2019/03/30 11:00

全盲で映画は作れるのか?その問いに答える1本の映画

(C)一般社団法人being there インビジブル実行委員会

“生まれた時から目の見えない人間が映画を監督する”――「それは無理だろう」と考えるのが大半の意見かもしれない。そもそも、「そんな試みは無茶だろう」と、心のどこかで決めつけていないだろうか?

『ナイトクルージング』(3月30日公開)は、そういったわたしたちの中にある“常識”を覆す。全盲の男性・加藤秀幸が『ゴーストヴィジョン』という映画の監督に挑戦する姿に密着した、ドキュメントだ。

全盲だろうと映画は作れる

はじめに結論から言ってしまえば、「全盲だろうと映画は作れる」。

重要なのは、なにかを一から生み出す、創作への意欲があるかないか。その志こそがすべてで、その気持ちさえあれば、映画作りにおいて目が見えるか見えないかは、あまり関係はない。

健常者でも、映画作りに向いている人もいれば、向いていない人もいる。それは視覚障がい者においても同じこと。そのことを主人公の加藤は体現し、証明する。

(C)撮影:大森克己

映画作りに挑むのは、生まれつき目の見えない全盲者

今回、映画作りに挑む加藤は先天性全盲。つまり、生まれつき目が見えないので、そもそも視覚がどういうものか、彼の中では想像するしかない。もっと言えば、世の中のあらゆるものを彼は、世間一般で言うところの「視覚」ではとらえていない。

ただ、目が見えないからといって、「何も見えていない」、「何も見ていない」とするのは、こちら側の勝手な思い込みに過ぎない。

わたしたちが心の中で考えたことを、知らず知らずのうちに抽象的なイメージでビジュアル化していると同じように、きっと彼の中にも、視覚以外の感覚でとらえ、イメージした世界がある。“見えている世界”が確実にある。そう周囲を納得させるほど、加藤のイマジネーションは豊かだ。

ベーシストとしてバンド活動をしていたり、頭が痛くなるほどの細かい作業を要するプラモデル作りが趣味であったりということからもわかるように、加藤はものづくりが好きで、アーティスティックな感性の持ち主。その独自の感性によって自身の思い描く世界の脚本を書き上げ、目の見えるスタッフと映画化を目指す。

(C)一般社団法人being there インビジブル実行委員会

“見えない監督”と“見えるスタッフ”の意思疎通

ジャッキー・チェン映画が大好きな加藤が作り上げようとするのは、近未来を舞台に、全盲の男と目の見える相棒が「ゴースト」と称される存在と対峙するSFアクション映画『ゴーストヴィジョン』。

“見えない監督”と“見えるスタッフ”がそれぞれのイメージを共有するところから始まる映画作りは、当然のように困難が続く。でも、そもそも映画作りというのはおおよそ困難がつきまとうもの。監督とスタッフの意思の疎通は、通常の映画制作においても難しいことの一つだ。そう意味で、全盲監督だからという違いはない。

(C)一般社団法人being there インビジブル実行委員会

映画制作は紆余曲折を経て、一般の映画と変わらない、きわめてオーソドックスなスタイルの映画作りと映像表現に集約されていく。ともすると、“全盲の監督ならではの新しい映画作り”を期待していた人は、ちょっと肩透かしをくらうかもしれない。

ただ、そのオーソドックスな制作過程ゆえに、本ドキュメンタリーはある意味、驚きの事実を浮かび上がらせる。それは、全盲の加藤が実に映画監督に向いているということだ。

監督のもつ明確な“ヴィジョン”

本作を観てもらえればわかるのだが、加藤の指示や指摘は実に的確。その指示を受けたスタッフは、なんとか監督のイメージを形にしようと、アイデアをいろいろとひねり出す。それに対し、加藤は自分のイメージ通りか否かをはっきりと言葉で伝える。このやりとりで、現場の士気が高まっていくことが見て取れる。

色や衣装にもこだわりがあり、「ここはこの色」、「この衣裳はこうした感じ」と自分で担当者へと伝える。加えて、演出もなかなか。なかでも、やはり声の演出に関しては相当なこだわりよう。

作品はCGや実写の混じったものになり、登場人物はすべてアフレコとなるのだが、加藤はキャスティングした山寺宏一や石丸博也らに、「ここはこのぐらいのトーンで」と細かく指示を出していく。聞くところによると、「ここは違う」と、撮り直しを決めたシーンもあったという。そう、彼には確固たる“ヴィジョン”がある。

(C)一般社団法人being there インビジブル実行委員会

変な話、撮影は助監督と撮影監督に、演技は役者にお任せという現場がないわけではない。対して、加藤の姿は間違いなく“映画監督”だ。映し出される映像からは、映画現場の熱い空気が感じられる。映画の現場を少しでも知っていたら、そのことは感じてもらえることだろう。

全盲監督のデビュー作はその目で!

ただし、加藤が監督に向いていようと、熱い現場になっていようと、それが評価に直結するかはわからない。それもまた映画。心血注いだ作品が「駄作」と言われることもあれば、肩の力を抜いて作った作品が国際的評価を得ることもある。巨費を投じて作ったものが大コケすることもあれば、低予算で大ヒットする作品もある。加藤秀幸監督の作り上げた短編『ゴーストヴィジョン』(『ナイトクルージング』劇中にて上映される)の出来については、その目で直接見て判断してほしい。

ただ、『ゴーストヴィジョン』が受ける評価に関わらず、加藤監督にはまた映画作りにチャレンジしてほしい。いい意味で、“見える”側の「こうあるべきだ」といった映像に対する先入観や思い込みが、彼にはない。そこに大きな映画の可能性を感じるのは、筆者だけだろうか?

(文/水上賢治@アドバンスワークス)

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