2019/02/21 06:30

アカデミー賞、まさかの落選も…ブラッドリー・クーパーが得た“それ以上”

アカデミー賞ノミニ―昼食会で、左からブラッドリー・クーパー、ラメル・ロス、レディー・ガガ、 ケヴィン・ファイギに、是枝裕和も! Photo by Kyusung Gong /(c)A.M.P.A.S.
 
【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯24】
「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

アカデミー賞をはじめとする主要アワードのノミネーション発表後の風物詩となっているのが、米メディアや批評家たちが綴る“Snubs and Surprises(まさかの落選&驚きの当選)”記事。例年、ノミネートが有力視されていながら候補落ちした人や作品、逆に、予想を覆して当選した人や作品をリストアップして、ノミネート結果を分析するものだ。

特にオスカーにおいては近年、このリストが投票者の偏った属性を浮き彫りにし、アカデミー協会が会員の人種や国籍、性別の多様化に向けて、急ピッチで数百人規模の新メンバーを招待する流れにもなっている。

こうしたなか、今年1月のオスカー・ノミネーションにおける最大のSnub(まさかの落選)となったのが、『アリー/ スター誕生』の監督、ブラッドリー・クーパーだ。監督デビュー作にして、ゴールデングローブ賞から放送映画批評家協会賞、英国アカデミー賞、米監督組合賞にいたるまで、主要アワードの監督賞にノミネートされてきたクーパー。ただひとつ、オスカーのノミネーションを逃した。

この落選の理由については、さまざまな分析がされているが、主に、俳優出身監督の呪縛、社会派メッセージが必須条件となっている時代性、長い賞レースの宿命の3つが挙げられそうだ(ノミネートされた5人の監督が素晴らしいことは言うまでもない)。

ホントにあるの?俳優出身監督の呪縛

俳優出身監督の呪縛という面では、複数のメディアが「クーパーがアフレック化された」という表現を用いている。

アフレックとは、2013年のアカデミー賞で作品賞に輝いた『アルゴ』の監督、ベン・アフレックのことだ。それまで主に俳優として活躍してきたアフレックは、監督3作目にしてオスカー作品を生み出すほどの手腕を見せたにもかかわらず、オスカーの監督賞にはノミネートすらされず、当時大きなSnubとして語られた。

主演男優賞候補としてアカデミー賞の昼食会に臨んだブラッドリー・クーパー Photo by Aaron Poole / (c)A.M.P.A.S.

アカデミー協会の監督部門は、俳優出身監督に手厳しいことで知られている。前述のアフレックに加え、『愛のイエントル』(1983年)のバーブラ・ストライサンドや『不屈の男 アンブロークン』(2014年)のアンジェリーナ・ジョリーが、この洗礼を受けたといわれている。

とはいえ、『普通の人々』(1980年)のロバート・レッドフォード、『ダンス・ウィズ・ウルヴズ』(1990年)のケビン・コスナー、『ブレイブハート』(1995年)のメル・ギブソンはオスカー受賞を果たしたため、クーパーにはジンクスにとらわれない今後を期待したい。

社会派メッセージが必須条件?

2つ目の理由である、社会派メッセージが必須条件となっている時代性とは、どういうことか? 米「バラエティ」紙の映画評論家オーウェン・グレイバーマンは、クーパーの落選を「オスカーの未来を占ううえで象徴的な出来事」と位置付け、アカデミー会員の多様化によって、人種差別問題や#MeTooムーブメント、政治模様などへのメッセージが、オスカー・ノミネートの必須条件となりつつあると綴っている。

『アリー/ スター誕生』上映中 (C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

確かに、アフリカ系アメリカ人スーパーヒーローの物語として歴史的な快挙を続ける『ブラックパンサー』をはじめ、人種差別問題をテーマとした『ブラック・クランズマン』や『グリーンブック』、階級問題や政治風刺が切り口の『ROMA/ローマ』や『バイス』、女性パワーがみなぎる『女王陛下のお気に入り』と、今年のノミネート作品には(そして、賞レースにおけるキャンペーンにおいても)社会派メッセージが前面に打ち出されている。

『アリー/ スター誕生』には、薬物依存やアルコール中毒、メンタルヘルスといった問題は描かれているものの、他の候補作品との比較のなかでは社会派要素が薄く感じられ、ラブストーリーの要素が際立っているというのだ。グレイバーマンは、「究極のロマンチック・ストーリーとして、大ヒットを生み出した作品」でも、「“単なる”ラブストーリー」と位置付けられてしまうオスカーの現状を指摘する。

長い賞レースを歩む宿命

長い賞レースの宿命というものもある。毎回、前年の秋口から始まる賞レースは、批評家たちが選ぶアワードから始まり、外国人記者たちが選ぶゴールデングローブ賞や一般ファンの人気投票アワードを経て、映画人たちが選ぶ組合賞に続き、最高峰のアカデミー賞を迎えることになる。

『アリー/ スター誕生』上映中 (C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

この長い道のりを歩むなか、他のアワードの結果や社会情勢、政治的発言など、あらゆる要素が投票者の感情に影響を与えることもある。当初、批評家から絶賛されていた『アリー/ スター誕生』は、そんな要素を受け、賞レースが進むにつれて思わぬ失速を見せた。前述のグレイバーマンは、その様子を「オスカー大本命から、オスカー有力作、オスカー候補作、オスカー圏内へと後退」と描写し、1ファンとしては胸が痛むと述べている。

ちなみに長編ドキュメンタリー映画部門でも、米人気司会者フレッド・ロジャースの伝記映画として、昨年の米国で話題となった『Won't You Be My Neighbor?』が予想外の落選となっている。これには「好感度が高い映画には、自分1人がサポートしなくても皆が投票するだろうという心理が働き、思わぬ落選につながる」といった分析もある。この指摘がクーパーにも該当するのかはわからないが、オスカーのノミネーションを獲得するためには、あらゆる要素を味方につけなければならないことがわかる。

とはいえ8部門のノミネート!

クーパーの監督賞落選の理由を綴ってきたものの、同作自体は、作品賞、主演男優賞(クーパー)、主演女優賞(レディー・ガガ)、助演男優賞(サム・エリオット)、撮影賞、歌曲賞、録音賞、脚色賞の8部門にノミネートされている。クーパーは、幼い頃に女優を夢見たガガから渾身の演技を引き出し、ミュージシャンとしての魅力を最大限に見せ、名優エリオットには、50年以上のキャリア初となるオスカー・ノミネーションをもたらした。アカデミー賞授賞式では、ガガとクーパーの歌う「シャロウ」が、会場および視聴者を魅了するだろう。

『アリー/ スター誕生』上映中 (C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ガガはクーパーの監督賞落選について、「ロサンゼルス・タイムズ」紙のインタビューでこう語った。「こればかりは何が起きるかわからないから。でも、私やすべてのキャストにとって、彼が最高の監督であることには変わりないし、彼もわかっている。彼は、私たちが皆ノミネートされ、作品自体も認められていることをうれしく思っているし、私たち皆、本当に本当に大喜びなのよ」。

同作プロデューサーのリネット・ハウエル・テイラーの言葉も深く響く。「昨年は映画界にとって素晴らしい1年で、珠玉の映画がたくさんあったので、監督部門は激戦区。でも、この映画に贈られた8つのノミネーションは、ブラッドリーの情熱とビジョン、飽くなき努力の賜物です。彼がいなければ、誰もノミネートされることはなかったのですから」。

『アリー/ スター誕生』上映中 (C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

筆者自身、約8年前に『スタア誕生』リメイク版の企画が報じられたときのことを、よく覚えている。当時、キャスト&スタッフ候補として、主役ビヨンセ、監督クリント・イーストウッド。その後、男性主役には、レオナルド・ディカプリオやウィル・スミス、クリスチャン・ベール、トム・クルーズ、ジョニー・デップらそうそうたる顔ぶれが噂され、クーパーに決定したと報じられた頃には、正直、本当に実現するのだろうか? と思ったもの。

さらにクーパーが監督も手がけることがわかると、どのような作品になるのか、期待と不安が入り混じった。そして昨年、ついにお披露目された完成作品。トレーラーだけで鳥肌が立ち、映画館で心が揺れた。業界中をわたり歩いた企画に、人気俳優が初メガホンで魂を込めた珠玉の作品。同映画に関わった人々はもちろん、映画業界、一般ファンまでが彼の落選を「今年1番のSnub」と叫び、8ノミネートに宿る彼の想いを讃える姿は、クーパーがアワードを逃したからこそ、得られたリワード(ご褒美)なのかもしれない。



【関連ニュース】

今日の運勢

おひつじ座

全体運

ちょっとしたユーモアが幸運を招くカギ。まわりの人を笑わせて...もっと見る >