2019/03/23 06:30

名子役と元名子役の好演が響く『こどもしょくどう』

(C)2018 「こどもしょくどう」製作委員会

今や全国に2,000以上を数えるという「子ども食堂」。それがそのままタイトルにとられた本作『こどもしょくどう』(3月23日公開)は、こうした場所が生まれる現代の日本を生きる子どもたちの声を丹念にすくいとったかのよう。それほど、心のよりどころを失った子どもたちの心の声が、この映画からは聴こえてくる。そして、その子どもの声を観客へしっかりと届けているのは、子役たちの確かな演技にほかならない。

セリフに頼らない子役・鈴木梨央の演技

『百円の恋』(2014年)で第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞し、近年は映画監督・小説家としてもデビューを果たしている脚本家・足立紳が、2年をかけたという練りに練ったシナリオ。そしてドキュメンタリー映画と劇映画の双方を往来して意欲的な作品を発表し続けている、日向寺太郎監督の確かな演出力。この二つの大きな力が本作を、社会の歪みに翻弄される子どもたちの声なき声をこちらへと届ける、秀でた「こども映画」にしたことは間違いない。

ただ、その期待に応えてみせた子役たちの演技もまた見逃せない。とりわけ、忘れ難い印象を残すのが鈴木梨央だ。

2013年にNHKの大河ドラマ「八重の桜」で主人公の幼少期を、その2年後に今度はNHKの連続テレビ小説「あさが来た」で主人公の幼少期とその娘役を演じ、すでに名子役として知られる彼女。本作ではさらにワンステージ上にいったような演技を見せている。

(C)2018 「こどもしょくどう」製作委員会

本作で彼女が演じるのは、父親の運転する軽トラックで寝泊まりしながら妹のヒカルと暮らす少女・ミチル。あてどなく進むうちに車は河川敷にたどり着き、そこで家族は暮らし始める。ところが、頼りの父親が失踪。学校にも行けず、その日の食事にも事欠く中、彼女は、主人公の小学5年生・ユウトと出会う。そして、ユウトの両親が営む食堂で食事をごちそうになるようになる。

絶望の淵にいる家なき子。そんな少女の心情を、鈴木は身をもってこちらへ届ける。しかも、ほとんどセリフを発することなく、まさに体で表現していく。

例えば、公園の水場で人目を気にしながら洗濯をするときの気恥ずかしさ、父親に言われるまま万引きするしかないときの恐怖と罪の意識、父親が姿を消したときの哀しみと怒りなど。こうしたミチルの感情を、その佇まいやしぐさ、目線の変化や目力の強弱で表す。

その体からにじみ出てくるような表現からは、ミチルの感情が痛いほど伝わってくる。その演技はきっと心に深く残る。そして同時に、彼女の演技者としての大きな可能性を見出すことだろう。

(C)2018 「こどもしょくどう」製作委員会

子どもたちを支える大人・吉岡秀隆の存在感

一方で、この子役たちの演技をしっかりと下支えしているのが、「大人の役者」である吉岡秀隆と常盤貴子だ。

主人公・ユウトの両親で、小さな食堂を切り盛りする夫婦が二人の役どころ。息子が連れてきたミチルとヒカルの姉妹に戸惑いながらも食事を用意する、いわばどこにでもいるようなごく普通の親の役だ。

人情味あふれるおばちゃんに完全になりきった常盤も新鮮だが、食堂のおやじに扮した吉岡が輪をかけて新鮮。

これまで、どちらかというと彼には、テレビドラマ「Dr.コトー診療所」シリーズのコトー先生のように、気の優しい男役のイメージが強い。弱く繊細な人間の中にある純真さや誠実さを体現してきた俳優と言っていいかもしれない。

しかし、今回の作品では、どちらかというとぶっきらぼうで頑固さもあるが、子どもの意見にも聞く耳を持つ、いまどきの父親を好演。世間一般の、どこにでもいるような父親として存在することで、親の気持ちや本心を伝える代弁者の役割を果たしている。その演技は彼の新境地なのではないだろうか。

これはあくまで推測に過ぎないが、吉岡のような、子役を経験してきた役者が子役たちを脇から支え、現場で大きな存在となって見守ったこと。これもまた、鈴木をはじめとする子役たちから、その能力を引き出した要因の一つかもしれない。

(C)2018 「こどもしょくどう」製作委員会

「北の国から」、現代へ。元名子役を通じて子どもをめぐる状況の変化を痛感

吉岡秀隆の存在について、もう一つ触れておきたい。彼の子役時代の代表作といえばやはりテレビドラマ「北の国から」と映画『男はつらいよ』の両シリーズ。本作『こどもしょくどう』は、吉岡秀隆という元名子役が存在することで、「北の国から」・『男はつらいよ』の時代から、子どもをめぐる状況がいかに変化したかを痛感させられる作品でもある。

端的に言えば、「北の国から」・『男はつらいよ』の時代は、子どもは愛すべき存在で、大人によって守られていた。ただ、今はそうとは言えない悲しい現実がある。その厳しい現実は、映画館で目の当たりにしてほしい。

(C)2018 「こどもしょくどう」製作委員会

子役たちと彼らを支える実力派俳優のすばらしい演技に裏打ちされ、見過ごしてはいけない日本の現実を見つめる名作となった『こどもしょくどう』。ぜひ注目してほしい。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)



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