2019/02/15 06:30

アカデミー女優2人が奪い合う、“お気に入り”という名の権力

『女王陛下のお気に入り』2月15日(金)全国ロードショー
(C)2018 Twentieth Century Fox

文=村尾泰郎/Avanti Press

学校のクラスでも、職場でも、必ずトップに立つ者がいる。群れを率いるリーダーがいるのは動物の世界も同じこと。でも、リーダーの“お気に入り”が幅を利かせるのは、人間社会だけかもしれない。

ヴェネチア映画祭で銀獅子賞と女優賞を受賞し、アカデミー賞では最多ノミネートされた『女王陛下のお気に入り』(2月15日公開)は、大英帝国のトップ、女王のお気に入りの座をめぐって繰り広げられる女の闘いを描いた物語だ。

『女王陛下のお気に入り』2月15日(金)全国ロードショー
(C)2018 Twentieth Century Fox

女王・女官長・侍女の三角関係が、英国の政治に影響を

舞台は18世紀初頭のイギリスの宮廷。当時、イギリスはフランスと戦争中だったが、アン女王(オリヴィア・コールマン)は、政治のことはよくわからない。幼い頃から病弱で夫も子供も亡くした孤独なアンが頼りにしている“お気に入り”は、幼馴染みの女官長、サラ・チャーチル(レイチェル・ワイズ)だ。

『女王陛下のお気に入り』2月15日(金)全国ロードショー
(C)2018 Twentieth Century Fox

頭が切れるサラは、アンを巧みに操って宮廷で絶大な権力を握っていた。そんななか、サラの従姉妹だという若い娘、アビゲイル(エマ・ストーン)が宮廷に仕事を求めてやってくる。

アビゲイルの家は上流階級だったが、今では没落して一文無し。本来ならアビゲイルは“お嬢様”だが、家計を支えるために宮廷の下働きとして働くことに。馬のようにこきつかわれる屈辱的な日々。そんなある日、アン王女が痛風で苦しんでいることを知ったアビゲイルは、チャンスとばかりに薬草をつんできてアン王女に湿布する。

そして、薬草が効いたことを認められたアビゲイルは、下働きから女王の侍女に異例の昇格。アン王女に目をかけられるようになったアビゲイルを、サラは次第に煙たく思い始める。

『女王陛下のお気に入り』2月15日(金)全国ロードショー
(C)2018 Twentieth Century Fox

アン王女をめぐって、緊張感を高めていくアビゲイルとサラ。その三角関係は国の政治にも影響を与えていく。というのも、当時、イギリスの議会では、フランスとの戦争を続けたい政党、ホイッグ党と、お金がかかる戦争をやめたいトーリー党が全面対決中。サラは夫が支持するホイッグ党に肩入れして、アンに戦争を続けるように吹き込んでいた。

一方、サラ失脚を目論むトーリー党の議員、ハーリーはアビゲイルに目をつけ、サラと王女に関する情報を探り出せとプレッシャーをかけてくる。そんななか、アンとサラが幼馴染み以上の深い関係だという秘密を知ったアビゲイルは、どん底の生活から這い上がるために大勝負に打って出ることに──。

指名ナンバーワンを競う売れっ子ホステスのような争い

史実をもとにして作り上げたという本作。監督を務めたのは、ギリシャ出身の奇才、ヨルゴス・ラモンティスだ。

異常な父親のもとで家から一歩も出ずに育った子供たち(『籠の中の乙女』)、結婚相手がみつからないと動物に改造されてしまう社会(『ロブスター』)、恐ろしい呪いにかけられた家族(『聖なる鹿殺し』)など、これまでヨルゴスは、モルモットを使って実験するように、異様なシチュエーションのなかで展開する人間ドラマを描いてきた。今回は過去の作品に比べると設定はまともだが、毒気たっぷりの演出は変わらない。

この勝負、まず有利なのはサラ。なにしろ、アン王女とは幼馴染みで、美しくて気品に満ちたサラに王女は恋しているのだ。しかし、アビゲイルはハングリー精神を武器に、アン王女に気に入られようと捨て身で近づいていく。

サラが肉体的に王女を満足させていることを知ると、アビゲイルはそれ以上の“サービス”で王女を喜ばせて気を引いたりと、指名ナンバーワンを競う高級クラブの売れっ子ホステスのように2人の闘いは加熱。闘いのなかで女性たちは本性を剥き出しにする。

そして、話が進むにつれ、3人の女性たちは様々な表情を見せ、人間関係は複雑に変化。それぞれ、一筋縄ではいかないキャラクターが実に魅力的だ。

『女王陛下のお気に入り』2月15日(金)全国ロードショー
(C)2018 Twentieth Century Fox

主要登場人物3人がアカデミー主演女優賞、助演女優賞に揃ってノミネート

それだけに、本作は女優の火花散る共演が大きな見どころ。アカデミー賞では、エマとレイチェルが助演女優賞。オリヴィアが主演女優賞にノミネートされているのだ。

したたかで小悪魔的なエマ・ストーンと、凛とした威厳を放つレイチェル・ワイズ。ヨルゴスはそれぞれの女優の美しさを引き立てる一方で、エマを馬糞と泥でぬかるんだ地面に突き落とし、レイチェルを馬に引きずらせてボロボロにしたりと容赦ない。

泥まみれ、傷まみれになって戦う二人だからこそ面白い、そして、二人に翻弄されているようで、実はいちばん手に負えないアン王女を演じたオリヴィアの怪演ぶりも見逃せない。

また、舞台となる宮廷の美術や、ゴージャスな衣装も本作の見どころだ。映画では17世紀に建てられた屋敷を使い、人工的な照明を使わず自然光で撮影。あえて18世紀という時代考証にこだわらずに揃えた衣装や美術が、妖しくも退廃的な美しさを醸し出している。

その一方で、役者の演技や演出には時代劇の堅苦しさはなく、現代的で軽やかな語り口は、ソフィア・コッポラ監督作『マリー・アントワネット』に通じるところもある。

『女王陛下のお気に入り』2月15日(金)全国ロードショー
(C)2018 Twentieth Century Fox

友情や恋愛関係にも潜む権力、そこに向けられた容赦ない視線

最後にアン王女のお気に入りに選ばれるのは、サラかアビゲイルか。嫉妬、不安、欲望が渦巻くなかで、女性たちが繰り広げる駆け引きは政治そのもの。人間が二人いれば権力が生まれる。組織だけではなく、友情や恋愛関係にも権力が隠れている。そして、そんな人間関係における小さな政治が、国の政治に影響するという危うさは今の時代も変わらない。

〈お気に入り〉というぬくぬくした権力の座をめぐって戦う女性たちを通じて、人間の本性を描いた本作。そこには、人間なんてこんなもの、という醒めた視線と、だからこそ面白い、という意地悪な喜びあって、クスクス笑いながら、ふと我に返らずにはいられない作品だ。

『女王陛下のお気に入り』2月15日(金)全国ロードショー
(C)2018 Twentieth Century Fox

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