2019/03/10 06:30

監督が語る、島本須美の予告が印象的な『たちあがる女』が描く自由

(C)2018-Slot Machine-Gulldrengurinn-Solar Media Entertainment-Ukrainian State Film Agency-Köggull Filmworks-Vintage Pictures

日本版予告のナレーションを『風の谷のナウシカ』(1984年)のナウシカの声優である島本須美が担当していることもあり、ヒロインが弓矢で電線を射る勇ましい姿がどことなく現代版「ナウシカ」を連想させる『たちあがる女』(3月9日より公開)。

メガホンをとったのは、処女長編作『馬々と人間たち』(2013年)で、いきなり世界各国の映画祭で20以上もの賞を獲得し、アキ・カウリスマキやロイ・アンダーソンにつづく北欧の才能と目されている、ベネディクト・エルリングソン監督だ。

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コーラス講師の裏の顔は「過激な環境活動家」!?

物語の主人公は、表向きは爽やかなコーラス講師だが、実は裏では「過激な環境活動家」でもあるという、いさましき双子の妹・ハットラ。長年独身を貫いてきた彼女が、養子を迎えて母親になる決意をしたことから巻き起こる大騒動が、驚きの演出とともにユーモアたっぷりに綴られていく。

この愛すべきユニークな作品に「言葉では言い表せない興奮」を与えられ、「これは私たちの時代を代弁する作品だ」とまで言い切った人物がいる。

その人こそ、いまやハリウッドを代表するインテリ映画人ともいうべき、ジョディ・フォスターだ。すでにフォスター自身の監督・主演でハリウッド・リメイクも決定しており、いったいこの作品がフォスターの手でどんなアレンジを加えられるのか、興味津々だという人も少なくないだろう。

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なかでも気になるのが、『たちあがる女』においては、ウクライナの民族衣裳に身を包んだ合唱隊やブラスバンドが、ハットラの後ろや横に現れて、突如として音楽を演奏したり歌い出したりするという、ちょっと変わった演出があることだ。

果たしてベネディクト・エルリングソン監督本人は、ハリウッド・リメイクについてどう感じているのか。スカイプインタビューで監督に直接訊ねてみたところ、過去に日本を訪れた際の印象や本作誕生の裏話を交えながら、非常に興味深い話を次々と披露してくれた。

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「笑い」はシリアスなことを伝える上で起きる「副作用」

2014年の東京国際映画祭で日本を訪れたんだけど、僕にとっては忘れがたい素晴らしい思い出なんだ。まるで宇宙船に乗って別の惑星に行ったような感覚が味わえたからね。アイスランドには広大な自然が広がっているけど、東京には小さな公園とか神社仏閣が点在しているよね。きっとそこが街の肺の役割を果たしていると思う。

今回の『たちあがる女』は、割と文学の影響が大きいと言えるかな。たとえばアストリッド・リンドグレーンが書いた『長くつ下のピッピ』とかね。僕の映画は「コメディっぽい」と言われることもあるんだけど、実は最初からジョークを追いかけるような作り方は全くしていないんだ。僕にとっての“笑い”とは、シリアスなテーマを伝えるときに生じる“副作用”にすぎないんだよ。

僕はもともと舞台の出身なんだけど、僕にとって「舞台」はアイデアが次々と湧き出てくる「井戸」みたいな存在で、すべてのインスピレーションの源なんだ。そもそもアイスランドで上演される舞台には、とてもアバンギャルドなものが多いからね。

『たちあがる女』には、ウクライナの合唱隊とブラスバンドが主人公の守護天使みたいな感じで現れて、いきなり演奏したり歌ったりするシーンがあるんだけど、これも舞台に置き換えて考えたらそれほど珍しい演出じゃないよね。実際にギリシャ悲劇なんかでは、割とよく使われる手法でもあるから。

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『馬々と人間たち』から続投する個性的な俳優たち

僕の映画監督としてのデビュー作『馬々と人間たち』には、地元の知り合いや役者仲間がたくさん出てくれたんだ。主役を演じていたのは僕の奥さんだしね。「馬の身体の中で暖を取って生き延びた男」を覚えてる? ファン・カミーロ・ローマン・エストラーダという名前で、今回の『たちあがる女』にも「巻き込まれる旅人」役で出ているんだけど、実は彼はアイスランドでは有名な哲学者で、詩人としても活躍しているんだ。

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彼は『たちあがる女』の中で、何度も何度も警官に呼び止められて大変な思いをするんだけど、これはある種の普遍性を象徴しているシーンなんだ。島国に暮らしている人間は、何か事件や問題が起こるとすぐに外国人のせいにしてしまうところがあると思わない? 僕らの中には「知らない人は危険だ」という思い込みがあるからね。

つまり「外国人はスケープゴートになりやすい」という問題を示唆している描写である、とも言えるんだ。きっと日本もそうだと思うんだけど、僕の暮らしているアイスランドはとっても小さな島国だから、彼みたいな移民を必要としているんだよ。

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ヒロインを一人二役の双子にした理由

主人公を一卵性の双子にした理由の一つには、人間がもつ「陰と陽」の対比を見せたかった、という思いもある。妹のハットラは「幸せを手に入れるためには、まず自分が行動しなくては!」というタイプの女性なんだけど、彼女の双子の姉のアウサは仏教徒のヨガの先生で、自らを「より良い人間」まで高めることで世界を変えていこうとしているんだ。

人間にはもともとそういった2つの力が備わっていると僕は思うんだけど、この映画の主人公を双子にすることで、それらをうまく視覚化できるんじゃないかと考えたんだ。

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双子のハットラとアウサは、ハルドラ・ゲイルハルズドッティルという女優が一人二役で演じてくれたんだけど、僕とハルドラは10歳の時に一緒に国立劇場の舞台に立って以来、ずっと一緒に芝居を作ったり、映画に出てもらったりしている、仕事上の「姉弟」のような関係で、個人的にもすごく信頼を置いているんだ。ある意味『たちあがる女』に出てくる「いとこもどき」みたいな関係かもね(笑)。

『たちあがる女』には、よくあるヒロインを救い出すような男は登場しないんだ。ハットラのまわりには愛もあるし、情熱もあるし、友情もあるんだけど、いわゆる「女が男を必要としている」とか「男が女を必要としている」と言うようなコンセプトは、この映画には必要ないからね。

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ジョディ・フォスター以上にハリウッド・リメイクにふさわしい人はいない!

僕はジョディ・フォスターが『たちあがる女』をハリウッドでリメイクしてくれるのを、とても楽しみにしているんだ。というのも、実はアメリカこそが『たちあがる女』を一番必要としている国だと思うから。

北米は世界最大の汚染者であるにもかかわらず、政府は何も対策をしていない。北米には手付かずの自然もあるんだけど、アメリカ人はそこからガスやオイルを採取して、自然を汚染しつづけようとしている。だからこそハットラみたいに環境問題のために戦う人や、「グリーン革命」のようなものが必要になると思うんだ。

ジョディ・フォスター以上にアメリカ版『たちあがる女』の製作者にふさわしい人は、僕はいないと思うよ。彼女は素晴らしい監督であり、女優であり、アーティストでもあるからね。だから僕は一切彼女のクリエイティブの邪魔をするつもりはない。きっとジョディ・フォスターは「グリーン革命」における「自由の女神」みたいな存在になってくれるんじゃないかな。

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ベネディクト・エルリングソン監督自ら「ブラスバンドや合唱隊をどうしようが、完全に彼女の自由だよ」と話し、ハリウッド版についてはすべてジョディ・フォスターに一任しているという『たちあがる女』。まずはオリジナルをじっくり堪能したうえで、ハリウッドに置き換えたらどんな感じになるのかと、想像しながら何度もリピートする楽しみ方もできそうだ。

(文/渡邊玲子@アドバンスワークス)



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