2019/02/02 11:30

大女優が老いた肉体をさらす『ともしび』が絶賛された理由

2017 (C) Partner Media Investment - Left Field Ventures - Good Fortune Films

昨年のヴェネチア国際映画祭で主演女優賞に輝いた、シャーロット・ランプリングの最新作『ともしび』(2月2日より公開)。今やヨーロッパ映画のみならず、ハリウッドのアクション大作にも出演する世界的大女優である一方、若かりし頃に『愛の嵐』(1974年)で披露した鮮烈なヌード姿もいまだに語り継がれているランプリング。今と昔、どちらの姿を知るファンも、本作でスクリーンに老いた肉体をさらけ出す彼女の女優魂に打ちのめされるに違いない。

メガホンを取ったのは、アメリカを拠点に活動するイタリア人の新鋭監督アンドレア・パラオロ。長編2作目にして、いかにして伝説の大女優を口説き落したのか。監督へのインタビューを交えつつ、ランプリングの魅力を紐解きたい。

ランプリングが「唯一無二の女優」であることを証明する誇り高き「肉体」

『ともしび』でランプリングが演じているのは、ベルギーの小さな都市で夫とともに慎ましやかに暮らす女性アンナだ。夫が犯したある罪により、人生終盤にしてさまざまな業を背負ってしまったアンナの孤独や悲しみ、そして「ある決意」が、まるでドキュメンタリーを思わせる淡々とした筆致で描かれる。

同じひらがな4文字のタイトルのランプリング主演映画から、フランソワ・オゾン監督とタッグを組んで日本でも大ヒットを記録した『まぼろし』(2000年)や、アンドリュー・ヘイ監督の『さざなみ』(2015年)を連想して観ると、映画の冒頭からいきなり異様な叫び声が耳に飛び込んできて、思わずギョッとさせられる。

実はこの声、演劇のワークショップに通うアンナが、年齢も国籍もバラバラな男女とともに行う発声練習の一コマ。だが、そこに漂う違和感やただならぬ不穏な空気が、その後の彼女の不可解な行動やしぐさのなかにも始終立ち込めているのだ。

なんといっても衝撃的なのは、たびたび繰り返される着替えの際に、老年にさしかかったランプリングの肉体が、包み隠さずカメラの前にさらされること。

かつて『愛の嵐』でランプリングが演じた、ナチ帽をかぶった上半身裸のサスペンダー姿がいまだ忘れられない身には、歳月を重ねた肉体の変化はあまりにも残酷なようにも感じられる。だが、その肉体こそが役柄に説得力をもたらすことは映画を観れば一目瞭然。むしろ、ランプリングが映画史に燦然と輝く「唯一無二の女優」であることを証明する要素の一つであるともいえるのだ。

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憧れの大女優へ当て書きした、主人公のアイデンティティー

なぜほぼ無名の新人監督が、40歳近く年上のランプリングに無謀とも思えるオファーができたのか。昨年12月に行ったインタビューで監督のアンドレア・パラオロに直接訊ねてみたところ、非常に興味深い答えが返ってきた。

「14歳の時に、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『地獄に堕ちた勇者ども』(1969年)を観たんだ。シャーロット・ランプリングの退廃的な表情にはものすごくインパクトがあって、それ以降、彼女の出演作品を探して観まくった。映画監督を目指した瞬間から、いつか仕事をしたい俳優の一人だったのは間違いないね。

『ともしび』の場合はあくまで描きたいテーマが先ではあるんだけど、この物語のインスピレーションを得た途端に、シャーロットのイメージが頭に浮かんだんだ。もちろん会ったこともなければ、引き受けてくれるかなんて全くわからなかったけど、脚本を書く段階からすでに当て書きしていたんだよ。

この映画は、個人と夫婦という定まった関係における“アイデンティティーの境目や限界”を模索していく物語なんだ。もしその境界線が何かの拍子に混乱したり、そもそも存在しなくなってしまったら、一個人のアイデンティティーにどんな影響を及ぼすのか、というテーマを掘り下げたかった。そのためには、ヒロインは“何十年も一人のパートナーと連れ添った70代の女性”である必要があったんだ。

脚本が完成して、僕の1作目のサンプルと一緒にシャーロットに送ったら、すぐに“逢いましょう”と連絡が来た。シャーロットには、独特のアイデンティティーが備わっている。これまで彼女が映画の中で演じてきたキャラクターだけではなく、彼女自身が選択してきた人生や、時折垣間見える人間性を通して、彼女に対するイメージをきっと世界中の人がそれぞれもっていると思う。

僕にとって彼女は、どこか演技に危険な感じをもたらすことができる女優であり、人間の行動に対してすごく好奇心をもっている人のように思えた。そして、そんな鋭い感受性をもっている女性だからこそ、この脚本に面白さを見出してくれるんじゃないかと期待した。幸いなことにその勘は当たり、彼女は僕にポジティブな反応を返してくれたんだ」

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撮影現場で目の当たりにした大女優のエナジー

アンドレア・パラオロ監督はこう続ける。

「確かに、劇中には主人公が裸になるシーンがあるけど、シャーロットはこのシーンの撮影に何も問題を感じていなかったし、アンナが観客にどんな女性であるかを伝えるために、裸体をさらすことが欠かせないことを理解してくれた。そうすることで、より一層アンナの真実に迫ることができると感じてくれたんだ。

シャーロットは、一度コミットしたらキャラクターから絶対にぶれない“激しさ”をもっている人なんだ。そして、僕だけでなく、スタッフや他のキャストに対しても本当に寛大な勇気をもって接してくれて、全てを明け渡してシェアしてくれた。彼女には感謝してもしきれないよ。

というのも、映画制作において僕が一番魅力を感じているのは、キャストやスタッフとコラボレーションすることにあるんだ。役者自身の過去や人生、経験、それから聡明さや視点といったものを作品に取り入れる事は、監督としてなにより欠かせないことだと思っている。

もちろん『ともしび』は脚本家と僕が共同で書いた物語だから、アンナという女性がどんな人物であるかは僕らも知り抜いている。でも、実際の70代の女性の心境を知る、という点においてはシャーロットに頼る部分もあったし、彼女の提案を僕は喜んで受け入れた。監督としての最大の喜びは、役者が役柄と完全に同一化した瞬間にある。その瞬間こそが“監督冥利に尽きる”と言えるんだ。

だからこそ、ヴェネチア映画祭で彼女が主演女優賞を受賞したことは、監督である僕にとってものすごく幸せなことだった。だって、僕はシャーロットと共にこの作品を作り上げていく中で、彼女の“エナジーと努力と決意”を思う存分目の当たりにすることができたから。アンナというキャラクターを世の中に産み出せたことも、もちろんシャーロット自身のことも、とても誇らしく思っているんだ。

これからも女性を主人公にしつつ、人間を掘り下げていけるような作品を作りたいと思っている。僕はいわゆる“捨て去られた人々”に対してとても興味があるんだ。人とは違うルックスをもち、独特な振る舞いをする人たちに対して、社会がどのように彼らを扱うか。物語を介して、社会から攻撃される立場に自分自身を置いてみたい。そんなテーマに、僕は強く惹かれてしまうんだ」

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映画監督なら誰もが望むであろう「いつかあの名優を主演に映画を撮りたい」という夢を叶えたばかりか、監督自身の母国で開催された映画祭でランプリングに主演女優賞という名誉までもたらした『ともしび』。そこには、年齢やキャリアの違いをものともせず、直感を信じて果敢に挑んだアンドレア・パラオロ監督の勇気と、シャーロット・ランプリングの「生きざま」が刻まれている。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)



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