2019/03/26 06:30

スパイク・リーは怒っている!その理由は『ブラック・クランズマン』にあり

Photo by Richard Harbaugh / (c)A.M.P.A.S.
 
【町田雪のLA発★ハリウッド試写通信 ♯26】
「LA発★ハリウッド試写通信」では、ロサンゼルス在住のライターが、最新映画の見どころやハリウッド事情など、LAならではの様々な情報をお届けします。

今年の米アカデミー賞授賞式で、影の主役ともいうべき存在感を示した奇才監督スパイク・リー。巨大なLOVE&HATEリングを両手にはめ、受賞スピーチでは奴隷制の歴史に生きた先祖に想いを馳せ、大統領にケンカを売り、『グリーンブック』の作品賞が許せなかった、その理由とは? 

その答えは、彼の最新作『ブラック・クランズマン』に詰まっている。リーの怒りの矛先を見つめながら、同作の魅力を紹介したい。

怒りの矛先1 いまだ根強い人種差別

『ブラック・クランズマン』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中 パルコ配給 (C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS

同作の題材は、黒人警官が白人至上主義の過激派団体<KKK>に入団して潜入捜査をするという、前代未聞の実話だ。時代背景やキャラ設定を大胆に脚色し、圧巻のエンタテインメントに仕立てたリーは、先日のアカデミー賞で脚色賞を受賞した。作品自体は、昨年のカンヌ国際映画祭で、『万引き家族』の最高賞パルムドールに次ぐ、グランプリを受賞している。

KKK入会案内の広告を見つけ、白人を名乗って潜入捜査をすることを思いついた黒人警官ロンを演じるのは、デンゼル・ワシントンの息子であるジョン・デヴィッド・ワシントン。どちらかというとシリアスな2枚目役で知られる父デンゼルとはひと味違う、おとぼけのコメディ・センスが最高だ。見とれてしまうほどのアフロヘアと、ふざけているのに生真面目な表情、常識をことごとく覆していく行動力を持つロンを、愛すべきキャラに仕上げている。

無事(?)、KKK地元支部の代表デヴィッドとつながり、電話を通じた対話のなかで信頼を得ていくロンは、ある日、デヴィッドと面会をすることになる。当然、自分が姿を見せたら、黒人であることがバレてしまう。そこで、ロンが代役を託すのが、アダム・ドライバー演じる白人警官のフリップだ。

“白人のふりをしている黒人のふりをする白人”というややこしい役柄に、嫌々ながらも入り込んでいくフリップの姿も、これまた秀逸。ロンとフリップのやりとりは、セリフも間も完璧なボケとツッコミを見ているようで、息ぴったりだ。ドライバーは、アカデミー賞助演男優賞にノミネートを果たしている。

こうしたコメディ・タッチが続いたのちのエンディングに、リーは人種差別にまつわる実際のフッテージを映し出す。2時間の警官バディ・コントを楽しんできた観客が受けるパンチは、深刻なドラマやドキュメンタリーよりも強く響くのだ。

怒りの矛先2 トランプ大統領

『ブラック・クランズマン』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中 パルコ配給 (C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS

同作の冒頭、アレック・ボールドウィン扮する白人至上主義の学者が「アメリカはかつてグレートだった」と嘆くシーンがある。

ボールドウィンといえば、米人気バラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」におけるドナルド・トランプの物真似コントでおなじみだ。冒頭のセリフは、トランプのスローガンである「MAGA(Make America Great Again/アメリカを再び、グレートな国に)」を揶揄した言い回しでもあり、リーの現政権への怒りが伝わってくる。

そんなリーは、アカデミー賞の受賞スピーチで、奴隷制度やネイティブ・アメリカ人の大虐殺などを経て、今の自分たちがいることを振り返り、祖先への想いを語った。その後、現政治へのメッセージを放ち、「再び、愛と良識、人間性を取り戻そう」と“MAGA”に対抗するかようなスローガンを提案。「2020年の米大統領選が迫っている。皆が一丸となり、歴史の流れに乗るんだ。“愛”か“憎しみ”か、道徳的なチョイスをしよう」と締めくくった。

リーは授賞式の間中、両手の指に“LOVE(愛)”と“HATE(憎しみ)”とかたどられた巨大リングをはめ、カメラが向けられるたびに、アピールしていた。

Photo by Mike Baker / (c)A.M.P.A.S.

さらに舞台裏のインタビューでは、大統領を直批判。2017年に米バージニア州シャーロッツビルで開催された集会にて、ヘイトクライムによる死者が出た際に、トランプ大統領が白人至上主義者たちを直接非難しなかったことなどを指摘した。

そのうえで、「作品賞を受賞しようとしまいと、この映画(『ブラック・クランズマン』)は、歴史の流れに乗って、後世に残るものになるだろう」と主張。同作のエンディングには、シャーロッツビルでの暴動のフッテージが映し出されるが、本来ならば、大統領から放たれるべきメッセージを、自身が映画を通して爆発させたということだろう。

対するトランプ大統領は、翌朝のツイートで「アフリカ系アメリカ国民に対し、過去のほとんどの大統領よりも、多くの貢献をしてきた大統領(自分)に対する、差別的なスピーチだ」とリーに反論している。

怒りの矛先3 白人視点の人種テーマ映画

『ブラック・クランズマン』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中 パルコ配給 (C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS

『ブラック・クランズマン』は、今回のアカデミー賞作品賞にもノミネートされていたが、結果的に、受賞を果たしたのは『グリーンブック』。黒人の天才ピアニストと白人の用心棒が、人種差別の激しい米南部の旅を通して友情を築くロードムービーだ。授賞式で『グリーンブック』の受賞が発表された際、リーは怒って離席した。

その理由について舞台裏で、「誰かが誰かを車に乗せて走る映画に、俺はいつも負ける」とぼやいたリー。この背景には、1990年のアカデミー賞において、自身の代表作である『ドゥ・ザ・ライト・シング』が高評価を受けながらもノミネートすら逃した一方で、黒人運転手と白人女性客のロードムービー『ドライビング Miss デイジー』が、作品賞ほか4部門を制したことがある。ただ、この冗談交じりの愚痴の裏に、リーの根深い問題意識があることは明らかだ。

アカデミー賞で『ブラック・クランズマン』の作品紹介をしたバーブラ・ストライサンドと Photo by Todd Wawrychuk / (c)A.M.P.A.S.

例えば、『ブラック・クランズマン』の冒頭で、クラシック映画『風と共に去りぬ』(1939年)のシーンが、皮肉なステイトメント(声明)として映し出される。名作と仰がれる同作は一方で、南部の白人視点で描かれた作品として、批判の対象にもなってきた。

リーは以前、米「タイム」誌のインタビューで、学生時代の校外授業で同作を観た後に、「歴史的な忠実性や、同作のなかの黒人メイド役が、いかにステレオタイプであるかについて、なんの議論もされなかった」ことに違和感を覚えたと語っている。「『素晴らしい映画だったでしょう?』で終わりだったんだよ」という当時の怒りを、『ブラック・クランズマン』の冒頭に込めたのだろう。

プレゼンターのサミュエル・L・ジャクソンに飛びつくスパイク・リー監督 Photo by Aaron Poole / (c)A.M.P.A.S.

こうしたリーの問題意識からすると、白人フィルムメイカーたちの視点で描かれた美談としての『グリーンブック』に不満があったとしても理解できる。『グリーンブック』が映画芸術としては感動作であることを認めつつも、社会的な側面からは受け入れられないと主張する声も多い。

米「ハリウッド・リポーター」紙に寄稿した映画ライターのリチャード・ニュービーは、「『ブラック・クランズマン』は、アメリカの人種差別の傷を直視させ、その癒し方を見せつつも、治癒するには時間がかかり、傷跡が消えることはないことを示す映画。『グリーンブック』は、縫合が必要なほど深く開いた傷に、絆創膏をかぶせるような映画」と表現。これがリーの思いと完全に重なるものなのかはわからない。しかし、これに近いフラストレーションが、彼の離席に関係していることは想像に難くない。

『ブラック・クランズマン』TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中 パルコ配給 (C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS

こうして怒りを書き連ねると、シリアスな社会派映画のようにも聞こえてしまう『ブラック・クランズマン』だが、究極のエンタテインメント作品でもある。テンポよく笑えるコメディ性と、正義感と道徳観が湧き上がるドラマ性、目を背けてはいけないと感じさせるドキュメンタリー性の3段階で迫ってくるため、見ごたえ抜群だ。



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