2019/01/28 06:30

「ナチスの制服を拾った」脱走兵が“虐殺者”に変貌した理由とは?

『ちいさな独裁者』2月8日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

『フライトプラン』(2005年)、『きみがぼくを見つけた日』(2009年)、『ダイバージェント』シリーズで知られるドイツ人監督ロベルト・シュヴェンケ。LAを拠点に活動し、サスペンスやアクションからラブストーリーまで幅広いハリウッド作品を手がけてきた監督が、「ハリウッドでは絶対に作れなかった」と断言する最新作『ちいさな独裁者』(2019年2月8日公開)。ドイツの脱走兵がナチス将校の軍服を拾って身にまとい、大尉のふりをして残虐行為を繰り返したという衝撃の実話を映画化した作品です。

幾多も作られてきたナチス映画のなかで、なぜこの作品が画期的なのか――。来日したシュヴェンケ監督のインタビューを元にその理由を紐解いてみましょう。

ロベルト・シュヴェンケ監督 インタビュー ちいさな独裁者

ロベルト・シュヴェンケ監督

衝撃の実話を忠実に映画化した映画『ちいさな独裁者』

1945年4月、第二次世界大戦終結の数週間前、ドイツ国防軍の空挺兵だったヴィリー・ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)は、部隊を脱走しドイツの無人地帯をさまよっているうちに、道端に打ち捨てられた軍の車を見つけます。社内にはナチス将校の軍服があり、寒さをしのぐためにそれを身につけているところ、部隊からはぐれたという上等兵フライターク(ミラン・ペシェル)と出会います。脱走兵は重罪だったため、咄嗟にナチス大尉のフリをしたヘロルトは、フライタークを従えてドイツ北部を目指します。

道中、はぐれ兵とも脱走兵とも判断のつかぬ兵士たちと出会い、彼らを配下に収めたヘロルトは架空の任務をでっち上げて“特殊部隊H”を編成。彼らがたどり着いた先は、国防軍の脱走兵や略奪兵たちが収容された収容所。警備隊長のシュッテ(ベルント・ヘルシャー)は囚人たちを一刻も早く処刑したいけれども、自分にはその権限がないことから、ヘロルトに相談します。ナチスの権威を嵩に着たヘロルトは、1日で約90人もの囚人を処刑してしまいます……。

ちいさな独裁者 サブ1

『ちいさな独裁者』(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

わずか数週間の間に、一脱走兵から残酷な虐殺者へと変貌を遂げたヘロルトは、なんと当時19歳でした。終戦直前、ヘロルトと仲間はついにドイツ軍事警察に逮捕されますが、このときの裁判の記録を徹底的に検証して作られたのが本作。ヘロルトが軍服を拾ったシーンも彼の証言に基づいたものだとか。

しかし、シュヴェンケ監督はこう言います。

「ヘロルトはすべてが偶然で、成り行きでナチス大尉のふりをしてしまったと裁判で証言しました。真実は分かりませんが、私個人的にはヘロルトは軍服を拾ったのではなく、盗んだのではないか。成り行きで虐殺を行ったわけではなく、ヘロルトは確固たる意思をもって行ったのではないかと思っています」

人間の本質は善と悪に二極化できない

ヘロルトや仲間が亡くなっている現在、彼が虐殺者へと変貌した動機や心理は解明できませんが、これまでの戦争映画と本作が決定的に異なる点は、“良い兵士、悪い兵士”がいないこと。

ちいさな独裁者 サブ3

『ちいさな独裁者』(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

例えばオリバー・ストーン監督作『プラトーン』(1987年)はアカデミー賞作品賞やゴールデングローブ賞作品賞を受賞した名作ですが、民間人を虐げる悪い軍曹バーンズ(トム・ベレンジャー)と彼を告発しようとする良い軍曹エリアス(ウィレム・デフォー)が登場します。人間性を善悪の二極化することによって、観客はもちろん人間の善のほうに共感してしまい、人間の悪に対しては他人事として見てしまう。

でもこれでは、人間の本質から目をそらしていることになるのではないでしょうか。どの国においても、戦争犯罪は一部の権力者だけが犯したものではなく、“普通の人々”も関わっていたのだから。

「人間の本質は善と悪に二分化されるものではなく、もっとグレーなのでは? 例えば、ヘロルトに従う脱走兵たちの多くがヘロルトが本物の将校ではないことに気がついていました。ヘロルト親衛隊が訪れた酒場や収容所の人たちも、なにかがおかしいと分かっていながら、あえて彼の嘘に従いました。これはどうしてなのか? それは、人間には、道徳的に悪いことでも、“自分の利益になること”には賛成してしまうという、自己中心的な部分があるからです」と語る監督。

ちいさな独裁者 サブ2

『ちいさな独裁者』(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

悪者はナチスだけじゃない

さらに今作が興味深い点は、当時のドイツの権力システムを作り上げる様々な組織を浮き彫りにしているところ。

第二次世界大戦の“ドイツ軍=ナチス”というイメージがありますが、劇中登場するのは、国防軍、ナチスのゲシュタポ、司法局などの様々な組織。国防軍の収容所の囚人の裁判を執行するのは司法局の管轄でした。

ところが、ヒトラーから直接命令を受けていると主張するヘロルトは、電話でナチスのゲシュタポから全権委任を取り付けます。電話口に登場する様々な組織の者たちは、自分たちで責任を取りたくないがために、不可解ながらもヘロルトに全責任を押し付けてしまうのです。

実際に、国防軍がホロコーストや戦争犯罪に関与していないという歴史観は戦後長いことドイツに存在し、監督もそのように教えられて育ってきたそう。とはいえ、「これは史実ではなく、ナチスだけに責任を被せた歴史修正主義の表れだ」と監督は説明します。

ちいさな独裁者 サブ4

『ちいさな独裁者』(C)2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

カメラワークで映し出す主人公と観客の距離感

どこか滑稽なトーンで包まれているこの物語には、観客はときにヘロルトと同一化し、ときにヘロルトを遠くから観察するという二つの距離感があるように感じます。

「クローズアップのシーンではヘロルトの心の内側を、ロングショットのシーンでは彼の行動を冷静に観察してもらいたかった。ヘロルトの人物像については、私も調べれば調べるほど分かりませんでした。彼のことをサイコパスと呼ぶ人もいるかもしれません。ですが、心理用語やイデオロギーでは定義できない人間のエモーションがあるんじゃないか。それを観客ひとりひとりに考えてほしいんです」

人間の残酷さに顔を背けたくなりながらも、サスペンスフルな展開と美しい色調でスクリーンから目が離せぬ本作。ファシズムの根底にある人間の心理を言語化して理解するのは難しい。けれども、人は誰もがちょっとしたきっかけで加害者になりうるーー。そして、エンドロールで登場する驚きの映像は、ロベルト・シュヴェンケ監督から私たちへの問いかけなのでしょう。

「ヘロルトと仲間は私たちでもあります。この映画は過去ではなく、現在の私たちを映し出した物語なのです」

(取材・文/此花さくや)



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