2019/02/04 06:30

「米宇宙計画が象徴したもの」ライアン・ゴズリング&デイミアン・チャゼル監督インタビュー

左から主演のライアン・ゴズリング、監督のデイミアン・チャゼル(写真:奥野和彦)

『セッション』(2014年)ではアカデミー賞3部門を、『ラ・ラ・ランド』(2016年)ではアカデミー賞6部門を獲得したデイミアン・チャゼル監督。『ラ・ラ・ランド』ではゴールデングローブ賞監督賞とアカデミー監督賞に、それぞれ史上最年少の32歳で輝いた。その彼が、『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングと再びタッグを組み、1969年の人類初の月面着陸を映画化した『ファースト・マン』(2月8日公開)。

アポロ11号の船長ニール・アームストロングの心の旅を軸に、IMAXの65mm、35mmや16mmカメラを駆使しながらリアルでドラマチックな映像とサウンドで観客を宇宙の旅へといざない、当時の米ソ宇宙開発競争を振り返る傑作だ。2019年度のオスカー有力候補とも言われる本作のプロモーションに来日した、ライアン・ゴズリングとデイミアン・チャゼル監督にインタビューを行った。 

『ファースト・マン』ライアン・ゴズリングxデイミアン・チャゼル監督

世間が知らないニール・アームストロングの素顔

―本作は、『ラ・ラ・ランド』よりも先に企画されて、リサーチと構想に莫大な歳月が注ぎこまれたと聞いています。ニール・アームストロングの家族や実際に一緒に働いた人たちと会って入念に準備したそうですが、彼はどんな人物だったんですか?

ライアン:映画で描かれるニールは、非常に優秀で、感情をあまり人に見せないようなところもありますが、実はかなりおもしろい人物だったそうです。「Google人間」ってニールの家族が呼ぶぐらい(笑)。とにかく物知りで、例えば、イタリアの美術館へ皆で行った時もツアーガイドの代わりに美術館を案内できたそうです。映画には直接盛り込めないようなエピソードを教えてもらったことも、ニールという人物を語る上で大切でした。

―月へ出発する前夜に、ニールが息子たちと話すシーンには涙が止まりませんでした。あのシーンについてニールの息子さんたちはなにか感想を言っていましたか?

チャゼル監督:あのシーンは彼らの思い出から作ったものなんですよ。あの夜の思い出は彼らに強烈に残っていて、その話からこの物語が発展していきました。彼らは台本も読み撮影にも来て、制作過程の最初から最後まで本当によくサポートしてくれたんです。ニールの家族が、あのシーンも含めこの映画を気に入ってくれことは本当に嬉しかったですね。

ライアン:そうそう、ニールの家族に感動してもらえたことが、僕にとってはなによりの成功。正直ホッとしました(笑)。

『ファースト・マン』ライアン・ゴズリング アームストロング

『ファースト・マン』より(C)Universal Pictures

―感情をあまり見せないニール・アームストロングのキャラクターから、人間らしさを引き出すのは難しかったのでは?

ライアン:ニールは朝鮮戦争を経験し、非常に愛国心が高く国のために身を捧げた人物です。そういった、世間がニールにもつ印象を絶対に壊さないようにしつつ、彼の心の奥に秘められた感情性を表現しなければいけなかった。彼の家族や友人の助けがあったからこそ実現できたと思っています。それに、観客が彼の心に触れられるように、ニールの心の内側に迫り繊細な感情の表れをカメラに映し出す……これが成功したのは、デイミアンの監督としての手腕でしょうね。

アナログなアプローチで撮影した理由

―本作は往年のクラシック映画のようでもあり、どこか戦争映画のようでもあります。

チャゼル監督:戦争映画もたくさん観ました。SF映画よりも、あの時代や家族を描いたドキュメンタリー映画や記録映像、テレンス・マリックやイングマール・ベルイマンの映画からインスピレーションを得たかな。宇宙に戦車が登場するとか、第二次世界大戦の宇宙版とか、そういったイメージが念頭にあったかもしれないですね。

『ファースト・マン』デイミアン・チャゼル監督

―発射時の点火や変化する空の様子など、宇宙船の窓から見える外の景色が臨場感たっぷりで、観ている方も本当に宇宙飛行士になった気分になりました。

チャゼル監督:宇宙船の窓の外を大きなLEDスクリーンで囲み、そこにプロジェクターで景色を実際に映し出たり、窓に向かって炎を起こしたりしました。なので、宇宙船の外の景色は合成映像じゃないんです。つまり、ライアンも観客も同じ景色を、宇宙船から見ていたわけです。宇宙船も本当に回転させたので、ライアンは演じる必要がなかったんじゃないかな(笑)。とにかく、できるだけリアリティを追求しようとしました。

ファースト・マン メイキング

『ファースト・マン』撮影風景(C)Universal Pictures

―CGの時代に、あえてそういったアナログなアプローチをとったのはなぜですか?

チャゼル監督:やはり、CGとリアルな映像とでは、観客もどこかに違いを感じると思うんですよね。どんなに優れたCGでも人工的な匂いがする。もちろん、CGも使いましたが、使ったCGの部分を16mmカメラで撮影して、最終的にはアナログ化しました。60年代のリアリティを感じてもらうために、こういった作業を重ねました。

―宇宙船を操縦するシーンも本当にリアルで、本当にドキドキハラハラしました。

ライアン:映画で描かれるミッションのシーンには、実際のミッションに関わった本物の技術者たちが撮影現場にいて、僕が間違った場所を触らないようにとイヤフォンを通してずっと指示してくれたんです。「違う違う、ライアン! そこは非常用の脱出ボタンだよ!」なんてね(笑)。あの宇宙船には何時間も閉じ込められて、思いっきり回転させられたけれど、あのシーンが一番楽しかったし、ラクだったかもしれない。ヘルメットを被って誰とも話さなくてよかったし(笑)。

ファースト・マン

『ファースト・マン』より(C)Universal Pictures

宇宙飛行士が直面した「矛盾する現実」

―命の危険もある厳しい訓練、家族が抱える問題、家族との別離など、宇宙飛行士を取り巻く過酷な現実を本作で初めて知りました。

ライアン:リサーチをしていくうちに、宇宙飛行士を取り巻く、矛盾というべき対立する2つの現実に気がつき、役者として、ひとりの父親として、とても惹き付けられました。それは、宇宙へ飛び立ち冒険するという現実と、家に帰りゴミを出さなきゃいけないという現実です(笑)。彼らが宇宙に行っている間も家族は地球に残され、人生は進んでいく。そういった宇宙飛行士が直面した“矛盾する現実”をバランスよく表現することも、チャレンジではありましたが、同時におもしろかったですね。

―宇宙飛行士を取り巻く“矛盾する現実”は、1960年代のアメリカ社会にも存在していましたよね。映画では、ヒッピー・ムーブメントや公民権運動に参加している人達が宇宙計画に抗議している様子も描かれています。

チャゼル監督:実を言うと、あの時代のアメリカ人は皆、宇宙計画を応援しているとばかり思っていたんです。ところが歴史を振り返るとそうじゃなかった。政府の宇宙計画に対して議論や反対が湧き上がっていました。人間が月へ行くことよりも優先すべき国の課題があるんじゃないかってね。事実、宇宙計画にかかる莫大な予算や宇宙飛行士の命のことを考えたら、起こるべくして起こった議論ですよね。こういった、今では歴史に埋もれてしまった部分にも光をあてたかったんです。

宇宙計画が象徴したもの

―確かに、宇宙計画はアメリカの希望や未来でもありましたが、同時に、ソ連との核戦争への脅威でもあり、だからこそ、米ソは競い合って宇宙計画に取り組んでいたのですよね。ニールは月面着陸について「人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」という有名な言葉を遺しましたが、なぜ彼は「アメリカにとっては」ではなく、「人類にとっては」と言ったのでしょう?

『ファースト・マン』ライアン・ゴズリング

ライアン:それについては、「ニールのことは全て知っています」なんてフリをしないで答えます(笑)。思うに彼は、大きな視野と小さな視野を同時にもてる人物だったんじゃないかな。政府の思惑は関係無しに、彼にはソ連とアメリカ両方の代表だという気持ちが根底にあった。だから、彼自身は愛国者であっても、「アメリカにとっては」ではなく「人類にとっては」と発言したのでは? これは、彼自身についてなにも語っていないようで、彼の人間性そのものを語っているような、本当に感慨深い言葉だと思う。

事実、彼は後世にたくさんの名言を遺していますが、そのほとんどは記者会見などで急に聞かれてとっさに答えたものなんです。それを考えると、ニールは本当に素晴らしい知性の持ち主だったんだなとつくづく思います。

論争を巻き起こした月面着陸のシーンについて

―本作がアメリカで上映されたときに、月面着陸の際にアメリカ国旗を地面に立てる場面が欠落していたのはおかしい、という論争が巻き起こったと聞きました。トランプ大統領に至っては「アメリカ国旗を立てるシーンがないなら、映画を観たくない」と言ったそうですが。

チャゼル監督:あらゆる批判は想定していたつもりでしたが、まさか国旗について論争が起こるとは思いもしませんでした! 地面に旗をハンマーで打ち込む場面がそれほど必要だとは思わなかった(笑)。月面にはためく国旗……というビジュアルで十分美しいと思っていたんですが(笑)。あの論争はしばらく私の頭から離れなかったし、興味深くもありました。ある意味、月面着陸がアメリカ人の心に今も強く響いているということを改めて知り、嬉しかったです。

『ファースト・マン』ライアン・ゴズリングxデイミアン・チャゼル監督

(取材・文:此花さくや/写真:奥野和彦)

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