2019/02/20 19:30

『ぼくいこ』大森立嗣監督、映画作りは「スリリングな遊び」

大森立嗣監督(撮影:石井隼人)

宮川サトシによるエッセイ漫画を映画化した『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(2月22日公開)。ガンに侵された最愛の母親・明子(倍賞美津子)の最期の日々を、息子サトシ(安田顕)の目線から描く感動作だ。

ハードな作風を好んでしまう傾向にある

この内容に対して「お涙頂戴モノでしょ?」と鑑賞をスルーしそうになる斜に構えた映画好きを立ち止まらせるのは、メガフォンをとったのが『ゲルマニウムの夜』(2005年)、『ぼっちゃん』『さよなら渓谷』(2013年)、『光』(2017年)などのハード系映画で知られる大森立嗣監督という点。それにしても気になる。大森監督にとっては、故・樹木希林さんが出演したお茶映画『日日是好日』(2018年)に続いてのヒューマン路線である。その疑問を大森監督にぶつけてみた。

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
(C)宮川サトシ/新潮社(C)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

「監督として、確かにハードで暴力的な作風を好んでしまう傾向にある」という大森監督だが「その一方で『まほろ駅前多田便利軒』『セトウツミ』などのハード路線ではない作品を面白がってくれるプロデューサーもいる。そういった題材に対して自分の中の別の引き出しを開けたときに、自然とできてしまう自分もいる」とふり幅の広さを認める。

だが“職人監督”に徹する気はない。「恋だとか幸せな日常だとか、社会という枠組みの中で完結するようなものは描きたくない。今回の作品は見た目こそ柔らかいけれど、描かれるのは“死”という日常とは少しかけ離れたもの。日常からかけ離れたものという点では暴力も同じベクトルにある」と説明する。

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。 サブ7

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
(C)宮川サトシ/新潮社(C)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

ほぼ全員がスッポンポンになる

ほんわかした見た目とは裏腹に、迫りくる死に対して向き合わざるを得ない人々の無常観。自然の摂理とはいえ、死に対して人間はあまりにも無力だと痛感させられる。このリアリズム。いつまでたっても子供のままのサトシと、それをありのままに愛おしそうに受け入れる母・明子の情愛が胸を締め付ける……のだが、それまでのリアリズムを破壊するような非日常的瞬間が後半に待ち受ける。大森監督が書き加えた琵琶湖大絶叫シーンこそ、本作を単なる「お涙頂戴モノ」にしない象徴的場面だろう。

「この作品のテーマは、最愛の人の死をどうやって見届けるか、残された人はどうやって生きていくのかということ。だから琵琶湖のシーンは、3人の男(安田顕・村上淳・石橋蓮司)たちにとっての死を乗り越える儀式的場面として描写。村上淳が絶叫し、ほぼ全員がスッポンポンになる。静かなトーンの演出という選択肢もあるかもしれないが、自分としては男3人がバカになる姿を撮りたかった。脚本の段階から自然と激しいトーンになった」

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。 サブ4

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
(C)宮川サトシ/新潮社(C)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

大森監督の演出スタイルはファーストテイク優先。「一発本番という緊張感もいいし、ダラダラやるよりもキャスト・スタッフの士気も上がる。すると運も味方してくる」と実感を込める。ちなみに琵琶湖絶叫シーンの際に、画面に奥行きを与えるかのように横切るヨットは偶然の産物。大森監督は「運を掴んだ瞬間」と喜ぶが、運を掴むのも才能の一つである。

人の心に一生残る映画を作りたい

長編映画監督デビュー作『ゲルマニウムの夜』から14年。以来コンスタントに作品を発表しているが「自分が反応できるものに対して反応していきたいという気持ちは変わらない。小さく収まりたくないし、無理して映画界で食いつないでいこうとは考えていない。そもそも映画作りを仕事だとは一度も思ったことはない」と断言する。大森監督にとって映画作りとはすなわち「人生で一番ドキドキできるスリリングな遊び。だからこそルーティンにはしたくない。飽きちゃうから」と笑う。

初心に立ち返らせてくれるのは、ヴィターリー・カネフスキー監督の『動くな、死ね、甦れ!』(1990年)。無実の罪で8年間投獄されていた経歴を持つ当時54歳のカネフスキー監督による実質的デビュー作で、ソビエトにある炭鉱町・スーチャンを舞台にした激しくも美しい物語だ。「時を経ても生き生きとした新鮮味は映画の力として大事なもの。映画監督として大事なものを知りたいときに観直す作品。『この少年の顔を撮るために映画を作っているんだ』と初心を思い出させてくれる」という。

そんな大森監督の次回作は一転、ハード系の映画『タロウのバカ』だ。カネフスキー監督が『動くな、死ね、甦れ!』でストリートチルドレンのパーヴェル・ナザーロフを主人公にキャスティングしたのと同じように、演技未経験の15歳のモデルYOSHIを主演に据えた。「人の心に一生残る映画を作りたい。できるならば映画史に残るような一本を作りたい」と思いを明かす大森監督の遊びの時間は、まだまだ終わらない。

(取材・文/石井隼人)



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