2019/02/22 11:00

外国人監督の『サムライマラソン』は時代劇として面白いのか

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

『サムライマラソン』は、1855年の幕末期に行われた日本史上初のマラソン大会<安政遠足(あんせいとおあし)>を基にした土橋章宏の小説を佐藤健をはじめ豪華キャストで映画化した時代劇大作である。

……と、これだけなら普通だが、何とこの作品、監督がイギリス人のバーナード・ローズなのだ!

外国人が日本に招かれて日本映画を、しかも時代劇を撮るとはあまり例を見ないものがあるが、ではその出来は? それを問う前に、これまで外国人がいかに映画の中で日本を捉えてきたかを、ざっと検証していきたい。

サムライマラソン サブ1

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

これまで外国映画の中で描かれてきた日本

まず、「フジヤマゲイシャ」とは外国人が一昔前の日本のイメージを今のものとごっちゃにして捉えてしまう感覚を指す言葉である。

その語源は明治時代に、富士山や芸者の写真が世界中に流布されながら日本が紹介されたことから来ているそうだが、いずれにしても、外国人が日本を舞台にした映画を作るときも、この「フジヤマゲイシャ」的イメージを払拭しきれないものが絶対的に多い。

たとえば戦後10年経って『東京暗黒街・竹の家』(1955年)、『八月十五夜の茶屋』(1956年)、『サヨナラ』(1957年)、『黒船』(1958年)など日本を題材に異文化を強調するアメリカ映画がブームになった時期があるが、劇中の日本人はやたらとお辞儀をし、女性は絶対和服姿を披露する。家屋などの美術セットはアジアン・テイストで、「いや、日本人はそんなとこに住んでねーよ」と思わずツッコミを入れたくなるものばかり。

戦国時代の日本に漂着したウィリアム・アダムス=三浦按針をモデルにした海外テレビシリーズ『将軍 SHOGUN』(1980年)も日本人からすると首を傾げたくなる描写の連続ではあり、しかしそれが世界中でブームになったことも後々日本を誤解しがちな一因にはなったかもしれない。

もっとも映画として、それはそれでオシャレであったりすることも多々あり、後の『ブラック・レイン』(1989年)では舞台となる大阪がコテコテなまでにスタイリッシュな街“OSAKA”へと変貌した。

『007は二度死ぬ』(1967年)では現代を舞台に忍者が登場し、それは後々の海外ニンジャ映画ブームにも繋がっていく。『ハンテッド』(1995年)では新幹線の中で原田芳雄とニンジャが壮絶な殺陣を繰り広げるという、およそ日本人の発想にはないぶっ飛んだシーンが構築されていた。

また21世紀に入ると『ラストサムライ』(2003年)、『SAYURI』(2005年)、『47RONIN』(2013年)など、以前に比べればかなりまともになってきている感もあるが、それぞれの作品としての優劣はさておき、やはり「何かが違う……」。

もっともこういう感覚は日本に限らずどの国の映画でも海外を描く際、その国や地域の特徴を強調して異国情緒を高めようとする作り手の意思がもたらしてしまうようでもある。

その伝では篠田正浩監督の日本映画『沈黙 SILENCE』(1971年)とマーティン・スコセッシ監督のアメリカ映画『沈黙-サイレンス-』(2016年)、同じ遠藤周作の小説の映画化でもこうも雰囲気が変わるものかと驚くものはある。やはり後者のほうが、舞台が日本であることを巧まずして強調した作りになっているのだ。

サムライマラソン 森山未來

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

国の内外の別を越えてやはり映画は監督のもの

さて、ここまで並べてきた作品はすべて外国映画として見据えられてきた日本の姿だが、『サムライマラソン』は冒頭に記したように監督はイギリス人バーナード・ローズによる日本映画である。

ただし企画・プロデュースとして大島渚監督『戦場のメリークリスマス』(1983年)などで知られるジェレミー・トーマスが参加。彼は近年『十三人の刺客』(2010年)、『一命』(2011年)、『無限の住人』(2017年)といった三池崇史監督の時代劇映画にも関与しており、本作もそのラインから行き着いた企画ではあるのだろう。

もっとも脚本はローズ監督と斉藤ひろし、山岸きくみの連名、撮影スタッフも日本人で占められているので、完成した作品を観ても、従来の外国映画のようなフジヤマゲイシャ的違和感は少ない……のだが決して皆無ではないのがこの映画の面白さでもある。

サムライマラソン バーナード・ローズ

バーナード・ローズ監督『サムライマラソン』撮影風景より
(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

これまで『ペーパーハウス/霊少女』(1988年・日本未公開)や『キャンディマン』(1992年)でホラー・ファンの喝采を得たかと思うと、『不滅の恋/ベートーヴェン』(1994年)、『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』(2013年)といった作曲家の壮絶人生を露にしてきたバーナード・ローズ監督。

どのジャンルでも一貫して耽美な作風が特徴ではあり、それは『サムライマラソン』でも俄然健在だ。

しかも、やはりここでも異邦人として見据えた“日本”を強調している節は多々あり、撮影も美術も衣裳も日本人が担当しているのに、出来上がった映像はどこか日本映画らしからぬエキゾチックな情緒が高められているのだ。

「映画は監督のもの」とはよく聞く言葉だが、いかにスタッフが日本人で占められていても最終的には国の内外の別を越えた監督の意向や資質などが表に出て、通常の日本映画とは異なる魅力が醸し出されることを、本作は見事に証明してくれている。

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

また総じて本作は全体的に黒澤明監督の時代劇映画に倣った節も感じられる。クライマックスに登場する隠密衆の扮装などは『七人の侍』(1954年)の野武士を彷彿させる。竹中直人がユーモラスな慈愛をもって好演する隠居予定の老侍・栗田のモデルは『七人の侍』のリーダー勘兵衛(志村喬)のように思えてならない。

サムライマラソン 小松菜奈

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

アクティヴな行動が魅力的な雪姫(小松菜奈)だが(原作での登場はわずかで、監督が脚本で掘り下げたこだわりのキャラクター)、その役名は『隠し砦の三悪人』(1958年)のヒロイン(上原美佐)と同じものである。そういえば劇中、『隠し砦の三悪人』の音楽担当・佐藤勝が作曲した舞踏曲「火祭りの踊り」も流れる。

加えて衣裳担当が『乱』(1985年)のワダエミとくれば、本作が黒澤映画へのオマージュであることは一目瞭然であろう。

サムライマラソン

『サムライマラソン』(C)”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners

こうした要素に時代劇本来の面白さである壮絶な殺陣の数々を主演の佐藤健らが見事に体現し、彼の出世作でもある『るろうに剣心』シリーズ(2012~2014年)の撮影監督でもある石坂拓郎が見事にそのダイナミズムを映像に定着させている(つまり本作は、日本史上初のマラソン大会を背景に据えたチャンバラ映画でもあるのだ!)。

このように、異邦人の目で見据えて撮られた日本の時代劇映画、従来のものとは一味違った面白さをぜひ映画館で堪能していただきたい。

(文・増當竜也)



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