2019/03/22 11:00

歌舞伎町の生きる伝説『新宿タイガー』はなぜ我々を魅了するのか

『新宿タイガー』出演:新宿タイガー ナレーション:寺島しのぶ
監督・撮影・編集:佐藤慶紀  配給:渋谷プロダクション
3月22日(金)より、テアトル新宿にてレイトショー公開(全国順次)

文=内本順一/ Avanti Press

初めて“新宿タイガー”に遭遇したのはいつのことだったか。暇な時間がたっぷりあって名画座で2本立て上映を観まくっていた頃だから、恐らく自分は高校生か専門学校生。ということは、もう40年近くも前になる。

今も昔も、新宿を颯爽と駆け抜ける街のシンボル

初めて遭遇したときにどう思ったかは覚えてないが、そりゃまあギョッとはしただろう。けど、名画座に行くとわりと頻繁にお見かけするようになり、そのうち「あ、観にきてらっしゃるんだな」と、同じ劇場で同じ映画を観ている状態を嬉しく思うようにもなった。

自分の隣の席に座られて、妙にドギマギしたこともある。暗くなって映画が始まるとタイガーはお面を外していたが、もちろん顔を覗き込むような失礼なことはせず、話しかけたことも一度もなかった。

あの頃からもう何年も経って、よく行っていた名画座の多くがなくなったり、改装してこぎれいになってしまったりした。街の風景も大きく変わった。日本は世界のどの国よりも街の風景が短期間で容赦なく変わっていくところだが、風景と共にいろんなものがどんどん変わっていくなかで、変わらずにいたのが新宿タイガーだ。

時代に応じてスタイルがアップデートされる……なんてことはない。たぶん身につけているぬいぐるみの数が少し増えていることと、花の種類が季節によって少し変わることぐらいだろう。

今でも新宿に行けばときどきお見かけする。歩くスピードが速く、新宿の街を駆け抜けるように颯爽と動いている。なぜだかホッとする。本来異端で、初めて見た人は「え?」となる存在であるはずなのに、変わっていく街を変わらないカッコとスピードで駆け抜けるタイガーに遭遇すると、不思議とホッとする。

新宿タイガーの謎に迫るドキュメンタリーが登場

ところで新宿タイガーは、いつから、どうして、新宿タイガーになったのだろう。一体どんな人なのだろう。昔はそんなことをチラと考えたことがあった気がするが、最早タイガーがあのカッコで街のどこかにいるのは当たり前のことであり、そういうことを考えなくなっていた。

『新宿タイガー』。ズバリのタイトルで、新宿タイガーのドキュメンタリー映画が公開される。昨年末に特報を観て、そこで改めて先の疑問が数十年ぶりに頭をもたげた。公開がとても楽しみだ。──と、ここまではこの作品を観る前に書いた文章である。

『新宿タイガー』は、虎のお面をつけ、初めて見た人をギョッとさせるくらい派手なカッコをして新宿の街で40年以上も新聞配達をし続けている“あのオジサン”に迫ったドキュメンタリー。監督・撮影・編集は、フリーランスのTVディレクターとして働きながら自主映画を作り続ける佐藤慶紀(『BAD CHILD』『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』)。ナレーションを寺島しのぶが担当した。

「こんなおもいっきり顔出しちゃっていいの?」

新宿タイガーが今何歳で、いつから新宿で暮らしているのか。そういうことは意外なくらい、あっさり明かされる。1948年生まれで、映画の撮影時は69歳(現在71歳)。50年近くを新宿で暮らし、24歳だった1972年にタイガーとして生きることを決意したそうだ。

それどころか、素顔もあっさり映される。ゴールデン街の行きつけの店で、タイガーと一緒に飲んでいる女優・宮下今日子が、カメラが回っていることを心配して言う。

「こんなおもいっきり顔出しちゃっていいの?」

タイガーは「ダイジョブダイジョブダイジョブ。マスクしてちゃ飲めないからね」とあっけらかんとしたもの。ここで「そっか、頑なに顔を隠してるわけではないんだ」と驚く人は多いことだろうし、自分もそうだった。

しかもタイガーはめちゃめちゃ明るく、よく喋る。自転車や早歩きで街を動いていく姿、あるいはひとりで映画館にいる姿を見かけて、孤独を愛するひとというイメージを抱いていた人は多いだろうが、実はひとと触れ合うことが大好きな、よく喋るオジサンだということがわかるのだ。

でも、よく喋るけど、肝心なことはやはり胸の内にしまってあるようで、映画が進むにつれてそのあたりが少しずつ語られたり、やっぱり語られなかったりするのが面白い。

いいところを見つけ相手を元気にする、愛の人

タイガーは「シネマと美女と夢とロマン」を愛し、それを生きる糧としている。この作品の柱も、まさにそれ。まずタイガーはシネマをこよなく愛す。休みの日は1日に3本ハシゴしたりする。

映画館という暗闇がまず好きで、どのあたりの席で観るかも大体決まっている。この作品でわかるのは、タイガーはジャンル関係なく観て、そして批評家のようにその作品を切ったりするのではなく、必ずいいところを見つけてべた褒めすることだ。対象の、いいところを見る。いいところを褒める。

それはシネマだけでなく女性もそう。その女性のステキさを見つけ(見つめ)、ひたすら褒める。褒め称える。毎日恋をし、想いを言葉にして相手に伝える。伝えまくる。そうやって相手を元気にする。愛の人なのだ。だから相手はニッコリする。だからモテる。それ、女性に対してだけじゃなく、男性に対してもそう。タイガーはひとが大好きなのだ。

そんなタイガーには夢がある。ロマンがある。「お金なんかありません。お金よりも夢ですよ」「金とか権力とか一切興味ない。欲しいと思わない。ただ美女のスマイル。これはいいですよ!」と満面の笑みで語るのだ。

タイガー通じて見えてくる、新宿という街自体の魅力

この作品はそんな新宿タイガーの優しさや純粋さ、ロマンや夢を伝えてくるものだが、それと同時にタイガーと関わりタイガーをずっと好きでいる女性たち(もちろん男性もだけど、やはり主に女性だ)の背景や生き方もあぶりだす。どうやらタイガーと関わると、みんな正直になるようだ。普段ひとに言わないことも、タイガーという存在を通してポロッと言ってしまうようなのだ。

それからもうひとつ、タイガーと、タイガーに関わるひとたちを通じて、新宿という街自体の魅力や担ってきた歴史的役割も描かれる。タイガーは言わばその街の証人だ。そしてタイガーは新宿という街をずっと見て、動き、肌で感じながら、その向こうに地球を見ているのである。

そんなタイガーには、夢とロマンともうひとつ、使命感ともモットーとも言えるものがある。「愛と平和」だ。ジョン・レノンから忌野清志郎までのロックミュージシャン、あるいは映画人や作家たちが様々なやり方で表現し続けてきたそれを、タイガーはあのかっこで新聞配達するという毎日の労働とある種のパフォーマンスによって表現し続けてきたわけなのだ。40数年間も!

自分の身ひとつで「愛と平和」を表現する

夢や理想、ロマンを語ることをやめて黙ってしまうひとも多いこの時代。けれどタイガーはいまもそれをやめず、追い続け、自分の身ひとつで「愛と平和」を表現する。世界の変容を嘆く前に、とにかく明け方から新聞を配る。この時代が悪いのだと決めつけない。時代のせいにしない。「未来が決める」と言い、その未来のために今日も新聞を配って、映画を観て、美女たちに愛を与えているのだ。

え? あのオジサンってそんなにかっこいいひとだったの? そんなに偉大な表現者だったの? さあ、それはあなた自身の目で観て、あなたの心が決めること。どうぞ劇場へ。3月22日公開。



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