてわけにはいかないのです。実際、映画にも、ラーメン好きの隊員、通称タイチョー(きたろう)が勝手にインスタントラーメンを食べ続けたあげく、在庫が早々になくなってしまって大ショックを受けるシーンがあります。とにかく補充がきかない。

その「ラーメンが尽きたショック」をやわらげるべく朝食に出されるのが、カニです。西村くんは「カニならたくさんありますから」と、タラバガニ、ズワイガニ、毛ガニをたっぷり振る舞います。基地で単調な生活を送る隊員たちにとって、食事は大きな楽しみなのでありましょう。1年分の食材を調達する際、カニやエビ、アワビ、塊の牛肉など、ちょっと心が躍る高級食材をたくさん買い込むのもよーく理解できます。

お醤油がなくなっても買いに行ける店がない南極。
よってラーメンがなくなるのは想像以上の悲劇なのです
Good_Stock / PIXTA(ピクスタ)(イラストはイメージ)

そういえばフランス映画『大統領の料理人』(2012年)では、ミッテラン大統領の専属料理人を務めた経験もあるオルタンス(カトリーヌ・フロ)が南極のフランス観測基地で料理担当として働いていました。これは実在の料理人ダニエル・デルプシュがモデルになっています。国を代表するシェフが南極で料理を作っているのもすごいですが、彼女も、記念日にはトリュフやフォアグラなど高級食材を使った豪華メニューで隊員たちを喜ばせていました。

今回とりあげるのも、高級食材の伊勢海老。基地の在庫の中に前次隊が置いていった伊勢海老が大量にあることがわかり、隊員たちは「伊勢海老? じゃ今夜は海老フライだな」と言い出します。

西村くんは「伊勢海老なら刺身とかのほうが……」と説得しようとしますが、「俺たち、気持ちはもう完全に海老フライだから」とまったく聞いてもらえません。さらに隊員たちは、水の原料である雪を集める作業をしながら「♪エッビフライ、エッビフライ」とどんどん盛り上がってしまいます。不本意ながらフライにせざるを得なくなる西村くん。

イキのいい奴!

その夜、食卓につき、お頭をサイドにどんと添えた伊勢海老フライを前にした一同は、そのあまりの迫力に絶句。「……遠近感狂うな」と言うのがやっとです。巨大なフライをナイフとフォークを使ってカットする者、果敢にそのままガブっと食らいつく者。

食べ方はさまざまですが、隊員たちの感想はみな一致していたようです。

「やっぱ刺身だったな」

だーかーらー。

しかし、隊員たちに不評だったこの伊勢海老フライ、食べにくそうではありますが、とってもおいしそうです。だって伊勢海老だよ? 本当にイマイチなの? それに、調べてみると、昭和6年創業の洋食屋、たいめいけんの海老フライは当初伊勢海老を使っていたとか。これは作ってみるしかありません。

というわけで、まずは築地の場外市場に行って伊勢海老をゲットして参りました。水槽から出す際、隣にいた同室(槽?)の車海老を尻尾ではね飛ばしたイキのいい奴、です。

いざ、伊勢海老をさばく! みそを使ってタルタルソースも♪

さて。伊勢海老。でかい。何やらギーギーいわせて動いているし、トゲトゲして痛そうだし、飛び出た目玉で睨むし、わたくし、ちょっとひるみます。しかしここでビビっていては先に進めません。

まずよく洗ってから、頭と胴体の間に包丁を入れて筋を切り、胴体をぐるっと回して頭から外します。海老さまがパシっと動くたびに「ひー」となりますが、ここは冷徹に、なるべく素早く。

海老さま、動かないでー

胴体を裏返して、キッチンバサミで丸いぴらぴら(腹肢というらしい)を切り取ります。固い背殻と薄く柔らかい腹皮の境にハサミを入れ、腹皮をはがします。この時、身もいっしょにはがれてしまわないように包丁などを使って少しずつていねいに。

次に背殻から、これもていねいに身をはがし、最後に背ワタを取り除きます。慣れない作業なのでちょっと時間がかかってしまいました。

頭の中に入っている黄色いみそを取り出して、頭だけ茹でます。ヒゲ(正確には触角)が長くて鍋に入りきらないので、時々トングなどで向きを変えます。すると、赤黒かった海老さまが、鮮やかな朱色に! これはアスタキサンチンという色素によるものだそうです。

取り出した海老みそは、西村くんにならってタルタルソースに加えます。茹で卵のみじん切り、玉ねぎのみじん切り、チンして火を通した海老みそ、マヨネーズ、レモン汁を混ぜ、塩、こしょうで味を整えれば、南極風(?)タルタルソースの出来上がり。

付け合わせには、映画と同じように茹でたマカロニと薄切りの玉ねぎときゅうり、ハムをマヨネーズで和えたマカロニサラダを用意しました。

カラッと揚がった伊勢海老フライ

伊勢海老は、火が通ったときに身が丸まらないように、尾から頭に向って串を刺します。あとは普通の海老フライの作り方と一緒。海老の身に塩、こしょうして小麦粉をつけ、溶き卵にくぐらせてパン粉の衣をつけます。これを170度の油にそっと入れ、カラっときつね色になるまで揚げます。

鍋いっぱいの海老さま

大きめのお皿にサニーレタス、マカロニサラダ、伊勢海老のお頭、そしてフライをのせ、タルタルソースをかけ、レモンを添えれば完成です! 

うおーう。お頭の威圧感がすごい。そしてヒゲが食べるときにちょっと邪魔。比較のために、普通サイズの海老フライも作ってみました。では、いざ、実食。

どーん! 奥は普通の海老フライ

頭からガブっといくことはせず、ナイフで切り分けていただきます。

ほう。外はカリっと揚がり、中はしっかり噛みごたえがあります。淡泊だけど甘みがある。タルタルソースの海老みそもいい味が出ています。全然おいしいじゃん! たいめいけんのメニューだっただけのことはあります。観測隊のみなさんはどこが気に入らなかったのでしょう。

原作者の西村さんによると、最初は伊勢海老を喜んで食べていた隊員たちも、何度も出されるうちに徐々に残すようになったのだとか。思い切ってすり身団子にして「伊勢海老っぽさ」を消してみたところ、こちらは大好評だったそうです。高級食材もほどほどに、ということでしょうか。

大きさ比較のために作った「普通の」海老フライも食べてみます。

あ、こっちのほうが「海老っぽい」。なんというのでしょう、白身魚のお刺身とイワシやアジなど青魚のお刺身の違いのようというか、いい意味で魚介くさいというか。これはこれでおいしい。いや、海老フライとしてはこっちのほうが好きかも。高級食材より、ラーメンのほうをありがたく感じるタイチョーの気持ちがわかるような気がしたのでした。

原作者・西村さんのエッセイに、食材調達時に高級な魚介類ばかり買い込み、サバやホッケなど比較的安価な大衆魚を仕入れるのを忘れて悔やんだ、というお話が出てくるように、慣れ親しんだ味がいちばんしっくりくるのかもしれません。

2019年年明けにはテレビドラマ「面白南極料理人」も!

映画と同じ原作をもとにしたテレビドラマ「面白南極料理人」(テレビ大阪)が、来年1月12日深夜0時から毎週土曜に放送されるそうです。ドラマのほうにはどんな料理が登場するのか……こちらも大いに楽しみです。

「面白南極料理人」2019年1月12日(土)より
テレビ大阪 土曜深夜0:56~1:26、BSテレビ東京 土曜深夜0:00~0:30
(C)ドラマ「面白南極料理人」製作委員会

こちらはテレビドラマ版のロブスターフライ
「面白南極料理人」2019年1月12日(土)より
テレビ大阪 土曜深夜0:56~1:26、BSテレビ東京 土曜深夜0:00~0:30
(C)ドラマ「面白南極料理人」製作委員会

■本コラムのレシピは、実際の映画やドラマに登場するメニューとは異なります。

《材料》
〈伊勢海老フライ〉伊勢海老、薄力粉、卵、パン粉、塩、こしょう、揚げ油
〈タルタルソース〉茹で卵、玉ねぎ、海老みそ、マヨネーズ、レモン汁、塩、こしょう
〈マカロニサラダ〉マカロニ、玉ねぎ、きゅうり、ハム、マヨネーズ、塩、こしょう
サニーレタス、カットレモン
《映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具》
氷、雪、防寒服、ブーツ、耳つきの帽子、ジャージ、共用電話、FAX


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