2019/02/09 17:00

ニール・アームストロングの息子が語る「月面着陸の裏側」

マーク・アームストロング

月面着陸から50周年のアニバーサリーイヤーとなる今年、2019年に公開されるデイミアン・チャゼル監督の『ファースト・マン』(2月8日より全国公開)。人類初の月面着陸を成し遂げたニール・アームストロングを始めとする宇宙飛行士たちやNASA職員の偉業と、アームストロングの家族の絆を描いた物語です。

『ラ・ラ・ランド』(2016年)でチャゼル監督とタッグを組んだライアン・ゴズリングがニールを、ただ今公開中の『蜘蛛の巣を払う女』でリスベット役を演じるクレア・フォイがニールの妻ジャネットを演じ、来る米アカデミー賞では録音賞、音響編集賞、視覚効果賞、美術賞の4部門にてノミネートされている超話題作です。

このたび、映画のプロモーションで来日したニール・アームストロングの実の息子、マーク・アームストロングにインタビューを行いました。

ファースト・マン マーク・アームストロング インタビュー 息子

正確性にこだわった物語

―最初に映画化の話が出たときに、マークさんやご家族はどう思いました?

まず頭に浮かんだことは、「彼らは正確に映画を作ってくれるか?」ということでした。必要以上にドラマチックに映画化されるのが心配でしたが、製作陣が正確性を非常に重要視していることがよく分かりました。だから私も息子として、このプロジェクトにできるだけ関わろうと決心したんです。

映画の元となったジェイムズ・R・ハンセンの原作『ファースト・マン』は、私の父が関わった唯一の伝記なのでとても正確に綴られていますが、チャゼル監督はそこに“家族”の物語を加えました。

映画には危険な宇宙飛行や訓練、宇宙飛行士や家族の悲劇など劇的なシーンが多く、癒しのシーンがあまりないですよね。だから、チャゼル監督や脚本家は家族の物語を入れたかったのではないでしょうか。

ファースト・マン

『ファースト・マン』より、ライアン・ゴズリングが演じたニール・アームストロング
(C)Universal Pictures

知られざるニール・アームストロングの人間像

―映画が描くお父様の人間像についてどう思いますか?

これまで様々なメディアで父は、“感情を見せない、とっつきづらい人間”として描かれてきましたが、本当の父はとても愉快で人間味のある人物でした。ひょっとしたら、父がインタビューをあまり受けなかったので、冷たい人間のようなイメージが出来上がったのかもしれませんね。

1週間に10本ものインタビューや、1日1万通もの手紙が父やNASAの元には殺到していたと聞いています。一部のインタビューを受けると不公平になってしまうので、父はインタビューを断っていました。それで罪悪感を感じることがあったみたいですが、しょうがないですよね。

―お父様は小さなころから読書家で、「Google人間」と呼ばれるぐらい大変な物知りだったそうですね。

小学校1年生のときには1年間に91冊もの本を読んだそうです。なぜそれを知っているかというと、父の持ち物からある読書カードが出てきたんですよ。どうやら、当時の担任の先生が10冊読むたびに小さな星のシールをカードに貼っていたようで、9つの星のシールの側に91という数字が書かれてありました。父は生涯に渡りあらゆるジャンルの本を読んでいましたね。7歳のときには飛び級で3年生になるほど優秀でした。

―非常に優秀だっただけではなく、小さな頃から働き者だったと聞きました。

学生パイロットの資格を取るために、10歳のころから空港の芝刈りをしたり、パン屋や雑貨屋でアルバイトをしたり、小さな頃からずっと働いていました。

ファースト・マン マーク・アームストロング インタビュー 秘話

―マークさんやお兄様はどんなふうに制作に関わったのですか?

製作陣は私や兄が語る家族の思い出話を聞き、それを脚本に加えていき、ストーリーを深く掘り下げていきました。あとは、父と一緒に働いていたNASAの人たちや友人たちを製作陣に紹介しました。

父の同僚たちはいまでも私たちにとって、家族のような存在です。NASAを去った後も宇宙飛行士の家族たちが連絡を取り続けられるよう、私の母と別の宇宙飛行士の妻は一緒に『KIT(Keep In Touch :“連絡を取り合う”という意味)』というグループを作り、いまでも家族付き合いをしています。

―1年前にお母様が亡くなられたと聞きましたが、お母様はどんな方だったのでしょう?

母は、私たち“家族の安定”を保つ唯一無二の存在で、クレア・フォイが演じた母のキャラクターは本物そのものでしたね! 母は映画が出来上がる前に亡くなってしまいましたが、脚本を読んで感想を脚本家に伝え、それが脚本に反映されました。

―本作は感動するストーリーですが、たくさんの悲劇も描かれています。この映画の制作に携わるのは辛くはなかったですか?

映画制作よりも、母の死が辛かったですね。映画公開前に母が亡くなってしまったことで、私にとって本作はよりエモーショナルでパーソナルなものになりましたが、それ以上に、世間が母のことを知ってくれる機会になり、母の死の哀しみを癒してくれたような気がします。

40万人もの人々が関わった月面着陸

―月へ旅立つ日の前夜に、お父様がマークさんとお兄様と一緒にテーブルに座って話をするシーンには、胸が締め付けられました。あのエピソードは実際に起こったことなのですか?

あのシーンはチャゼル監督に最初に話した思い出で、実に正確に描かれています。もちろん、ダイニングテーブルでいつも食事を取ったり、宿題をしたりしていましたが、あそこで家族の話し合いをするというシチュエーションは初めてだったので、私も兄もよく覚えているんです。

―あの時、ひょっとしたら地球に帰って来られないかもと心配しましたか?

父は「50/50の確率で月面着陸に成功する」とは言っていましたが、「地球に帰って来られないかも」とは一言も言わなかったので、私と兄はまったく心配していませんでした。絶対に地球に帰って来られる自信が、父には本当にあったんです! とは言え、母は生きた心地もしないぐらい怖かったと思います……。父も母も、宇宙飛行の危険性を我々子供たちにずっと隠していたので、宇宙飛行士が危険な仕事だとはこれっぽっちも思っていなかったんですよ。

ファースト・マンTP3

『ファースト・マン』より(C)Universal Pictures

―お父様が月面を歩くのをテレビで見てどんな気持ちがしましたか?

もちろん興奮していましたが、それが歴史的偉業だとは6歳の当時は気づいていませんでしたね。年をとるにつれて段々と理解していきましたが、それも“父の偉業”ではなく、“チームの偉業”として捉えています。

なんと言っても40万人もの人々が月面着陸に向けて心血を注いで働いたんですよ! 父だけが偉大だったのではなく、彼ら全員が同等の評価に値します。確かに私の父はしょっちゅう家にいなかったので、寂しい思いもしましたが、ほかの40万人の家庭もまったく同じ状況だったので、特に不満はありませんでしたね。

―月面着陸の成功は、マークさんの家族にどんな影響を及ぼしたのでしょうか?

月面着陸の後、父はセレブのような存在になり、父も母も私たち子供に悪影響があると思い、ワシントンDCへ引っ越しました。そこで父はNASA関係の仕事に従事しましたが、エンジニア出身の父には職場の政治的な環境が合わなかったようで、結局、オハイオ州のシンシナティ大学で教鞭を取ることを選びました。オハイオ州は父が生まれ、飛行機に乗ることを覚えた故郷でもあったので、ある意味、ルーツに戻った感じかな。父は若い人たちに教えることが大好きでした。

―マークさんも宇宙飛行士になろうと思ったことはありますか?

実は宇宙飛行士になるつもりでいましたが、大学に通っていたころ、ちょうどマッキントッシュが出てきて、コンピューターにハマってしまい、そのままソフトウェアエンジニアになりました。分野は違うけどエンジニアの父の遺伝子がやはり入っているのでしょう(笑)。

―マークさんは本作にカメオ出演しているとお聞きしました。

そうそう、ポール・ヘイニーという実在の役を演じさせてもらいましたよ(笑)。ポールはアポロ11号とコンタクトをとり、いまなにが起こっているかを説明する地上管制管で、彼の声がテレビやラジオでそのまま流されました。当初は、ほかの役のオーディションを受けたのですが、その役が映画から消えてしまったので、チャゼル監督が親切にもポールの役を私に振ってくれたんですよ。

―最後に、トランプ大統領さえも言及した、「アメリカ国旗を地面に立てるシーンがないのはおかしい」という論争についてどう思いますか?

あの論争はまだ映画が公開される前に起こったんですよ! 映画を観てもいない人たちが騒ぎ立てていたように思います。映画を観れば分かることですが、この物語はアンチ・アメリカでも歴史を変えようとしているわけでもない。結局、あの論争も映画が公開されるとすぐに立ち消えてしまいましたがね(笑)。

ファースト・マン マーク・アームストロング インタビュー

(取材・文/此花さくや)

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