2019/01/25 06:30

DVでの暴力と恐怖をリアルに体感させる衝撃作『ジュリアン』

(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinéma

フランスの新鋭、グザヴィエ・ルグラン監督の長編デビュー作となる『ジュリアン』(1月25日より公開)は、ヴェネチア国際映画祭をはじめ、世界で絶賛された1本。驚くべきはルグラン監督の演出にほかならない。俳優の力量にもよるのだろうが、我々はフィクションおよび演技とは到底思えない、本物の「暴力」を目の当たりにした気分になる。

何の加工も施さず、そのものを差し出すような暴力描写

物語は、離婚した夫婦が親権を巡って対立するところから始まる。そもそも離婚の理由は夫アントワーヌのDVにあり、父を前には言えないが11歳の息子ジュリアンも、18歳の娘ジョセフィーヌも彼とは会いたくない。

しかし、アントワーヌは未練があり、改心したことを猛アピール。最終的に離婚調停の取り決めで親権は共同と判断され、ジュリアンは隔週の週末ごとに父と過ごさなくてはならなくなる。

ここからジュリアンの地獄の日々が始まる。暴力を恐れる母ミリアムはアントワーヌと顔を合わせようとせず、新しい住所も電話番号も教えない。

一方、よりを戻したいアントワーヌは、ジュリアンからミリアムの連絡先を聞き出そうとする。だが、母が危険にさらされることが目に見えているジュリアンは口を割らない。こうして不満を募らしていくアントワーヌは結局、実の息子にも暴力の矛先を向けていくのだが、この描写が凄まじい。暴力を何の加工もほどこさず、そのものを差し出すように容赦なく見せていく。

それらの暴力シーンは、殴る蹴る、肉体と肉体がぶつかり合うヴァイオレンス映画のそれとは質がまったく違う。痛みを感じるというよりは、暴力がそのままこちらに襲いかかってくるかのようだ。

カッとしてジュリアンの座るカーシートを思い切り殴り、感情のままに恫喝するアントワーヌの姿。それに対して、身を縮めて涙目で耐えるしかないジュリアンの、恐怖に怯える表情。こうしたいずれの暴力描写も演技とは思えない。途中から映画であることを忘れ、現実ではないかと錯覚するぐらいのリアリティが宿る。我々は「本物の暴力」という恐怖と、それによって受ける心の傷を、ジュリアンを通して追体験することになる。

(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinéma

果たして、ルグラン監督はどんな演出をほどこしたのか?

映画的なことを言えば、どんな演出をしたらこんなシーンを撮れるのか? 正直、わからない。そこでルグラン監督に聞くと、こう明かした。

「フランスでも、夫による妻への暴力は社会問題となっています。私自身、この問題をないがしろにしてはいけないと思いました。この、家族間の暴力というのはギリシャ悲劇にも書かれていること。つまり今に始まったことではない、人間の根源的な問題であるということを、みなさんに問いかけたかったんです。

とりわけ今回は、夫婦間の暴力が子どもにどんな影響を与えるのかを見せたかった。暴力がどれだけ恐怖を与え、心に深い傷を与えるのか。白日の下に晒さないと、そのほんとうの痛みや恐怖は伝わらない。あまりに残酷で目を背けたくなるかもしれない。でも、そこできっちり描くことを控えたら、嘘になる。妥協は許されない。徹底的にリアルな暴力を映し出そうと思いました。

(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinéma

そのためにはアクターが重要。ただ、今回は演技の上手い下手というより、自分をさらけ出せるというか、自分の感情を躊躇なく出せる俳優を選びました。でないと、どうしても表面的になってしまいます。こうして選んだアントワーヌ役のドゥニ・メノーシェはすごく僕の意図を汲んでくれました。

彼はまず時間をかけて、ジュリアン役のトーマス・ジオリアと本当の親子のような深い信頼関係を結んでくれたんです。撮影の合間に一緒にサッカーをしたり、冗談話をしたりしてね。するとトーマスも気を許して、ドゥニのことを実の父のように慕って、いつも一緒に過ごしていました。ほんとうに血を分けた親子のように、二人はなっていたんです。

だからこそ、肉親に暴力を受けるジュリアンの表情が生まれたし、肉親に牙を剥くアントワーヌの怒りにも、あれだけのリアリティが出たんじゃないかなと思います。フィクションで危害は及ばないけど、その場では俳優たちはそうは思っていないというか。もう、生身のアントワーヌ、ジュリアンになっていた。そういった、演技を超えた何かが画面から滲み出ているから、ほんとうの暴力が画面に存在したのではないでしょうか。

ちなみに、ジュリアンがアントワーヌから怒号を浴びせられるシーン。映画では、必死に涙をこぼすのを耐えていますが、カットがかかった瞬間、トーマスからは涙が溢れ出て、しばらく震えが止まらなかったんです。演技などではなく、ほんとうに怖かったと彼は言っていました」

(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinéma

詳細は明かせないが、ラストに用意された迫り来る恐怖は、もはや息を止めて観るしかない。本物の暴力を体感することになる本作。気をしっかりともって観てほしい。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)

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