2019/02/24 11:00

岩合光昭が挑む“猫映画”にはナゼ「人の幸せ」が重なるのか

『ねことじいちゃん』 2月22日(金)全国ロードショー(配給:クロックワークス)
(c) 2018「ねことじいちゃん」製作委員会

文=阿部美香/Avanti Press

日本を代表する動物写真家・岩合光昭。その名前を聞いて、2012年からNHK-BSプレミアムで放送中の人気ネイチャードキュメンタリー番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」を思い出す人は少なくないだろう。世界中を訪れ、人とともに暮らす猫のナチュラルな姿を、愛らしい写真と美しい映像に収め続けてきた岩合光昭が、初めてフィクションのヒューマンドラマでメガホンを取った。それが、2月22日(=猫の日!)に公開される映画『ねことじいちゃん』だ。

『ねことじいちゃん』2月22日(金)全国ロードショー(配給:クロックワークス)
(c) 2018「ねことじいちゃん」製作委員会

猫の動きに合わせてカメラを動す岩合流

原作は、妻に先立たれてしまった大吉じいさんが、愛猫タマのしもべのように暮らす日常をユーモラスに描いた、“ねこまき”の同名人気コミック。俳優初挑戦となる落語家・立川志の輔が大吉を演じ、柴咲コウ、小林薫、田中裕子、柄本佑、銀粉蝶、山中崇、葉山奨之といった豪華実力派陣が、じーんと心に浸みるハートフルな人間ドラマに鮮やかな彩りを添えている。

『ねことじいちゃん』2月22日(金)全国ロードショー(配給:クロックワークス)
(c) 2018「ねことじいちゃん」製作委員会

さらに見どころなのは、動物撮影のプロフェッショナル・岩合光昭監督の愛情とリスペクトがあふれた猫への視線だ。

約2年前、『岩合光昭の世界ネコ歩き』の撮影について、岩合さん本人にインタビューしたことがある。そこで最も印象的だったのは、“猫様次第”という言葉だった。撮影者は、対象を前にすると「こんなイメージの画を撮りたい」と力んでしまうが、それだと猫でいい画は絶対に撮れない。

撮影者は、猫の動きに合わせてカメラを動かすのが基本。猫1匹、1匹ごとに顔を見て、声を掛けながら「この子は近づいても大丈夫」「あの子とは少し距離を置かなければいけない」と、想いを察しながら向き合うのだという。猫のみならず、ライオンやホッキョクグマなど獰猛な野生動物の撮影を長年手がけてきた岩合光昭だからこその、重みのある言葉だ。

『ねことじいちゃん』2月22日(金)全国ロードショー(配給:クロックワークス)
(c) 2018「ねことじいちゃん」製作委員会

すべてのシーンに息づく“猫様次第”というポリシー

岩合監督ディレクションによる『ねことじいちゃん』での猫撮影にも、そのポリシーが息づいていることは、彼らの登場シーンひとつひとつからナチュラルに立ち上ってくる(撮影監督は1984年生まれ、ブルックリン大学映画学部を卒業した新鋭、石垣求)。

この映画のもう1人の主人公といえるタマ役に抜擢されたのは、キジトラ柄の雄のアメリカンショートヘア「ベーコン」。原作よりもかなり若い猫なのだが、100匹以上の猫をオーディションした岩合監督が、年齢にそぐわない堂々とした物腰が気に入り、抜擢したという。

ほかにも、銀粉蝶演じるサチの愛猫ミーちゃん役「小梅」など多数の名脇役たちのナチュラルな行動、仕草、さりげない猫の日常風景には、愛猫家ならずとも目尻が下がる。さらに「岩合光昭の世界ネコ歩き」ファンは、タマが町を徘徊するローアングルのロングショットひとつにも、“猫様次第”の岩合光昭らしさを、しっかり感じられることだろう。

港で漁師達が魚を仕分けし終えた箱にぴょんと飛び乗り、小魚をつんつんと前足でつつき回す猫。スルスルと木を登ったものの、降りるときはおっかなびっくりな猫。人家の裏庭で身を寄せ合い、小さな声で鳴きあいながら“猫の集会”を開いている猫たち。素朴な花が咲く草むらを伸びやかな体躯を弾けさせながら飛ぶように駆け、港の小高い堤防や重い瓦屋根の上を、気高き王族のようにスタスタと歩いていく猫──。

『ねことじいちゃん』2月22日(金)全国ロードショー(配給:クロックワークス)
(c) 2018「ねことじいちゃん」製作委員会

ただ、そこにいるという本当の優しさ

あらゆる猫の姿は、スクリーンをそのまま島の風景に変える。登場人物たちのドラマに挿入される、タマと想いを寄せるミーちゃんとの可愛いらしいラブストーリー。あるいは、仲間猫たちの触れ合いエピソード。それらを追うことで観客はごく自然に、自分もまた、猫と人がともに在るこの島の住民の1人になったような気持ちにさせてもらえる。

猫は人の言葉を話さない。猫はただ人々の日常で、勝手気ままな顔をしながらも、気づかれぬようそっと人の心を察し、寄り添ってくれる存在だ。そして、人もまた猫と同じなのだと本作は気づかせてくれる。

たとえば、夫を亡くし偏屈さをこじらせるたみこ(田根楽子)と、ケンカをしながらも古くからの女友達に何かと世話を焼くトメさん(小林トシ江)。独り身となった幼馴染みの初恋の相手・サチ(銀粉蝶)と、彼女に思いを告げぬままに、ひそやかにサチを支え続ける武骨な漁師の巌(小林薫)。

『ねことじいちゃん』2月22日(金)全国ロードショー(配給:クロックワークス)
(c) 2018「ねことじいちゃん」製作委員会

実家を離れ、遠い東京で独りになった父親を心配する大吉の息子(山中崇)と、老いが迫る不安が頭によぎり出す大吉(立川志の輔)。何か深い事情があって東京から島に移り住んだらしい美智子(柴咲コウ)を、理由を問うことなく受け入れていく島のみんな──。

彼らはけっして、はっきり言葉で想いを打ち明け合うことはしない。ズケズケと心の中に入り込むことが、本当の優しさではないと知っているからだ。

『ねことじいちゃん』2月22日(金)全国ロードショー(配給:クロックワークス)
(c) 2018「ねことじいちゃん」製作委員会

猫が幸せに暮らせる街は、人も幸せに暮らせる

岩合さんへのインタビューで、もうひとつ印象に残ったことがある。「人がいるところには必ず猫がいる。猫が幸せに暮らせる街は、人も幸せに暮らせるんです」という言葉だ。それは丸ごと、本作の世界に重なる。

幸せに暮らすとはどういうことか。人生の豊かさとは何か。岩合監督が、愛情を込めて描いた猫と人の物語は、そんなことも考えさせてくれる。

『ねことじいちゃん』2月22日(金)全国ロードショー(配給:クロックワークス)
(c) 2018「ねことじいちゃん」製作委員会

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