2019/03/17 06:30

フェイク・ニュース時代だからこそ観たい“新聞記者映画”の秀作

『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』
3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
(C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

文=平辻哲也/Avanti Press

“イラクは大量破壊兵器を持っている──”。そんなアメリカ政府の嘘を暴いた新聞記者たちの活躍を描いたのが『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(3月29日公開)だ。監督は『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』などで知られる名匠ロブ・ライナー。『スリー・ビルボード』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたウディ・ハレルソンを始め、ジェームズ・マースデン、トミー・リー・ジョーンズが記者役を演じ、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ジェシカ・ビールが脇を固めている。

『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』
3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
(C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

日米で同時多発的に公開が相次ぐ“新聞記者”もの

25年近くスポーツ紙の記者とデスクを勤め、現在はフリーで活動する筆者にとって、新聞記者が主人公の映画に特別な思いがある。

一番好きなのはフランク・キャプラ監督、ジェームズ・ステュアート主演のロマンティック・コメディ『或る夜の出来事』(1934年)(これは気楽に楽しめる)。それから『ローマの休日』(1953年)、『大統領の陰謀』(1976年)、邦画なら『クライマーズ・ハイ』(2008年)……。最近では、トナム戦争時の国家の嘘を描いたスティーブン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(2017年)も秀作だった。日本でも参院選のある6月には東京新聞の望月衣塑子記者の著書を“原案”とした社会派フィクション『新聞記者』(藤井道人監督)が公開予定だ。

私が担当したのは主に芸能面だったが、取材対象が政治だろうが、スポーツだろうが、取材して記事を書くというプロセスには変わりはない。記者は “何事も疑ってかかる”のが仕事だ。ニュースを仕入れた時は情報源を疑う。情報源が不十分だと思えば、別ルートから裏を取る。原稿を書くときは自分自身を疑う。書き漏れはないか、固有名詞や数字に間違えていないか。それでも間違ってしまうことはあって、取材先に謝罪に行ったこともある。

「Everybody lies」(=誰でも嘘をつく)と言ったのは、米人気ドラマシリーズ「ドクターハウス/Dr.HOUSE」の天才医師グレゴリー・ハウス。人はいいように思われたいがために時として嘘をつく。それは無意識の時もあるし、繕うこともある。本作は2003年のイラク戦争時の米政府の嘘を暴く新聞記者の知られざる実話。政府は時として堂々と嘘をつくが、この時の米政府の嘘は最大級と言えるだろう。

『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』
3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
(C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

一流メディアが政府発表を垂れ流すなか、地道な裏取りを

2001年9月11日、アメリカ同時多発テロが発生。ジョージ・W・ブッシュ大統領はすぐさま、イスラム系テロ組織「アルカイダ」の犯行とし、アフガニスタンのタリバン政権の施設に空爆作戦を実行。その攻撃の手をイラクまで拡大させようとする。そんな話を耳にした中堅の新聞社である「ナイト・リッダー」社のワシントン支局長は真相を突き止めるべく、3人の記者に取材を命じる。

やがて、政府は「イラクのサダム・フセインは大量破壊兵器を保有している」との声明を発表。やがて、首都バグダッドを空爆する「衝撃と畏怖」作戦が開始される……。一流紙「ニューヨーク・タイムズ紙」を始めとする多くのメディアが政府声明を疑うことなく流し、9.11の恐怖を間近に体感したばかりの米国民の多くは納得した。だが、ナイト・リッダー社の記者たちだけは疑い続ける。

『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』
3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
(C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

政府当事者へのルートがない記者たちは手分けして、末端まで地道な裏取りし、「大量兵器発言は捏造」との確信に至る。しかし、そこには思わぬ壁も立ちはだかる。傘下の新聞社が記事をまったく載せないのだ。その理由ははっきりしないが、「捏造説」は戦争に傾いている国家の行為に水を差す行為である。あえて、そんなことをする必要があるのか、という疑念もあったのかもしれない。

ナショナリズムを煽る、勇ましい戦争記事は売れる

歴史を振り返ってみれば、戦争を行うのは国家であっても、国民をその道に傾けたのは新聞社だった。日本が太平洋戦争に突き進んでいったのは、新聞社が嘘をつき続けた国家に協力したからだ。ナショナリズムを煽る、勇ましい戦争記事は売れるからだ。

戦争はいけないこと。そう誰もが分かっていながら、今も戦争は世界中で起こっている。そこで犠牲になるのは、政府高官ではなく、名もなき若者たちだ。映画では、政府声明に深く感じ入り、戦争に志願し、重度の障害を負って帰還する黒人の青年の姿も描いている。これこそが戦争の真実なのだ。

監督もキャストも一流どころなので、潤沢な製作規模の映画かと思いきや、そうでもないようだ。撮影は30日間というハリウッド作品としては短期間。ライナー監督自身がワシントン支局長という重要なキャラクターを演じているが、これも撮影寸前にギャラの問題でアレック・ボールドウィンが降板したためという。

『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』
3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
(C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

フェイク・ニュース氾濫の時代だからこそ、高まる記者の役割

映画は90分という短さで描いたため、表面をさらっているような印象を受けるが、描こうとしている内容は意義深い。イラク戦争時のナイト・リッダー社の記者たちの活躍は書籍化されておらず、映画のために構築された物語。モデルになった記者たちは脚本作りから現場での俳優へのアドバイスまで全面バックアップした。

今や誰もが情報を発信できるSNS時代。だが、そこにはデマも少なくない。また、自分の意に反する報道をフェイクニュースと断じる米大統領もいる。不確かな情報が氾濫する今だからこそ、真実を見抜く記者たちの役割は重要で、その責任は重い。同じ記者を職業にする者として襟を正された思いがした。

『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』
3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
(C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.



【関連ニュース】

今日の運勢

おひつじ座

全体運

ちょっとしたユーモアが幸運を招くカギ。まわりの人を笑わせて...もっと見る >