2019/03/22 06:30

スパイク・リー作品にみる、アメリカの「人種差別」事情

『ブラック・クランズマン』/3月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開/配給:パルコ/(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

3月22日(金)に公開される『ブラック・クランズマン』は、ブラックムービーを代表するスパイク・リー監督の新作映画。昨年の第71回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞、先日発表された第91回アカデミー賞では計6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞、スパイク・リーが初のオスカーを手にするなど、公開前から話題になっている作品です。

ブラックムービーの旗手がタッグを組んだ!

スパイク・リーはブラックムービーの旗手として、1990年代に数々の作品をヒットさせた名監督。本作ではニューエイジ・ブラックムービーを代表する映画監督のジョーダン・ピールとタッグを組んでいます。 ブラックムービーの旗手たちが手掛けた本作で、主人公で黒人のロン・ストールワース刑事を演じるのはジョン・デヴィッド・ワシントン。スパイク・リーの代表作として知られる『マルコムX』(1992年)で映画デビューし、その主演を務めたデンゼル・ワシントンの息子といえば、ピンと来る方も少なくないでしょう。

さらに、同僚の白人刑事を『スター・ウォーズ』シリーズ新3部作のカイロ・レン役などで知られるアダム・ドライバーが演じ、2人1役で白人至上主義者の秘密結社「KKK」に潜入捜査を行う姿が、コメディータッチで描かれています。そこではスパイク・リー作品にふさわしく、現在のアメリカ社会で問題になっている人種差別問題が強烈に風刺されているのです。

トランプ政権下のアメリカにおける人種差別問題を風刺

ノンフィクション小説を映像化した同作は、アメリカで盛り上がった公民権運動が最盛期を迎えていた1970年代が舞台。ただ、そこには時代こそ違うものの、現在のトランプ政権下における人種差別問題を風刺していると思われる場面が多々見られるのです。

たとえば、トファー・グレイス演じるKKK最高幹部デビッド・デュークは、白人だけのためにあるアメリカという意味を込め、「アメリカ・ファースト」という人種差別的なセリフを口にします。……どこかで聞いたことのあるセリフですよね。

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さらに、人種差別主義者の知識人であるボーリガード博士を演じるのは、アメリカのテレビ番組「サタデーナイト・ライブ」でトランプ大統領を演じるアレック・ボールドウィン。作中では“人種隔離政策を非難することは我々白人への攻撃だ”といった趣旨のセリフを口にしますが、それも トランプ大統領の政策や発言を彷彿とさせます。

ちなみに、この映画がアメリカで公開されたのは2018年8月10日。その一年前の同じ日、同国ではアメリカの極右集会参加者とそれに抗議する反黒人差別団体らが対立。死者が出る事態となったシャーロッツビルの暴動事件が起きています。この暴動発生後、トランプ大統領が白人至上主義者を非難しなかったことが批判の的になりました。

スパイク・リーは映画の公開時、「ホワイトハウスにいる人物(トランプ大統領)こそがこの映画を観るべきだ」とインタビューで発言しています(※1)。カンヌ国際映画祭のプレスカンファレンス(※2)では、シャーロッツビル暴動時におけるトランプ大統領の「双方に責任がある」という発言など、一連の行動についてFワード(放送禁止用語)を使って強く批判しました。

※1:公開時のロイター通信のインタビュー
https://www.reuters.com/video/2018/08/09/director-spike-lee-wants-trump-to-watch?videoId=453085346
※2:カンヌ国際映画祭のプレスカンファレンス映像
https://youtu.be/gPlp4bDw8aU

アメリカの複雑な人種差別事情

『ブラック・クランズマン』で主人公のロンが最初に潜入するのは、黒人差別撤廃のためには過激な行動も厭わない集団です。彼らは対立する白人至上主義者とは対極的な思想の持ち主ですが、スパイク・リーはこの対立構造を通じて、人種差別問題の根深さを描いているように思えます。

『マルコムX』では黒人分離主義的な運動をよびかける団体、ネーション・オブ・イスラムにマルコムXが所属していた時、「白人は悪魔だ」といった白人の存在を否定する発言をしていた姿が描かれていました。こうした行き過ぎた主張は、白人たちが掲げる「アメリカ・ファースト」と本質的には同じではないかとの疑問を、本作は観客に投げかけているように思えるのです。

さらに、作中でロンは白人至上主義者のフリをして、イタリア系、アジア系、ユダヤ系も含めた多彩な人種に対する差別発言を口にします。これは、スパイク・リー監督作『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)で描かれていた“Do the right thing”――それぞれの人種が互いに自分たちにとっての“正しい事”をしようとするが故に起きる、黒人差別だけではない様々な差別感情に通じるといえるでしょう。

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実際に本作で潜入捜査をするのは、ロンの相棒でユダヤ系のフリップですが、KKKはユダヤ系も黒人と同じく差別しており、何度も命の危険にさらされます。多彩な人種を抱えるアメリカの人種差別問題は、複雑で根深いものであると考えさせられます。

警察による暴力と人種差別

『ドゥ・ザ・ライト・シング』のラジオ・ラヒーム殺害、『マルコムX』のロドニー・キングのリンチ事件など、スパイク・リー監督は複数の作品で警察は、人種差別意識のもとで黒人に不当に暴力を振るう存在として描かれてきました。『ジャングル・フィーバー』(1991年)では、黒人男性のフリッパーが白人女性の恋人アンジーを襲っていると白人警官に勘違いされ、あわや射殺されそうになる様子も描かれています。これらは、実際にアメリカで起きた暴力事件を想起させました。

ただ、本作の制作に参加しているジョーダン・ピール監督作で、現代のニューエイジブラックムービームーブメントを代表する『ゲット・アウト』(2017年)では、警察は人種差別をするだけでなく、それに対する“救い”の意味が込められた存在としても描かれていました。そして、白人が黒人に対して、潜在的な羨望を抱いている姿も。

そんなジョーダン・ピール監督とタッグを組んだ影響からか、『ブラック・クランズマン』は従来のスパイク・リー作品とは違い、“黒人ヒーローが悪の白人至上主義者の野望を砕く”という1970年代の黒人向けの娯楽映画、いわゆるブラックスプロイテーションを思わせる設定になっています。

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黒人ヒーローが活躍する『ブラックパンサー』(2018年)の大ヒットにみるように、近年では“多様性を重視すべき”という声が広がりつつあります。その一方で、警察による黒人への差別、暴力といった事件はいまだに根強く存在していますが、ベテランブラックムービー監督のスパイク・リーは、主人公の黒人刑事ロンを通じてどのような警察像を描くのでしょうか。

(文/Jun Fukunaga@H14)



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