2019/03/03 06:30

外はカラッ、中はジューシー!無性にフライドチキンが食べたくなる『グリーンブック』【映画の料理Vol.43】

文=金田裕美子/Avanti Press

先日発表されたアカデミー賞で見事、作品賞に輝いた『グリーンブック』。本命と言われていたアルフォンソ・キュアロン監督による半自伝的ドラマ『ROMA/ローマ』も素晴らしい作品ですが、私は密かにこの『グリーンブック』を応援しておりました(別におおっぴらでもいいんだけど)。人種問題を扱ったドラマにもかかわらず笑えて感動もさせてくれることや、本作で助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリがとにかく素敵、とか、理由はいろいろあるのですが、なんといっても出てくる食べ物がおいしそうなのです! 

トニー(左)とドン(右)の旅を描く『グリーンブック』 3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

『グリーンブック』は、黒人ピアニストとイタリア系運転手の南部への旅を描く、実話にもとづいたロードムービー。アメリカ南部の料理と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、フライドチキンです。この作品にも、道中で食べるファストフードとして、そしてパーティで出される料理として、フライドチキンが登場します。

というわけで、今回はアカデミー賞受賞記念! この南部風フライドチキンに挑戦します。そして本場のフライドチキンといえば、なんたって骨付き。ここはアメリカ風にどーんと鶏をまるごと1羽、さばいて使ってみようと思います。

フライドチキンは、
ドンじゃなくてもおいしーい!

『グリーンブック』はニューヨークのシーンから始まります。有名なナイトクラブ、コパカバーナの用心棒トニー(ヴィゴ・モーテンセン)は、店が改装のために休業するあいだ、クラシックピアニスト、ドクター・ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)のコンサートツアーに同行する運転手として雇われることになります。

1962年、南部では人種差別を合法とするジム・クロウ法がまだ残っていた時代。黒人であるドクがツアーで南部を回るには、トニーのような口八丁手八丁、腕っぷしも強いボディガードが必要だったのです。

アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたトニー役のヴィゴ・モーテンセン
『グリーンブック』 3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

ドンは幼少からロシアに留学し、ピアノだけでなく高い教育を受け、複数の博士号を持つエリート。若くしてコンサート・ピアニストとなり、ニューヨークのカーネギー・ホールの上にある高級アパートに住んでいます。

かたや、あまりガラのよろしくない下町ブロンクス育ちのトニーは、気はいいけれど、喧嘩っ早くて粗野で、いかにも無教養という感じ。「俺は黒人差別なんてしない」と言いつつ、自宅で黒人の修理工が使ったグラスをこっそり捨てたりしています。

ドン役のマハーシャラ・アリ(右)は助演男優賞候補に
『グリーンブック』 3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

白人用の店やホテルを使えない黒人のための旅行ガイド「グリーンブック」を手に、ふたりの旅が始まります。運転しながらべらべらしゃべりまくり、煙草を吸い、ファストフードを食べまくるトニーに後部座席のドンはうんざり。

ケンタッキー州に入るとトニーは「ケンタッキーでケンタッキーフライドチキン!」と大はしゃぎでバーレルを購入、「今までで一番うまいケンタッキーフライドチキンだ。やっぱりこっちのは新鮮なんだろうな」などと言って、運転しながら手づかみでばくばく食べています。

フライドチキンを食べてご機嫌になるふたり
『グリーンブック』 3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

「あんたも食べろ」とチキンを差し出されたドンは、「フライドチキンは一度も食べたことがない」と断ります。「嘘つけ、あんたたち(黒人)の大好物じゃないか」とトニーが言うと、「決めつけるな」とムッとします。

しつこく勧めるトニーにドンは「脂が落ちる」「食器がない」となおも抵抗しますが、「これは手で食べるもんだ」「投げるぞ」と無理やり押しつけられると、意外においしそうに、楽しそうに食べ始めます。残った骨は、トニーを真似て窓からポイッ。こんな下品な食べ方は、ドンにとって初めてのことだったでありましょう。

ドンは、妻に手紙を書くトニーに助言までしてくれるように
『グリーンブック』 3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

トニーはドンの演奏を聴いてその才能に感銘を受け、ドンも面倒ごとを素早く処理してくれるトニーを次第に信頼するようになって、ふたりの間に友情が芽生え始めます。その一方、ディープサウス(最南部)に向かうにつれてひどくなっていく人種差別。同じホテルに泊まれないのはもちろん、ドンはゲストとして招かれた屋敷ですら室内のバスルームを使わせてもらえません。

上流階級のホストが「歓迎の料理」としてフライドチキンを山のように用意しているのも、なんだか屈辱的です。やがて、南部のなかでも特に人種差別が激しいとされるアラバマ州(異人種間の結婚を禁じる法律が2000年まで残っていた!)のバーミンガムで、ふたりはまたもや問題に直面するのですが……。

車の中でフライドチキンを食べるシーンは楽しげですが、二度目に登場するお屋敷のフライドチキンはなんか嫌な感じ。とはいえフライドチキンに罪はありません。実際、おいしそうではあるのです。というわけで、南部風フライドチキンを作ります。

鶏をまるまる1羽ってどこで手に入れるんだ?

KFCやアメリカで食べるフライドチキンは、モモや手羽だけでなくムネ肉も骨付きです。ぜひともこれを作りたい。あちらのスーパーには、鶏1羽を解体したフライドチキン用パックが売られていたりしますが、日本では見たことがないので、自分で解体してみることにしました。

まず鶏専門店に行って、「鶏を1羽、まるごと欲しいんですけど」と告げると、「はいよっ」と威勢のいいお兄さんが、頭と足のついた(トサカも)、羽をむしっただけの鶏の首をむんずとつかんで現れました。鶏の安らかなお顔を拝見して「ひー」とたじろぐ私(安らかじゃなかったらもっと怖いけど)。「頭と足は落としますか?」「お、お願いします」。こうして1.5キロほどの鶏を購入して参りました。

あられもないお姿……

フライドチキンの付け合わせは、お屋敷で出されていた茹でとうもろこしと、トニーも好きだと言っていたカラードグリーン、通称グリーンという野菜。

グリーンは南部のソウルフードの代表格として知られていますが、日本に住む私たちにはまったくなじみがありません。調べてみると、ケールやブロッコリーの親戚らしい。南米食材屋さんで買えるという噂を聞きつけ、それらしきものを買ってきました……が、ケールにも葉がまっすぐなものやフリル状のものなど種類がたくさんあり、これが本当にケールでなくグリーンなのか、判別がつきません(わかる方、教えてください)。

グリーン? ケール?

ま、当たらずとも遠からずであろう、ということでこれを使います。

フライドチキン作ってみます!

さて解体。「鶏をさばく」というと、ナタみたいな恐ろしい包丁が必要なのでは、と思ってしまいますが、普段使っている包丁で全然オッケー。解体にはさまざまなやり方がある上に、言葉だとなかなか説明が難しいのですが……。

ぼんじり

まず、ぼんじりを落とします。次に両側モモの付け根の皮に切れ目を入れ、モモを手でぐっと外側に開くと骨が外れます。モモを引っ張りながら関節のまわりに包丁を入れれば、いとも簡単に切り離すことができます。脂の筋が関節の位置なので、これを目印にモモをふたつに切り分けます。

矢印の皮の部分に切れ目を入れて、ばきっ。骨の周りの筋などを切ります

手羽も、付け根の関節に沿って包丁を入れて切り離します。

手羽を切り離し、脂の筋に沿って包丁を入れて胸骨から首まで(いわゆる鶏ガラですね)を外し、
ひっくり返して背中から押します

胸骨は、脂の筋に沿って包丁を入れ(キッチンバサミを使うとやりやすい)、手でベキベキっと首まで外します。内側の骨の真ん中に切れ目を入れ、裏返して背中の側から押すと骨が左右に割れるので、真ん中に包丁を入れて切り離します。

モモも脂の筋の下が軟骨なので、ここに沿って包丁を入れれば楽に切れます

大きすぎるようなら、さらにこのムネを半分に。これで解体は完了。「鶏の解体なんて絶対無理!」と思いがちですが、関節の位置さえわかれば普通の包丁で難なく切り離せるし、実際、意外とあっけなくできてしまいました。

バラバラになってフライドチキンになるのを待つばかりの鶏

南部風フラドチキンには、当然ながら家それぞれの無数のレシピが存在しますが、調べてみると「まず鶏肉をバターミルクに漬け込む」というものが多い。またなじみのない材料が出てきてしまいました。

バターミルクとは、牛乳から発酵バターを作る際に出る残りの液体。酸味があり、そのまま飲んだり料理に使ったりするようですが、入手困難なので代用バターミルクを作ります。牛乳にレモン汁を加えてかき混ぜ、しばらく置いておくとトロッとしてきます。これが代用品。

牛乳にレモン汁を加えた代用バターミルク

ここに塩を加え、解体した鶏肉を入れ、1時間ほど(できればひと晩)漬け込みます。

皮にフォークで穴を開けておくと、味がしみ込みやすくなります

チキンの衣を作ります。KFCでは「11種類のハーブとスパイス」を使っているそうですが、その中身はトップ・シークレット。今回は小麦粉に塩とベーキングパウダーを入れ、ガーリックパウダー、ジンジャーパウダー、チリペッパー、レッドペッパー、黒こしょう、オールスパイス、パプリカ、タイム、コリアンダー、セージ、オレガノ、ナツメグと、KFCより1種類多い12種類を加えました。見つけたレシピの中にはシンプルに塩、こしょう、というものもあったので、ここはお好みで。

12種類のスパイスを加えてみました

鶏肉を漬け汁から取り出して水気を拭き、溶き卵に牛乳を加えたものにくぐらせ、先ほどのスパイス入り小麦粉をまんべんなくつけます。

大きな鍋に2センチほどサラダ油を入れて熱し、鶏肉を並べてふたをし、低温(130度くらい)で7、8分じっくり揚げます。上下をひっくり返してもう7、8分。最後に油の温度を上げ(170度くらい)、カラッときつね色に揚がれば出来上がり。

ふたを開ける時、水滴がたれると油がはねるので気をつけて!

子どもたちの嫌いなグリーンは栄養満点!

グリーンは洗って1センチ幅にカットします。フライパン(または鍋)にオリーブオイルとにんにくのみじん切りを入れ、1センチ幅に切ったベーコンと玉ねぎのみじん切りを炒め、グリーンを加えます。

全体に油がまわったらチキンストックを注いでふたをして煮込み、最後に塩、こしょうで味を整えます。アメリカのレシピでは「2時間煮込む」とか、かなり長時間煮込むように書いてあるのですが、本場のものはそんなに固い野菜なんでしょうか。私の買ったグリーン(らしき野菜)は30分もしないうちに十分やわらかくなりました。

鮮やかな緑だった野菜も、30分煮込むとどす黒い色に変身。この色のせいか青物野菜特有のクセのせいか、小説や映画に登場するグリーンは、人参やほうれんそうと並んで「子どもの嫌いな食べ物」として描かれることが多いようです。

NASAの宇宙計画で高度な計算を担当する黒人女性たちを描いた『ドリーム』(2016年)にも、「グリーンはいらない」と嫌がる子どもたちに両親が「栄養があるんだから食べなさい」と言ってお皿に盛るシーンがありました。

子どもに嫌われるのはこの色のせい?

それでは実食。フライドチキンは、外はカラッとして、中はとってもジューシーでやわらかい。これはバターミルクのおかげなんでしょうか。もう少しスパイスをきつめにしてパンチをきかせてもよかったかな、とも思いましたが、これはこれで優しいお味でおいしゅうございました。

グリーン(らしき野菜)は、特に青臭くもなく、普通においしい。クタクタに煮てあるので食べやすく、どんどん箸(フォーク?)が進みます。子どもたちに嫌われるのは、味よりもこの心の弾まない地味な色のせいかも、という気がしました。とにかく、鶏1羽を使った南部風フライドチキンは大成功でした。

『グリーンブック』には、フライドチキンのほかにも食べ物がたくさん登場します。トニーが参加する大食い競争のホットドッグ、大きな1枚をふたつ折りにしてベッドの上で食べるピザ、自宅で家族と食べるスパゲティ・ミートボール。クリスマスイブには、トニーの家に大勢の親戚が集まって、大きな鯛のお頭つきローストなどを食べていました。

あれ、クリスマスといえばターキーじゃないの? と思ったら、イタリアではイブには慎ましく魚料理を、当日には肉料理を食べることが多いんだそう。イタリア系のトニーの家でも、その習わしが守られていたんですね。

本題から外れたところでもいろいろ学ぶことができ、かつ気分よく映画館をあとにすることができる、心温まる作品でした。作品賞受賞はサプライズ、ともいわれているようですが、オスカーにふさわしい作品であることは間違いない、とわたくしが断言いたします。

トニー一家が食べるスパゲティ・ミートボールもおいしそうでした

《材料》
〈南部風フライドチキン〉鶏1羽、バターミルク(牛乳+レモンで代用)、卵、小麦粉、ベーキングパウダー、塩、ガーリックパウダー、ジンジャーパウダー、チリペッパー、レッドペッパー、黒こしょう、オールスパイス、パプリカ、タイム、コリアンダー、セージ、ナツメグ、揚げ油
〈カラードグリーン〉カラードグリーン、ベーコン、玉ねぎ、にんにく、オリーブオイル、チキンストック、塩、こしょう
〈茹でとうもろこし〉とうもろこし、塩
《映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具》
KFCのバーレル、エメラルドグリーンのキャデラック、ピアノ、タキシード、カティサーク、煙草、手紙、パワーストーン

今日の運勢

おひつじ座

全体運

忙しく走りまわるわりには、実りが少ないかも。余計なことには...もっと見る >